【みんなの夏休み:第16話:バカンスのはじまり】
桟橋からロッジに向かう道は茶色の木でできた歩道が繋いでいる。
進むに連れすぐ横が海から砂浜になり、最後は岩混じりの島本体となる。
「環礁が有るから、基本高い波はこないのよ。あとで皆でビーチにいってたのしもうね」
先頭をあるくエーラが説明しながら進む。
「他には人は住んでいないのですか?」
すぐ後を歩くレティシアから質問。
レティシアは腰が閉まっていないふわりとした白のミニワンピで涼しげに長い脚をだしていた。
フィオナとセレナも白ワンピースなので、3人お揃いの姉妹のようだ。
3人とも麦わらを被っているのもお揃いだ。
「そうなの、ウチの建物以外は建ってないし、基本無人島なのよ」
答えるエーラは白いセーラー服に同じ色のキュロットスカートがこれも涼しげ。
可愛い朱色のスカーフがゆれる。
ぞろぞろ後にならぶ全員が偶然白を選んで、おそろい集団であった。
木の歩道は、しっかり作られているが、潮がここまでかかるのか縛ったロープや人が歩く部分は劣化が見える。
一番後はアミュアが歩いているのだが、ふと気になって隣接する砂浜をじっと見た。
(誰もすんでいないといいました)
アミュアの視線の先にはビーチを横切る大きな靴跡が一組残っていた。
見に行ってみたかったアミュアだが、皆に置いていかれそうになって白いツバ広帽を押さえ慌てて追いかけた。
近くまで来ると意外に大きいロッジ平屋だが屋根は高くロフトも有るようだ。
茶色の太い木材は、島にも何本かあるヤシだろうか?
防腐剤で焦げ茶色に染まる壁材は思いがけず太く頑丈なものだった。
隙間にもなにか埋め込んであるのか、雨風にも強そうではある。
作りに反してしっかりしたアルミ製のサッシと玄関ドア。
小さなガラス窓は少し高い位置にあり、明り取りだろう。
小さいながら芝生の庭も有り、スプリンクラーがくるくる水のアーチをまわしている。
そのきこきこいう音にアミュアは何故か懐かしさを強く感じるのであった。
金枠に覆われた意外と丈夫そうな重いドアをあけるエーラ。
「さあ、みんなで手分けして窓あけてあるいて!すごい温度だわ」
エアコンの操作をしつつ、全員に指示を出すエーラ。
『はーい』
入口脇にエーラに倣って荷物を置いて、中から見ても広いロッジを探検しにいく面々。
「わぁすごいロフトも大きいよ!」
元気にはしごを上ったのはノア。
スカートの中が丸見えだが、女子しかいないのでセーフであった。
「ノアちゃん右側にも窓あるから一旦開けてね」
エアコンは送風換気で回し、一旦熱気を抜く作戦だ。
「開けたら着替えてビーチに集合ですよ!」
言いながらすでに脱ぎ始めたエーラ。
さすがの準備のよさか、中には水着を着込んでいた。
セーラーを脱ぐと、かわいいピンクのビキニが現れるのだった。
ドアを見ていたアミュアが気づいて問う。
「エーラ、どうして内側も鍵穴があるの?」
下も脱いでピンクのビキニになったエーラが言う。
「なんでだろうね?間違えちゃったのかな?作るとき」
こうしてアミュアの疑問は流されてしまうのだった。
ざざーん‥‥しゅわしゅわしゅわと柔らかな波が寄せては返す。
そこになにか面白さがあるのか、しゃがんだアミュアはじっと波打ち際を見ていた。
今日は白いワンピースのハイレッグに、水色のすけるパレオと同じ素材の半袖カーディガンを羽織っている。
(あしあとは波できえるもの)
自分で歩いて実験したので間違いない事実だと解ったアミュア。
(あの足跡はそんなに昔のものではなかった?)
アミュアが気になった足跡は、遊びに来た時にはもう無くなっていたのだった。
ざぱあーん!
流石に水深が深くないので、ユアのジャンプも低めで回転もなしだった。
イルカの群れのように、少し深くなった沖でユアとカーニャとノアが並んで泳いでいた。
何気にカーニャもお化けフィジカルであった。
最近準備よくサンオイルを塗るようになってからは、酷い日焼けにはならないようだ。
そしてカーニャにオイルを塗るのはアミュアの仕事になりつつあった。
今日は快晴で、風も穏やか。
水平線にはもくもくと巨大な夏の雲が流れていた。
ビーチの陸側の端で、エーラを中心にレティシアとラウマが手伝い、バーベキューの準備が進められていた。
とはいえ、焼く素材はマルタ本家の料理人たちが、昨夜の内に準備し串がもう打たれたものだ。
今はコンロ二つに炭を起こしいているのだった。
生活魔法が得意な学生たちのこと、手際よく準備は進み焼き始めるのであった。
横にはセレナとフィオナがせっせとテーブルセットとパラソルを設置していた。
飲み物を冷やしたクールバックも二つ置いてある。
手分けして整えられていくバーベキューには、楽しい空気がふんわりと流れるのであった。
「ただいまー!おおごめんね何か手伝うよ」
満足したのかユアがカーニャを伴って戻る。
うしろでは恒例のノアとアミュアのギャーギャーも着いてきた。
「ひいふうみい‥‥あれ?一人足りなくないですか?」
ラウマがグラスを出しながら人数を確認していく。
ざわざわとしだしたところで、ロッジのほうからミーナが駆けてくる。
「ごめーん、ちょっとトイレいってたの。手伝うのまだあるかな?」
ほっと空気が弛緩した。
「もう、離れるときは誰かに言ってからいくようにねミーナ。心配しちゃうじゃない」
とはカーニャおねえさまであった。
そうして全員が揃う頃には焼き上がった魚介類やお肉の串が、テーブルに並びだしたのだった。
香ばしい匂いにきゃいきゃい騒がしさが戻るのだった。
ふと、アミュアは誰ももういないはずのロッジ内に人影をみた気がしたが、ノアに引っ張られて椅子に座る頃には忘れてしまうのであった。
こうして島でのバカンスが楽しげに進んでいくのだった。




