【ソリスの憂鬱:第2話:前夜】
「煉獄が4回続いたから、おそらく次も煉獄」
地下に続く階段を見つけて、ソリスが予想を伝えた。
「暑いのはもう十分堪能したよぅ」
休憩用に結界を貼りキャンプとしたので、防具を外し涼しそうな格好になるセリア。
体のラインがでるピッチリした紺色のインナーで、環境耐性付きの鎧下だ。
意外と発育の良いセリアに驚いて目をそらすソリス。
カイランも同じ格好になっているのだが、色は黒だ。
「セリア、女子がするには端ない姿だぞ。なにか羽織るといい」
下に首を曲げて見て、あっとなるセリア。
水着のようなラインでスカートを履いていたので気づくのが遅れたが、たしかに色がついているだけで素肌とかわらないラインであった。
「男の人はズルイです!」
そういって真っ赤になって背をむけたセリアがごそごそ荷物をあさりだした。
「ん?わるいわるい、暑くてな」
カイランなどは下も脱いで膝までのインナーだけになっていた。
そのインナーすら上はへそまでジッパーをおろしてへそが出ている。
環境耐性のインナーは最近の流行り装備ではある。
特に階層で気温がガラッとかわるこの中央ダンジョンでは必須装備であった。
「カイランも女子がいるのだから、少しは気をつかえよ」
とは割とまともな姿のままでいたソリスだ。
実はソリスは、マントの下のローブも環境耐性であったので涼しい顔をしていた。
カイランとソリスから見るとセリアは、女性未満女児以上程度の扱いであった。
あまり女だと意識していないのだ。
ソリスの貼った維持型結界に、冷却魔法も循環させやっと心地よい状態になった。
ダンジョンでするには贅沢なキャンプだが、今夜は特別だ。
実はカイランは魔王の気配を捕らえているのだった。
これが選ばれた勇者の能力かと、ソリスは感心して今夜の準備をしたのだ。
「明日はおそらく魔王にとどくぞ」
とカイランが告げたのだ。
節約して残っていた回復役から逆算し、今夜は贅沢にやすんでもよしとなった。
そもそもソリスの魔力総量からしたら、この程度の結界なら何日でも維持できるのだった。
そうして過ごしやすくした3人は、セリアが収納魔法から出してくれた、折りたたみのテーブルセットに集まっていた。
お茶はこだわるソリスが生活魔法で準備した。
「二人には話しておくんだけど」
そういって話し出すカイラン。
大昔の事件の話だった。
カイランの実家は代々賢者を生み出す、研究者の一族であった。
物理に偏ったカイランの成長補正は、異端としてあまり褒められなかったとも。
カイランは家を追い出される前に、手癖が悪いことに金目の物を盗もうと実家を漁っていたのだという。
ソリスは嫌そうな顔をして、セリアはわくわく聞いていた。
セリアはインナーの上にティーシャツを羽織ることにして、少し長い裾なのでスカートの方は脱いでいた。
中は水着のようになっているだろう。
ながい栗色の髪はいつもの三つ編みにして背に流していた。
「ろくなもんがなかったからさ、地下に行く隠し扉を見つけて潜ったんだよ。
だんだんカイランが悪い顔になっていく。
まるで盗賊のいいぐさだ。
自分で入れたので、満足のゆくお茶を飲み心をしずめるソリス。
カイランの話はおもしろおかしく続き、たんなる冒険話になってきていた。
ソリスがそろそろ結論を言え、と叫ぶ直前にカイランの話は核心に至った。
「その事件は200年前にあったんだと」
資料室のような部屋で厳重に保管されていた本を、これこそお宝だろうと取り出し読んだ所、恐るべき事実が判明したのだと。
カイランの実家の賢者達は10世代程度前と思われるが、とんでもない事件を起こしていた。
研究のため中央ダンジョンを進んでいた彼らは、最下層(当時の記録では65階)を超えた先で、とある封印を見つけたのだと。
階層を塞ぐような大きさのその封印に興味を持った彼らは、色々調べる内に封印を解いてしまったのだという。
なにかが封印を破りでてくるが、恐ろしくなった彼らは逃げ出したのだと。
そういった事が言葉を選び言い訳じみて書いてあったと。
「信頼性があるのか?その話」
「冗談でする保管法ではなかったな。金がかかっていた」
「その出てきたものが‥‥魔王だったと思っているのね?カイランは」
「そうだ。それ以来世界の魔力は減り続けていると、自分たちでも研究していたようだな」
「おろかな‥‥」
ソリスからすると、その賢者達の行動は軽挙にすぎた。
通常は不明な結界なら、それを超える結界を準備するまでは解かないものだ。
ソリスも儀式魔法が専門なので、結界については詳しいのだ。
カイランはそうしてご先祖が隠していた事実をネタに、大量の軍資金を脅し取り出奔したのだという。
すうと真面目な顔になるカイラン。
「ソリス。出来るんだろう?封印。前に言ってたじゃないか」
ぐっと喉をつまらせるソリス。
「確かに極大封印魔法を組んだと言ったが、それには莫大な魔力が必要で、たとえ俺自身を半分ほどいても足りないと言った。そもそも半分解くまで術を保てないだろうとも」
ここでいう解くは、ソリスが得意な犠牲術式。
自身か同意した他者を魔力に解き術式に利用するのだ。
これは途轍もない痛みを伴うので、術への集中がとぎれるのだと。
そこまで思い出してはっと気づくソリス。
「俺をつかってくれないか?ソリス」
瞬時にセリアが反論。
「ダメだよ!そんなの死んじゃうよカイラン」
にっこりしてセリアの頭をぽんぽんとするカイラン。
「俺の家が起こした災厄だ。俺が始末を付けたい」
ソリスは言い返せない。
頭の中で瞬時に術式を考え出してしまっていた。
可能だと。
くつくつとカイランがソリスを見て笑う。
長い付き合いから、カイランはソリスの顔色で考えが判るようになっていた。
「出来るんだな?今考えたろソリス」
慌てて表情を消すソリス。
「頼まれてくれ、どんなに強固なものでも、何時か封印はまた解かれるだろう?」
にやりとカイラン。
「その時までにソリスなら倒せる術を作れるだろう?」
セリアもソリスも一言もない。
「俺を使ってその時間を作ってくれ」
そう言ってカイランは声なく笑ったのだった。
その後はソリスとセリアで代案を出したり、考え直すよう話したがカイランは決して考えを変えなかった。




