【みんなの夏休み:第8話:レティとセレナとフィオナが仲間になった】
翌朝はまた大変なイベントがあった。
恒例のアウシュリネ参りである。
早朝まだ暗いうちにアミュアとミーナが起き出して、室内を見に行く。
ラウマにだっこされるノアと、ユアにだっこされるカーニャをそれぞれのベッドで確認すると、手分けして起こしてまわるのだった。
苦労して外に連れ出した頃には東の空が明るくなってきていた。
「はい、それでは皆さんお祈りの時間ですよ!」
ミーナの音頭で6人横並びでお祈り。
アウシェラ湖畔で日の出の瞬間、無言のまま約束を交わし、願いが揃ったなら、女神アウシュリネはその約束を叶える。
そう伝承にあるのだった。
目を閉じ手を合わせる6人は、打ち合わせ無く無言で同じ願いを祈っていた。
王都への道のりを、今度はカーニャとミーナが先行して準備をすることに。
夜霧なら夕方には王都につくのだ。
ユア達は頑張っても3日はかかるので、その間に合流する予定のヴァレンシュタイン家に行って準備を進めておく事となった。
夜霧の指輪はカーニャが借りて、姉妹は風のように王都に向かった。
午後も遅くなる頃、少し街道をさけ遠回りしたにも関わらず、夜霧は王都まで駆け抜けてくれた。
「ありがとう夜霧。いつも助かるわ」
カーニャは夜霧とはもう何度も旅を共にしていた。
首を撫でてあげると体を擦り付けてすっと影に消えていった。
「何度見てもすごいよね夜霧。あれ魔法じゃないんだね」
魔法学院で魔法を勉強しているミーナは、魔力に敏感だ。
「そうそう、魔獣のスキルなんでしょうね。闇魔法にも似たのがあるけどね」
大抵の魔法が得意なカーニャだが、闇魔法は適性はあるが苦手だ。
王都には流石に夜霧の入街許可をすぐ取れないので、郊外で下りて歩いて王都に入った。
カーニャの用があったのでハンターオフィスによって、カーニャの常宿にしているホテルに入った。
「姉さまいいところに住んでらっしゃるのね!すごいわ」
王都でも内壁の中を除けば1,2の高級ホテルで、部屋も豪華なスイートだ。
王都魔法学院の女子寮にいるミーナも初めてきた。
この一室をカーニャは年間契約で借りていた。
もちろんフルサービスでだ。
少なくともミーナが学院にいる間は、ここで目を光らせようと思っているカーニャであった。
荷物を置いたら良い時間になったので、ラウンジに食事に行った。
ちょっとだけフォーマルに着替えた二人は、レストランで打ち合わせる。
食前酒をカーニャは嗜み、ミーナはお茶にしてもらった。
「そうなのね、仲良くなれたのは良いことだわ」
少し去年の入学からの話をして、バレンシュタイン伯爵家の娘と仲が良いと伝えたミーナ。
「レティはとっても美人さんなのです。アミュアと良い勝負なの」
「へえ?それはそうとうね。実際令嬢はみな綺麗な人が多いのよね」
自分たち姉妹のことは棚に上げて話す二人であった。
「それでお手紙はだしていたのですが、詳しい打ち合わせもまだ出来ていないのです。レティが家では話したくないから、王都に戻ったら連絡だけほしいといってました」
先ほどカーニャの用事で寄ったハンターオフィスでレティシアがいる、隣町のオフィスに手紙を出してもらったミーナ。
カーニャの名前で出せば最優先で送ってくれるのだ。
「たぶん明日の朝には返事が来ているわね。そこから色々考えましょう」
食事も素晴らしいもので、昨夜のホテルよりも王都のホテルは豪華だった。
「でも不思議ですね、姉さま。昨夜はアウシェラ湖に泊まったのに、今夜は王都なんて」
くすりとカーニャも笑う。
「普通に旅をするのが馬鹿らしくなるわよね、夜霧は」
食後にもお茶を飲んで、ゆっくり姉妹の話も出来たのだった。
「姉さまがお父様とお母様と仲直りしてくれて、ミーナはとても幸せです」
ちょっとだけ眉をさげるカーニャ。
「ごめんね余計な心配かけたわ。ただ意地をはってたのね私。話してみれば何のこともない話だったわ」
話の内容は未だミーナには伝えていないし、問われなければ生涯語るまいとカーニャは思っている。
姉妹の生まれに関することなど、知っても何の得もなかったのだ。
カーニャは実体験で知っていた。
翌日ハンターオフィスに付いたカーニャ達は、応接に通され驚きを押さえられなかった。
「えええ?!どうしてレティ。いつ来たの?」
そこにはミーナの学友レティシアが、2名の侍女を伴ってオフィスの応接に居た。
「ふふふ、今朝早くに出てきたのですよ。ミーナに会いたかったわ」
そういって近寄ったレティはミーナにハグ。
そのまま両手を繋いで応接につれていく。
まるで我が家である。
ソファの後ろには左手前直立で侍女が控えていた。
姿勢はしっかり侍女のようだが、視線が泳いでいた。
入口でたっているカーニャをチラチラ見ているのだ。
カーニャはそういった視線に慣れていて、気にしない。
「そうだわレティ失礼をごめんなさい、うちの姉ですわ」
やっと紹介をうけたカーニャがにこりと笑顔で挨拶。
「いつも妹がお世話になっていますわ。カーニャ・シア・ヴァルディアです、よろしくねレティシアさん」
「わあ、お噂わかねがねシア卿。お会いできて光栄ですわ」
レティシアが手慣れたカーテシーを決める。
「くすくす、でも一度学院の外部試験でお会いしてましたね。ご挨拶は初めてでしたわ」
シアは王家から授けられた名誉騎士の称号で、家の名前よりも優先するのが常識であった。
「うんうん、私も遠目では見ていたわ。きれいな子だなってね。仲良くしてね、私のことはカーニャと呼んで」
わざと礼をはずして会話するカーニャ。
貴族ではなく妹の友人として付き合いたいと言っているのだ。
「光栄ですわ‥カーニャお姉様とお呼びしても?」
なんだかレティの目もハートマークになっていて、ミーナはちょっと複雑な気持ちになるのであった。
王都でもスリックデンでも姉は有名人だ。
ふとソファの方をみて、セレナとフィオナにも話しかける。
「セレナさんもフィオナさんも久しぶりです。今日は侍女さんなんですね」
二人もハートマークでカーニャを見ていたのだが、ミーナに視線を移し微笑む。
「ひさしいなミーナ。無事戻ってうれしい」
「半月も立っていないのに、ミーナが居ないと静かだったわ学院も王都も」
あはは、とミーナも笑う。
「それじゃミーナがトラブルメーカーみたいじゃないですか?」
うんうんとうなずく侍女二人は、もちろんレティの侍女だが、ミーナの友達でも有るのだ。
なんとか挨拶は無事終わり、カーニャに侍女二人のことも紹介したミーナであった。
テーブルセットを借りて話が進む。
途中でハンターオフィスの職員の女性がお茶を持ってきてくれた。
ドアのところでフィオナが受け取り、あとは良いですと入室は断った。
ヴァレンシュタイン伯とオフィスの力関係がわかるやり取りであった。
オフィス職員より伯爵家令嬢の侍女のほうが上なのだ立場は。
「じゃあレティはこのまま行けるの?家には寄らないの?」
にっこりレティが答える。
「もう出かける事は家には伝えてありますし、荷物も馬車に全て積んできました。ぬいぐるみもね!」
「わーい」
ぬいぐるみでミーナとレティがそろって万歳する。
「でも王都を経つのは3日後の予定なのよ?それまでは?」
とカーニャが心配するがレティが答える。
「ホテルを取ってあるので、何泊でも大丈夫ですわ。今夜はぜひカーニャお姉様も宴にご招待したいですわ!」
頬を染めるレティのはにかみは確かに破壊力が高かった。




