【ソリスの憂鬱:エンディング】
純白のグリフォンが伏せて居る。
アミュアとはもうすっかり仲良しのメスグリフォンのジュディだ。
「よしよしひさしぶりだねジュディ」
その白い羽毛に顔をうずめるように擦り付けるアミュア。
ジュディも嬉しそうに目を細める。
大きなグリフォンは伏せていてもアミュアが背伸びしなければ首まで届かなかった。
アミュアがジュディと挨拶している間に、マインが降りてくる。
今日はもう一人来客が有るようだ。
「こんにちわアミュアちゃん、ひさしぶりね。賢者様もお元気かしら?」
アミュアがジュディから離れ挨拶する。
「こんにちわマインさん。師匠は最近研究室にこもりっぱなしです」
にこと笑い、続ける。
「でもちゃんと元気です。最近はいっしょにご飯をたべます」
「それはいいわね」
マインもにっこりする。
「ほらご挨拶しましょうシャリア」
さっきからマインの足にぺったり隠れていた栗色の頭がひょこっとアミュアを見る。
アミュアよりも小さな女の子であった。
アミュアは自分より小さい女の子を初めて間近にみるのであった。
「こんにちわ‥‥」
それだけ頑張って言うとまたマインの足にぺったり隠れるのであった。
「こんにちわシャリア、わたしはアミュア。仲良くしましょう」
そういってにっこり笑うアミュアはとても優しそうで美しかった。
ぽーっとシャリアはアミュアに見惚れるのだった。
手をだしたアミュアに恥ずかしそうに手を差し出すシャリア。
「あちらで面白いものを見せましょう」
そういって芝生の方へシャリアを連れて行くアミュア。
一瞬マインを振り返ったが、頷くのをみてにっこり笑顔になったシャリア。
ぴょこぴょこと、アミュアの後ろを着いていく小さな我が子を微笑みで見送ったマインは、荷下ろしを始めるのであった。
「これがるんだです!」
芝生を刈りながら左から右へ動いているその丸い物体をシャリアはまんまるな目で追いかけた。
「るんだ、マインさんの娘でシャリアよ」
きこきこと動いていくルンにアミュアが紹介する。
去りつつルンが言う。
「コンニチワしゃりあチャン。ゴユックリ」
「わあ!しゃべった!!」
さらにびっくりしたシャリアが、驚きすぎたのか転んで泣き出した。
あーんと泣くのをアミュアが抱きしめてあげる。
「大丈夫です、るんだはとても優しいのですよ」
そういって背中を撫でてあげる姿は、お姉さんモードであった。
「そうか、変わらんようでなによりじゃ」
騒ぎを察し出てきていたソリスが、マインと世間話をしていた。
「賢者様にもお時間があれば、お越しくださいと母の伝言でしたわ」
にっこり笑うソリス。
「そこまで言ってもらったのでは、行かぬわけにはいかぬな。よかったらアミュアも連れて行っていいじゃろうか?」
こんどはマインが喜ぶ。
「もちろんですわ、賢者様の一番弟子ですもの。母も喜びます」
こんどマインの母の誕生日のお祝いをするとのこと。
各方面からも来客があるので、一度紹介したいと頼まれたのだ。
かつて賢者ソリスをして驚愕せしめたあの赤子であった。
つまりセリアの第一子たる娘だ。
その連想はソリスに未だ癒やしきれない寂しさを生むのだが、今のソリスには大切なものがたくさんあった。
ダンジョンから戻り研究も順調に進む中、アミュアの修行も順調であり、ルンも無事復調した。
そしてソリスは世捨て人のような暮らしをやめ、義理にはちゃんと答える姿勢を見せていた。
今回のパーティ出席もそうである。
以前であれば嫌な顔をして断っただろう。
国家規模の商人がパーティに招く客を紹介したい、ろくな話ではないであろう。
だが、今日とて荷物を運んでくれているシャーリン商会の話だ。
亡きセリアの実家でも有る。
そういった義理をおろそかにしないとソリスは決めていた。
かつてと同じ過ちを侵さぬよう、研究を言い訳にすることはもうしなかった。
「飛空艇で乗り付けてやるから覚悟しておれよ?」
くつくつくつと楽しそうに笑うソリスに、本当に変わられたとマインは内心驚いていた。
(あの日祖母と何をはなしたのだろう?)
とても興味はあったが、尋ねてはいけないことだとも理解するマインであった。
とうとう泣きつかれたシャリアをアミュアが背負って運んできた。
「あらあら」
マインが慌てて我が子を受け取りに行く。
アミュアは小さいのでシャリアの体を持て余していたのだった。
盛大なシャーリン商会のパーティも山場をこえ、義理は果たしたとばかりにソリスは会場を後にした。
まだまだ宴は続くようだが、一通り紹介は回ったのでよしとしたのだ。
一緒に連れてきたアミュアは今夜はここに泊まり、マインの娘達と遊ぶようだ。
明日の朝ソリスが向かえにくる手筈になっていた。
そっと会場たるシャーリン家の屋敷から抜け出したソリスは、同じ土地の奥まった泉がある公園に入って行った。
暗い森だが街燈は所々設置され、歩くには十分な明るさであった。
泉をまわると奥に祠が有る。
セリアの墓であった。
祠に参るソリスは質素だが美しい花束を捧げる。
片膝をつく騎士の礼で祈りを捧げた。
花束は小さな白い花が沢山つくもので、かつて旅の中でセリアが好きだといった花。
わざわざ飛行魔法を駆使して遠方から摘んできたのだ。
ソリスは旅の記憶を整理し、思い出していたのだ。
その花が好きだと告げたセリアの笑顔まで。
(時々は会いにくるよセリア)
ソリスは微笑んで祈りを捧げた。
しばしの祈りの後に立ち上がる。
少し皮肉な笑みを浮かべるソリス。
(迷惑ではないだろうか?こんな愚かな男が参っても)
かつての賢者ソリスには無かった謙虚な言葉であった。
それはセリアが、アミュアが教えてくれた、人を想う心が言わせる言葉だった。




