【ソリスの憂鬱:第20話:ソリスの確認したかったこと】
水場でアミュアの顔や手を拭いて、酸の付いた服もすべて剥ぎ取った。
あちこち酸で赤くなった下着姿のアミュアを毛布でくるみ寝かせる。
幸い気温は通常の範囲で、寒いことはないだろう。
(私が怠慢だった、もっとしっかり確認しておけばよかった)
アミュアの髪を拭いてあげつつ、ソリスは反省していた。
あの休憩所にトラップが有ることにソリスも気づかなかったのだ。
(ルンにも済まないことをした。よくアミュアを守ってくれたなありがとう)
そう思いメモリー装置が仕舞われたバッグをみやる。
酸のダメージをコントロールし、アミュアと自身のメモリーも守り抜いた英雄であった。
一部にあびた酸でアミュアの肌はあちこち真っ赤になっていたが、この程度ですんだのはルンの配慮のおかげだった。
幸い自宅にもどれば予備のパーツがまだまだ有るので、元通り組み立てられるであろう。
アミュアが目覚めるまでに手持ちの予備パーツで、会話だけは可能になったルン。
手の中に収まる箱に、小さなラッパが付いた姿であった。
「すまんかったのルン。よくアミュアを守ってくれたありがとう」
ソリスが詫びる。
「イエ無事デ良カッタデス」
「ここから先は私が先導する、アミュアについていてやってくれ」
そういってアミュアのリュックに収納しラッパだけ外に出た状態にする。
「う、ぅぅん」
アミュアが半身を起こし目を擦る。
「いたた」
赤く擦りむいたようにあちこちに酸のダメージがあったアミュアが声をもらす。
「目覚めたかアミュア?体に異常はないか?」
ぱちっと目をあけたアミュア。
「ししょう!るんだが!!!」
叫ぶアミュアがダークゾーンに走って行きそうになり、慌てたソリスに捕まえられる。
「いやぁ!るんだが!!」
「ダイジョウブデス!あみゅあサマ御安心ヲ」
ルンのこえがしてきょろきょろするアミュア。
「るんだ?!」
「ココデス無事デスヨ」
自分の小さなリュックから声がして、アミュアは駆け寄った。
ちかちかとラッパの中に光が見える。
声に連動して光るようだ。
「体ガ無クナリマシタガ、ルンダは無事デスヨ」
安心させるように告げるルン。
りゅっくごとぎゅっと抱きしめるアミュア。
「よかったです、ごめんなさい無理させました」
こうしてアミュアとルンのダンジョン攻略は一旦終了したのだった。
さいわいにして致命的な被害もなく。
そこからはソリスがアミュアを連れて下に降りる工程となった。
丁寧に階層ボスだけを撃破して、下を目指す。
「どうしてボスだけたおすですか?倒さないとすすめないですか?」
アミュアの質問にソリスが端的に答えた。
「素材がほしいのじゃよ。実験につかうのでな」
ソリスの戦闘ペースは早く、会敵と同時にきちんと弱点属性の魔法で無駄なく倒す。
足りなかったり、オーバーキルにはならないようだ。
「すごいです、ししょうは全部おぼえているですか?」
敵の姿さえ見えない内に詠唱を始めることすらあった。
「そうじゃな、すでに100回以上はきておるからな。100からは数えておらん」
「ふわあすごいです」
「ふふん」
ソリスも自慢顔で鼻高々である。
移動もソリスがアミュアを抱えて飛行魔法を使うので、無駄なく階層ボスだけたおして進むのであった。
そうしてたどり着いたのが74層の階段。
「ここから転移すると階段ではなく、ヤツを封印した場所にでるのじゃ」
このフロアの別の階段はまた階段に戻り、どうやらまだ先もあるとソリスは確認していた。
この階段だけ、もともとの75層とは違う場所に出るようで、マップ上のどこなのかも確認できていない。
アミュアを背負っているので、いちいち手を繋がなくても進めるソリスのペースは早い。
しゅんと別階層に到着する。
アミュアですらその禍々しい気配をすぐに感じ取れた。
「なんですか?これは‥‥」
青ざめるアミュアに説明するソリス。
「これこそ『黒死竜グラザーヴァス』の封印じゃ」
黒く巨大な建造物のようなものに、緑の光が時々走る。
「我が友を犠牲に編み上げた儀式魔法。対象の魔力を吸い上げることで半永久的に作動するはずの封印じゃ」
ソリスの表情は厳しい。
アミュアもルンも声もない。
禍々しい気配が漏れてくるのだ。
背筋が震え声が出なくなる。
「残念じゃが最初の一年で封印は劣化し始めてな。吸い取る魔力以上にグラザーヴァスがこの星から魔力を吸い上げておるのじゃ」
封印を睨むソリス。
「どうやらあまり時間が残されていないようだ」
ここから出るときは普通に階段に出られるようで、ソリスの飛行魔法で地上を目指した。
奈落の穴に出ると、術式を重ねて速度を上げる。
ドンッとショックコーンを残し地上をめざすソリス。
しがみついたアミュアも地上に戻るのであった。
地上のダンジョン都市を堪能するソリスとアミュア。
入る時問題だったルンがアミュアのリュックに収まっているので、問題なく街を見れた。
アミュアは入るときほどはしゃがなかったが、十分に楽しみ買い物もしたのであった。
「マインさんの家にもっていくお土産はこれでいいですか?」
アミュアが箱詰めの菓子を両手にもってくる。
ダンジョン名物と書いてあった。
「うむ、アミュアの好きなのを選ぶとよいぞ」
にこにこしてソリスはアミュアに任せるのであった。
もうただの観光に来たおじいちゃんと孫である。
悩ましそうに両手に一つづつお菓子の箱をもつアミュア。
何方がいいかと悩んでいるのが表情から見て取れた。
(本当に表情が多彩になった。それにルンへのあの反応)
ルンのバディはとてもいい影響をアミュアに与えたようだと、ソリスは満足そうだった。
こうして長かったダンジョンでの修練は終わり、沢山の成果と、不穏な情報を手に二人は家に帰るのであった。




