【ミーナ学園編:第7話:ミーナとカーニャの違い】
「姉さま!!」
立ち上がりにっこにこで手をふるミーナを見つけて、早足になるカーニャ。
「おまたせ!ごめんね報告長引いちゃって」
王都ハンターオフィスに近い外壁内のレストランだ。
カーニャが壁の外は絶対ダメというので、外壁より外のハンターオフィスには入れないミーナであった。
今日はカーニャ推奨のレストランで待つように言われていたのだ。
「全然待ってませんよ。おなかは空きました!」
と元気なミーナを見て癒やされるカーニャであった。
「じゃあ頼んじゃいましょう。ちょっとすみません」
後半は先ほど椅子を引いてくれたボーイに掛けた言葉だった。
「シェフおすすめのランチを2つ。飲み物はお茶でおねがいしますわ」
なれた感じで頼むカーニャを憧れの目でみるミーナ。
ボーイが下がってからそっと頬を染めて告げる。
「姉さまかっこいいです。大人な感じですね」
「ん?別に慣れよこんなの」
なんでもないことの様に話すカーニャが格好良く感じるミーナであった。
今度真似しようとも。
席は奥まった個室が取られており、二人には少し大きいテーブルであった。
テーブルには季節外れの真紅の薔薇が惜しげもなく飾られていた。
カーニャの名前で予約したので、最大限の配慮がなされていたのだった。
和やかにミーナの学園生活を話題に食事は進んだ。
食後のお茶に入ってから、ミーナは聞こうと思っていたことを聞き始める。
「姉さま学園では礼儀関連で苦労されませんでしたか?」
ちょっと観察するようにミーナをみるカーニャ。
特に問題なしと判定。
「どうせ王都の貴族達でしょ?脅されたかなんかありましたか?」
「正解です」
にこにこ言うので深刻そうではないな、と判断するカーニャ。
「ほうっておくと良いわ。言うほど大したことできないから」
その言葉だけでどうやって対処したかわかるカーニャの態度であった。
実力で黙らせたのであろう。
ミーナと同じで特別推奨枠で飛び級していったカーニャである。
そこいらの貴族程度では何も出来なかったであろう。
実際なにか問題になったとしても、学院側がミーナを守ることがカーニャには解っていた。
実体験として。
「そうですか‥ただ同室のさっき話したエーラなんですけど、怯えている様子でした」
しょんぼりするミーナ。
ミーナをしょんぼりさせるとは許さんみたいな炎が目に灯るカーニャ。
「姉さまが黙らせてあげるわ。なんて子なの?そのなまいきなのは」
いやいやみたいに首をふるミーナ。
「いいのです。わたしも不勉強だったのですわ。心配なのは同室の子だけなの」
「ふむ。一度ミーナが実力を見せればいいわ。見た所順調に魔力も増えてるし、そろそろ課題とか試験あるんじゃない?実技の授業もあったのではないの?」
自分が通っていた時の事を思い浮かべ質問するカーニャ。
「実は実技は回りをみて、同じくらいに成るよう調整していたのです」
じっと真意をはかるカーニャ。
「目立ちたくなかったってこと?」
「そうです。なんだか特別になるのがイヤなんです。おかしいですかね?」
ちょっと悲しそうにするミーナ。
「おかしくなんて無いわ」
にっこりするカーニャ。
「ミーナがしたいようにすれば良いのだわ。それが一番大事。ただ誰かを守りたければ強くなるしか無い。誰よりも強ければ何があっても守れるわ」
それは苛烈な意見ではあったが、カーニャの辿ってきた真実の話でもあった。
「姉さまかっこいいです」
相談事すら忘れてぽーっとなるミーナ。
クスリと笑って手を降るカーニャ。
「そんな褒められたことじゃなくてね、生きていくのが精一杯だったから私は」
余裕がなかったのよねと呟くカーニャ。
すこしだけ目を伏せたが悲しそうなそれではなく、懐かしんでいるのだなとミーナは見取った。
「私は姉さまも、アミュアも居るし。おとうさまもおかあさまも応援してくれている」
にっこりのミーナ。
「ミーナはとても幸せものです。ありがとう姉さま」
ミーナの目には決意の光。
あの日学院に行きたいと初めて言われた日の眼だった。
カーニャは我が妹ながら、これは頑固そうだなと呆れるのであった。
「どうしても困ったら、姉さまを呼びなさい。ぶっとばして差しあげますわ」
カーニャもにこりと力こぶで返すのであった。
あははとミーナも笑って楽しいお昼を過ごしたのだった。
寮にもどると、部屋のドアが少し開いていた。
不審に思ったミーナは忍び足で確認に行くのだった。
忍び足は初期のスキルといわれ、時間が有る時ユアに指導を受けていた。
練習方法を習ったのだった。
ユアはカーニャに見つかって「妹に変なこと教えないで!」と怒っていたが、ミーナは面白くて練習を続けていたのだった。
ドアに近寄るとエーラの声が聞こえた。
(エーラ泣いている?)
チラと右目だけだして室内を確認。
拙いが斥候の動きである。
すっすって感じで一瞬だけ右目で見た映像を、戻ってから考えるのだ。
(エーラ1人だけ、室内に乱れはない)
それだけを見取ったミーナは、一旦時間を置くこととした。
晩ごはんの時間にはまだまだ有るのであった。
一階のレストランは食事の時間以外は談話室として機能する。
自由に利用して良いのだ。
セルフサービスだが、各種お茶類も準備されていた。
ただし授業の一環として、お湯は自前の生活魔法で作らなければいけないルールはあった。
実はミーナは生活魔法が得意ではないので、ちょいちょい練習をしていた。
今日も時間が悪いのか、誰も居ない談話室で1人練習してお茶を入れるのであった。
(むう、せいぎょせいぎょ)
ぷるぷる手が震えるが、なんとかこぼさずにお茶が準備できた。
こうゆう手元の作業をするとミーナはより目になって、唇を噛み口がへの字になってしまうのが、自分では解らなかった。
(できました!)
にっこりして席まで運ぶミーナ。
誰も見ていなかったので可愛さの無駄遣いかと思いきや、談話室の入口近くで男子生徒が5人ほど鼻血をだし別の生徒に運ばれていくのであった。
てえてえが防御を超えて刺さったようだ。
談話室兼食堂の入口側は一面ガラス貼りなのであった。
そもそも飛び級入学で13才のミーナ。
元々小作りの体のパーツに、ちょっと肉付きが良くなって健康的なのだ。
容姿だけでもファンクラブ必須の素材であったが、仕草が可愛いと学内でもベスト5に入る男子の人気を集めていたのであった。
ミーナの気持ちとは裏腹に。