2ー2
「そんなに気張らなくていいよ? ふだん通り、と言ってもまだほんの四日だけど、それでもいつもより少しだけ緊張感を持つくらいでいいんだ」
「こうですか?」
あたしはぴしっと背中を伸ばした。
「だから気張りすぎだって。そうだなぁ」
そう言うと、楓さんはあたしのすぐそばに近づいて、頭をやさしくなでてくれた。
「こういう感じなんだけど、わかる?」
思わずひゃあと口から悲鳴がこぼれるくらいの美形っぷりに、楓さんが笑う。
「そう。そのくらい肩の力を抜いていいよ。でも、命を預かっているという気持ちはわすれないで」
「はいっ」
というわけで、お散歩開始。最初はわたわたしていたあたしとカブラくんだったけど、だんだんカブラくんがあたしの顔を見るようになってきた。
「そう、顔を見たらやさしくほほ笑んであげて。だいぶ主従関係ができてきたね。それくらいでいいよ。里奈ちゃんは、掃除も得意だから、カブラくんともっともっと仲良くなれると思うんだ」
カブラくんと仲良しに。うれしいなぁ。
しばらく歩き進んで行くと、前方からゴールデンレトリバーがひとりで走って来るのが見えた。あたしは反射的にカブラくんを抱き上げる。
「どうしたんだろう? 里奈ちゃん、気をつけて」
そう言うなり、リードを引きずったゴールデンレトリバーからあたしたちをかばうように、楓さんが立ちふさがった。
「どうしたの? ほら、いい子」
すぐそばに近づいたゴールデンレトリバーに、おやつのささみを持って接したけれど、その子は、おやつなんて見えてないかのように、楓さんに向かってワン! と一回吠えた。
それから、踵を返して来た方向へと走り出す。
あたしたちも、その子を追うように走り出した。
「待って! よし」
楓さんは驚異の運動神経でリードをつかむと、ゴールデンレトリバーと共に走り出した。
どんくさいあたしが追いついた頃には、楓さんがどこかに電話をしているところだった。
ゴールデンレトリバーは、うずくまっている人影へと心配そうにくんくんと鳴いていた。
「そうです。至急お願いします」
そのおばあさんは、苦しそうにうめき声をあげながらも、大丈夫よ、マカロンちゃんとゴールデンレトリバーに話しかけていた。
「失礼ですが、なにか持病はお持ちですか?」
楓さんはおばあちゃんにやさしく話しかける。
「心臓が。それよりマカロンちゃんをお願いしてもいいかしら?」
「よろこんでお受けいたします」
おばあちゃんを安心させるためとは言え、そのきらきらの笑顔はかえって毒ですよ、楓さん。
つづく




