【ソリスの憂鬱:第15話:ボス戦がはじまルンです】
第一層と違い階段までの距離は長かった。
時々襲う吹雪も方向か感覚を狂わせ、度々突き当たる崖やクレバスが道を塞ぐ。
ただ魔力に大分余裕のあるアミュアとルンは、レビテーションやルンの物理で真っ直ぐ道を選んだので迷わなかった。
エンカウントはどんな場所にいても一定間隔で有り、氷属性の魔物が最大4匹まで現れた。
数が多いときはアミュアが遠慮なく魔法で殲滅するので、さほど戦闘で苦労はなかった。
出口が見えるとソリスが横に座っていて、周囲にプリズム色の多重結界を貼りくつろいでいた。
「おかえりアミュア。どうであったかな?」
結界に入れてもらい不思議そうに中から観察するアミュア。
「へいきでした。ルンはゆうしゅうです」
にこにことソリスが笑う。
「さすがアミュアは優秀じゃの。ルンには敵を倒さぬよう指示していたのだ。すべて魔法で倒せたな?」
こくりとアミュア。
「よゆうがあります」
正直に答えるアミュアにソリスはにこりと笑顔。
「状況と自身の戦力を把握するのも大事なことじゃよ」
そういって雪で作ってあった椅子から立ち上がるソリス。
どうして溶けないのだろうと、椅子をぺたぺたするアミュア。
「くくく、冷却魔法と空気の遮断で溶けぬのじゃよ。状況と自身の出来ることを組み合わせると色々なことができるじゃろ?」
ふむふむと関心する素直なアミュア。
「わかりました。ルンいくよ」
そういって手を握るアミュアがソリスにも手を出した。
やる気も十分じゃなと安心したソリスが踏み込み階段に戻った。
暗い階段を降りていくと、白い雪原の階層が4階分あった。
「本来だと、一層ごと戦いながら自分の限界を探るものなのだが、今回は私が居るので良しとするぞ」
そういってドンドン降りていくソリス。
階層と階層の間はランダムなのか距離がまちまちであった。
わりとすぐ扉があれば、次はなかなか現れず2周ほど降りてからあったりする。
出口と違い入口の扉は大きく、近くにいる魔物は容赦なく襲いかかってくる。
階段を降りていくだけでも戦闘はかなりあるのだ。
これは下に行くほど魔物の密度も上がっているのだなとアミュアにも解った。
そしてかなりの距離降りた先が行き止まりになっていた。
雪原の最後の扉となるようだ。
「こうした階層の終わりの階にはボスモンスターと呼称される特別な敵が次の扉をまもっているのだ」
すこし真面目な顔で告げるソリス。
「ボスのいる階は出口が一つしか無いので、必ず倒すか誘い出して隙を抜き階段に出るしか無い。不思議だがボスは階層を超えないので、階段には出てこないのだよ」
首を傾げて思案顔のアミュアが質問する。
「なんだか都合がよすぎませんか?ここは」
ほうと明るい顔になるソリス。
「とても良い疑問だぞアミュア。そこは研究者たちも試し調べていることじゃな。結論は出ていないが、ダンジョンは訓練施設ではないかと言うのが今の主な説となっておる。」
「くんれんですか?」
アミュアはそれでも疑問を持つ。
「だれがつくったのでしょう?」
ソリスはしたり顔。
弟子の優秀さににやつくのであった。
「そこも諸説あるが、今の主流は上位者説じゃな。人間よりも上位の存在がかつていて、異界から攻めてくる魔王や眷属に対抗するために人に授けたのではないかと言われておるよ」
ソリスは自身も研究者であるので、こういった話題が大好きである。
かつての旅ではそういった話題は出なかったのである。
「まぁ結論は何もわからんと言うことじゃがな!」
わっはっはと豪快に笑うソリス。
アミュアはソリスのそんな笑いを初めて見たので、ちょっとびっくりして眼が丸くなる。
「ではこの雪原のボスを倒しに行こうかの。準備はいいかな?」
手をだすソリスにうなずき、ルンの手を握るアミュア。
こうして雪原の最終階層を攻略するアミュアであった。
降り立った雪原は、快晴で照り返しが眩しかった。
この太陽そっくりの光源はどうやら地上と連動しているようで、ここまで進んで正午あたりとなるようだ。
早朝に潜り始めたので、半日でここまで来た計算だ。
アミュアがきょろきょろ雪原を見ている内にソリスはまたいなくなった。
「ルンはおなか空いたりしないの?」
アミュアは自分がお腹が空いてきたので、ルンに尋ねるのであった。
「ダイジョウブデス」
アミュアの魔法で方位を定める。
「あっちだよ」
ロッドが刺す方向には大きな山があった。
これは間違わないで進めそうとアミュアも安心した。
進み始めると次々エンカウントがある。
先程の階層よりも密度も数も多い。
『フレークヘッシェ』
今度は3重詠唱の炎の槍だ。
威力向上と貫通付与で攻撃力をあげている。
軌道補正がなくなるので命中率が下がるが、4本全て別々のシロクマに突き立った。
綺麗に4体共に煙になり消えた。
魔石と素材を回収するアミュアが肉を見つけた。
「これたべれるのでしょうか?おなかが空きました」
ルンがかじろうとするアミュアを慌てて止める。
「ソノママデハタベラレマセン」
コテンと首が曲がるアミュア。
「焼いたらいいの?魔法でやこうかな?」
「そりすサマニ聞イタホウガ良イトオモイマス」
ふむうとあきらめて腰のポーチに収めるアミュア。
ぞくっと気配を感じた。
ルンも反応して盾を向けた。
雪山の上の方に人影が有った。
白い毛に覆われた黒い顔が見える。
かなり大きいのが距離から想像された。
「あれがボスですね。はやくたべましょう」
食べましょうの前に「倒して」か「戦って」が入るようだ。
ルンはアミュアの適当なセリフを指摘せずに、じりじり前に出た。
強敵と判定したのだ。




