【ソリスの憂鬱:第11話:新しい日々の予感】
夜に二人で答えを出した翌日。
何時までも起きてこないソリスを起こそうと、アミュアはまた寝室に来た。
「ししょうおなかが空きました」
ノックもそこそこに申告してくるアミュア。
まだ寝ていたソリスはベッドの中から答えた。
すぐに答えないと寝室に侵入してきて起こすのだアミュアは。
「いつものペレットが台所の棚にあるので、食べなさい」
とことこと去っていく足音を見送りもう一度寝ようと布団をかぶったソリス。
昨夜アミュアを部屋に帰してからも遅くまで考えていたのだ。
今までのこと、これからのこと。
少し夜ふかしになったので、脳が睡眠を要求するのだ。
またとことこと気配が近づいてきた。
食事を終えたので起こしに来たのだろう。
「ししょう起きるじかんをすぎています」
ノックと同時にアミュアの声。
容赦はないようだ。
少し思いついた研究もあったので、アミュアに休日を与えることにする。
昨日の命題も考えてみるといいなと思ったのだ。
「今日は具合が優れぬのでな、鍛錬は中止じゃ。一日休みとするので自由にするといいぞ」
言葉を聞いても立ち去らないアミュアに付け足す。
「あまり遠くには行ってはいけないよ」
と出来うる限り優しく告げたのだった。
アミュアが立ち去ったのを確認し、起き出したソリスは一通りの朝のルーチンをこなし、部屋に戻る。
ちらりと見た庭ではアミュアが芝生に寝転がり、ゴーレムのルンを見ている。
話しかけたりもしているようだ。
それを微笑ましく見ながら、ソリスは昨夜思いついた研究に取り掛かる。
アミュアとのやり取りは、ソリスの研究にもアイデアを与えたのだ。
「そもそも雷神か、雷神の力をもった者を召喚しようと進んできた」
それがすでに無理があったのだと、能力を超えた判断をするアミュアを見て気づいたのだ。
「転移魔法陣自体にそこまでの召喚能力を持たせるのは不可能だったのだ」
気づいていたのに目を逸らしていた。
この道の先にしか答えはないと思い込んでいたのだ。
「ペルクールの力自体は捕捉したのだし、その力だけを転移させればよいのだ」
ソリスの寝室は続き部屋があり、そこは研究室になっていた。
魔法陣の模型もあり、術式の展開用機器も揃っていた。
転移術式のテスト起動ができるんのであった。
新しい術式を組み込み、新たな仕様を魔法陣に組み込んでいく。
もう一つ進展が有った、異世界の魔力をこちらの世界で使うために特殊な触媒が必要だったのだ。
その触媒とするものも転移で手に入れようとしていたのだが、昨夜天啓のようにひらめいたのだ。
眼の前に居るではないかと。
異世界の魔力を通す触媒の塊が。
アミュアの髪を少しもらい研究することとしたのだ。
そうやって新しい取り組みを続ける内に一日は流れるように過ぎていった。
かつてセリアと過ごした時間のように。
天気が良かったので、庭に出てゴーレムのルンを見るアミュア。
端からきれいに芝を刈り込んでいくルンをじっと横で見ながら話しかける。
「ずっと考えています」
短い言葉をルンに向けるアミュア。
カタカタカタ
答える事が出来ないことを知らないのか。
答えなど求めていないのか。
「ルンダはどうしたらさみしくなくなりますか?」
カタカタカタ
ルンダではなくルンですとも答えず、黙々と芝を刈り去っていく。
何度も左右に通り過ぎるルンを見ながら、色々姿勢を変え考え続けるアミュア。
「なぜ、たずねてはいけないのだろう」
アミュアの問いには一向に答えが見つからない。
尋ねたほうが早いと思うのにと。
最後には仰向けに寝転がりヒザから先をぴょこぴょこ動かして、頰杖をつくアミュアの周りだけ長い芝が残ってしまった。
少し傾いてきた太陽がアミュアの影を伸ばしていった。
夕方になりソリスが食事を準備する。
ペレットではなく、生鮮食品を使った食事だ。
ソリスは実はかなり料理が達者で、旅の中でもセリアと交替で食事係をしていた。
ただ、自分で食事を取らなくなったので熱意がなかっただけだ。
今はアミュアに美味しいものを食べさせたいと思うようになり、日に一度は準備する事としていた。
「とてもおいしいです」
アミュアはフォークを握りしめ、ソーセージを刺す。
にこにこしながら食べるのは、やはり美味しいほうが嬉しいのだろう。
ソリスの下に来て僅かな間にアミュアは沢山の感情を持つようになった。
ときどきすっと無表情になったり、声に感情が薄かったりはするが、作り物には見えなくなっていた。
冷凍してあった細かくさいのめに切った野菜と、焼いただけのソーセージであったが、アミュアは嬉しそうに全て食べたのだった。
(これは栄養ペレットをやめて、携帯食料を仕入れねばな)
こころに決めるソリスであった。
ソリスも食事を求めないがすることは出来るので、アミュアが一緒に食べたいと言うので、食卓を共にしていた。
「アミュアよ、食事しながらで良いので聞くのだ」
ソリスは先に食べ終わったのでお茶を入れていた。
食事をとる習慣は無くなっても、お茶は続けていた。
アミュアにも一杯ふるまうと、自身でもずずっとすすった。
以前、口に中に物が入っている間は話さないよう指示しているので、うんうんとうなずいた。
「明日から中央ダンジョンに行く。アミュアの修行はそこで続けるぞ」
こてんと首をまげるのは、解らないのサイン。
「元々私は行く用事があるので、ついでにアミュアにダンジョンを教える」
うんうんからこてん。
解ったけどなんで?だろうか。
(いい加減飲み込めば良いような)
しばらく待ってみたがいつまでももぐもぐしているアミュア。
「早く飲み込むといいぞ」
そう告げるが悲しそうに左右にふるふると首をふる。
我慢強く待っているとごっくんと飲み込んで、アミュアが答えた。
「美味しかったのでたんのうしていました」
ちょっと不憫になり明日からは美味しいものを食べさせようと心に誓ったソリスであった。




