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【みんなの夏休み:第20話:島ともおわかれです】

嵐で薄暗いロッジの中では、キャーキャー言いながらも楽しそうに怪談が続いていた。

アミュアも気にし過ぎかな?と緊張を解いてユアにあらためてくっつきに行った。

ぺたりと腕にくっつくと、ユアが優しい小声で伝えてくる。

「魔法で反応なかったのだし、大丈夫だよ」

そういってアミュアの頭を撫でてくれる。

にこりとアミュアもユアを見た。

「へいき。気にしすぎだったきっと」

そうしてしばらくは平穏に不穏な怪談が続く中、いよいよピークなのか風と雨がひどくなった。

ピカッ!と外が一瞬明るくなり、ゴロゴロゴロゴロとおどろしい雷鳴が響く。

『キャーーー!』

合わせて悲鳴の合唱。

ドン!ドン!ドン!

『キャーーー!』

今度は玄関を叩く音。

「QjaOsoufHugH!EWmaowAMimFawp!」

何かおぞましい呪文のような太い叫びもかかった。

ピカッ!ゴロゴロゴロゴロ!

ドン!ドン!ドン!

今度は両方来た。

『キャーーー!キャーーー!』

悲鳴に参加しない人員。

すなわちハンター組が玄関に配置につく。

打ち合わせ無しでも、すばやく動けるのはそれだけの場数を踏んでいるからだ。

ユアがすばやく内側の玄関を無音で開け、固定する。

正面にノア、その後にカーニャ。

その斜め後に後衛のアミュアとラウマが射線をとる。

クロスファイヤの配置である。

ノアは身を沈め影の爪がぞろりと出ている。

ユアが間髪入れずドアを開け横にどいた。

これで入室してくる相手なら、5人の火力が集中する。

「たすけてください!!お嬢!!」

ドアが開いたので、おぞましい呪文は男の悲鳴になった。




「なあんだ‥びっくりしちゃったな」

のほほんと変わった空気でユアがドアを閉め戻って来る。

マッドルームではびしょびしょのガストンさんが、タオルでふきふきされていた。

エーラが手を焼いている。

「どうしてこんな無茶をしたのよ」

ガストンはすまなそうに答えた。

「いえ、すんません。見つからずに帰る予定だったんですが。嵐が酷くなりすぎてしまって」


ガストンさんは、出港式の後、高速小型艇で追い越して、島の入港準備に行く人員とともに来たのだという。

内々にロレンツォから指示ももらっていて、見つからずに見守るように言われていたと。

桟橋からビーチ奥にいって林に潜み、遠くから見守っていたこと。

嵐が来てから、建物が心配で近くまで見に来ていたこと。

裏側で維持作業用の小物を入れた小屋が倒壊したこと。

いよいよ満潮になり居場所がなくなり、助けを求めたと。

アミュアは一つづつ聞く度に納得を得ていた。

(あしあとも横切った影もガストンさんだったのか)

「ほんと面目ない。おやじにも怒られちまいます」

ちょっと涙目のガストンさん。

「大丈夫パパには内緒にしておくわ。ありがとうガストン心配してくれて」

きゅっとハグするエーラは、船員達にも実は家族のように優しいのだ。

波が高い中、船も時々見てくれていたのだ。

荒れた港は非常に危険なのだが、熟練の船乗りたるガストンには可能な(わざ)であった。




ガストンさんの服をエーラとミーナも手伝って生活魔法で乾かす。

「うむミーナじょうずですよ、いい制御です。エーラもそのまま維持です」

監督しているアミュアも腕組でご満悦。

そうしてお昼ごはんの準備も平行していると、風が収まっていきさあっと光が差し込む。

「すごいよ!みんなみて!」

窓にはりついて外をみていたノアが呼ぶ。

それはなかなか見れないレベルの大自然のショーであった。

東向きの窓から見える雲が恐ろしい速度で流れていく。

切れ目から光のカーテンが海に注ぎ、光線の乱舞を見せていた。

「これはすごいわ‥‥」

誰が言ったか感嘆の声も、漏れた。

玄関から先立って飛び出したノアとユアが外で声を上げた。

「すごいすごい!みんなきてー!!」

がやがやと騒ぎながら全員で追いかけた。

ロッジの背後には薄っすらとだが綺麗な虹が大きくかかっていた。

それも二重にかかる虹が空中に大きなアーチを描くのだ。

すでに薄れゆく一瞬の幻に、心打たれ声も出ないみなが見上げるのであった。

ガストンさんですら笑顔になり見上げていた。

「これはついてますぜ、お嬢様がた。なかなかみられねえもんですわ」

熟練の船乗りですらなかなか見れないと言う自然のショーは、不穏だった空気を全て吹き飛ばし、バカンスを取り戻してくれたのだった。




その日の午後は綺麗に晴れ上がり、嘘のように薙いだ海を楽しんだのだった。

ロッジの壁に吊ってあったシーカヤックをガストンさんが下ろしてくれて、かるくレクチャーするとノアやユアが覚えて少し先の環礁のなかにくりだすのだ。

ガストンさんとエーラは船にかかりきりで補修をしていた。

どうしても荒れ模様にさらすと、傷んでしまう部分があるのだと言う。

そういった補修用の資材や道具は船に備えてあるのだった。

「おーい交替したい人はこっちまで泳いできてよぉ!!」

ユアが大きな声でさけぶ。

シーカヤックは二人乗りで、二艘あったのでノアとユアがそれぞれチーフとして乗り込んで前席に慣れない子をのせて回ってみせていたのだ。

荒れた海が環礁の中では少し濁ったが、沖にでると素晴らしい色合いを見せてくれるのだ。

外から見る環礁も宝石のような美しさをくれる。

だんだんと夕日になりつつある日光も柔らかくなり、最後かなと出港したのはユアとカーニャ。

ノアはもう疲れたといってガストンさんに手伝ってもらい片付け始めた。

「すごい‥‥海が燃えているみたい」

夕日のショーにすっかり魅入られた二人は穏やかな波に揺られ、うっとりと眺めた。

水平線の向こうに日が沈むと紺色が優勢になっていき、複雑な色を見せた。

ユアのセリフが実はユラ海のレストランでつぶやいた母と同じだったことは、神にしか判らない偶然だった。

そろそろ暗くなっちゃうからと名残惜しそうに戻る二人であった。




その日の夜は船で休んだガストンさんと、ロッジではあいかわらずの姦しさであった。

翌日も晴天になり、穏やかな一日になりそうだった。

天気を心配していた他の船員たちが朝早くにボートで来て、片付けとかはこっちでやると言ってくれたので、甘えて朝から舟遊びに出るのであった。

後部甲板からロッジを何人かで眺めていて、ふとアミュアは昨夜の会話を思い出す。


ーガストンさんはさいしょロッジにいたんですか?

ーーーいえ?ロッジには一度もはいっていやせんぜ?


小さくなっていく島のロッジを眺めながらアミュアは思う。

(最初に見たロッジのなかの動いた影‥‥あれはではなんだったのだろう)

アミュアは幸い誰にもその事は言ってなかったのだった。

特にカーニャには言えないなとも。

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