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【みんなの夏休み:第18話:硬い夕辺、柔らかな夜】

マルタ商会の下にも参加の商会や商人が多く、そういった人員との打ち合わせや指示は本社ビルの下に表から行ける別棟がある。

先ほど上位者を向かえたように、いまは下位の者を待たせているのだ。

一旦地上にでて通路をすすめば、背後に夕日とマルタ商会本社を背負いながら入室する。

入室すると直立不動で待っていた若い男。

若いが、傘下の商会では一番の稼ぎ頭で、ロレンツォも気に入っている男だ。

きっちり深く礼をする男。

「お疲れ様です会頭」

言葉をかけなければ、いつまでも微動だにしないと感じられる潔さだった。

ソファに座ったロレンツォが声をかけた。

「まあ座れよ。少し面倒な話かもしれん」

無言で着席する男は体付きだけみれば船員達と変わらないが、まとう空気が違う。

「人を探している。この男だ」

名前の書いた紙をわたす。

「ちなみに知った名だったか?」

ロレンツォの質問に即答する男。

「バレンシュタイン伯家の家令長です」

きれる男は違うなと感心するロレンツォ。

「危ない橋になりそうか?」

これには少しだけ考えて答える。

「問題ありません」

頷いたロレンツォは男を危ぶんだ。

(問題ないなら即答だったろうに)

それでも彼に頼むのがもっとも確実なのだ。

「たのむ」

それだけ告げると立ち上がり、退室した。




ロレンツォは愛妻家だ。

娘エーラを溺愛する父として、妻もまた深く愛していた。

マルタ家の奥まった寝室のさらに奥に、地下室のように広げられた妻の病室がある。

体力を奪う病のため、光や音を避ける必要があるのだ。

娘をここに連れてくることはほとんどできず、年に数回短時間しか会えない。

広い室内の中央に天蓋付きのベッドがあり、控えめだが心のこもった作り。

ロレンツォも触れず、専属のメイドだけが近くに座る。

医者も魔導師も投げ出した奇病に、いま施されているのは体を保つための治療のみ。

レースのカーテン越しに声を掛ける。

「昨夜はエーラの友達が来ていて、少し騒がしかったね」

優しい低い声に、か細い声が返る。

「ええ‥‥とても楽しそうな気配がここまで」

ロレンツォは辛抱強く待つ。

「エーラはよい友だちが出来たようですね。うれしいです」

たったそれだけの言葉を告げるにも息の乱れを感じるロレンツォ。

苦しいのであろう。

言葉を伝えるだけで。

これはそうゆう病なのだ。

「エーラはとても良い子に育ったよ。友達をみればそれがわかる」

苦しみを耐える妻を思うロレンツォ。

その瞳にも涙が浮かぶ。

娘を抱きしめさせてあげたいと願うが、重い沈黙が二人を包むだけだった。

「もう少しだけ頑張るのだよ。きっと薬を手に入れるから」

苦労して優しい声を出すロレンツォ。

彼には希望があった。

あらゆる病を癒すと伝えられる魔法薬――製法は失われたが、ポルト・フィラント商工会の上位者が所持している可能性が高いと情報を得ていた。

薬の情報を小出しにされ忠誠を試される構造は、外から見れば馬鹿げている。

だが渦中にあるロレンツォにはどうしても手放せない。

かすかな望みにすがるしかなかったのだ。




島のロッジには4人まで同時に使えるシャワールームがある。

細長いタイル地の部屋に仕切りだけついた半個室が4つ並び、ここにシャワーがあるのだ。

ホテルのような豪勢な前室もあり、大きな鏡は化粧用であろう。

魔導乾燥ドライヤーと言う、高級な髪を乾かす設備も有った。

交替で入ろうねとなって、今はレティシアと侍女達、エーラが入っていた。

食事はハンターグループが作るよ、となったのだ。

「しかし、見れば見るほどエーラはすごい体だな」

隣のブースから背の高いセレナが上から覗き込む。

エーラはカーニャに匹敵するナイスバディだった。

「やめてよ!私あんまりこの体好きじゃないのよ」

とは泡だらけでも色々と隠しきれない、立派な体だった。

腰のくびれがしっかりあるので、なおさら上下のボリュームが強調される。

「ほんとね、これで運動してないとかズルイですね」

これは反対側から覗いたフィオナ。

フィオナは実家の教育の一環で、体型維持も義務付けられ適度な運動も組まれているのだ。

「ふえー、フィオナぁ。シャワーがだせないの。てつだって」

髪を自分であまり洗わないレティシアが頑張って自分で洗っていたのだが、泡で前が見えなくなったようだ。

「もう、だから洗ってあげるといったのに」

そう言いながらもちゃんと手伝って流してあげるフィオナは言うほど不満がなさそうである。




夜ご飯はハンター料理をごちそうするといって、ユアが張り切った。

メインは丁寧に煮込まれた魚介のホワイトシチューだった。

マルタ商会の協力で、やたら豪華な海鮮素材があったので具沢山。

あとはサラダとパンだけの質素なものだが、これは屋外の出先でハンターが作るものよと、カーニャが説明を入れた。

シチューのベースに携帯食のバーが使われていて、独特のコクがあるのだった。

少量でも栄養を補給し、少し体力回復効果もある薬剤も入っている。

そういった手順や素材の違いがハンター料理っぽさを出すのだ。

学院組は初めての味に少しだけ戸惑ったが、噛み締めた味の複雑さに感動を覚えた。

遊び疲れた体も栄養を求めていたのだろう。

人は美味しいものを食べると、元気に明るい気持ちになるのである。

食後はお茶を飲みながらあちらこちらと、グループに分かれ楽しげに過ごしていた。

カーニャとユアがこっそり持ち込んだワインを二人で飲みながらソファを一つ占領していた。

そこにセレナとフィオナが嗅ぎつけてきて、実はこっちにもと二人が持ち込んだリキュールを出してきた。

そうして大人組となった4人で少しアルコールも入り、しっとりおしゃべりとなった。

ミーナが眠いと言い出して、アミュアに連れられてロフトに上がった。

レティシアも一緒に上がり3人でベッドに入ったようだ。

ちょっと怖い話で盛り上がっていたノアとエーラがふわわとあくびをしてロフトに上がる。

ラウマもユアにちらりと手をふって、一緒に上がった。

ユアもお願いねといった感じで手を立てて見送った。

そうして、残った4人でチーズとスナック菓子をつまみに遅くまで話し込んだのだった。

朝起きてきた早寝しちゃった組が、ソファで抱き合って眠るユアとカーニャ。

そして珍しいフィオナがセレナを包むように抱っこする姿を見るのだった。

セレナの甘え上手がここで明かされたのだった。





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