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【ユアママ編:エンディング】

エルナとスヴァイレクの戦いは既に村を離れ、森の奥地まで広がっていた。

空を飛び、爆炎のブレスを放ち、長大な尾がカミソリのようにエルナを切る。

エルナもよく戦ったが、自力の差があり、次々とうける攻撃に下がり続けていた。

何度か回避も間に合わず半身を火傷が覆っていた。

スヴァイレクのブレス攻撃だ。

視界も半分になり、右目が失われている。

そうしてエルナは燃え尽き、ついに最後の一撃を受ける。

スヴァイレクの右腕が爪でエルナを捉えようと振られる。

すでに切れかけている身体強化を振り絞りバックステップ。

そこに上空の死角から尾が降り落ちた。

ザンッ!!

かざした聖剣ごとエルナの体が半分に割られる。

その生命がつきる間際にエルナは金色の時間の中に居た。

(あぁ‥ラヴィごめんね負けちゃった)

最後にエルナの脳裏を占めたのは愛する者の、ちょっと困った顔であった。

黄金の時間の中しっかりと抱き合う二人。


ーーーがんばったね、エルナもういいんだよ


ーラヴィごめんね聖剣折れちゃった


ーーーそんなのもう要らないよ。


エルナの姿は若かりし日の面影に戻る。

抱きとめる若いラドヴィスに合わせた姿だ。


ー私がんばったのよ


ーーーしってるよ


ーユアはとてもいい子に育ったわ


ーーーちゃんと見ていたよ。頑張ったね


ーあぁユアどうかお願い


ーーー僕達の宝物


二人の姿が溶け合うように消えていく


ーー生きて


そうして二人の最後の言葉が紡がれた。





深い森の奥に泉が有った。

ユアは彷徨い続けそこにたどり着いた。

ふと何かを感じ取り振り向く。

村の方向だ。

その顔にはすでにあらゆる表情が抜け落ち、悲しみも怒りもなかった。

ここまでの道のりを義務感と不思議に湧き出す気力だけで乗り越えてきたのだ。

(失われてしまった)

何故かユアには解ったのだった、自分を愛し育んだ全てが今失われたのだと。

うるさいほど聞こえていた森の育む生命の音が止む。


世界の音が、すべて沈んだようだった。




1年後

また夏がやってきて、雪月山脈を望むこの村には爽やかな風が吹き下ろしてくる。

気温のわりに過ごしやすいのは、万年雪をかかえる頂きが連なるからだ。

「ユアぁ!お掃除終わったよ!!」

元気に今日はアップにまとめた暗い銀髪が叫ぶ。

真っ白な肌がところどころ煤でよごれ黒ずんでいた。

「ふぃなかなか大変でした」

すぐ後ろから同じ顔で金髪の髪を三つ編みにして垂らす少女。

ノアとラウマだ。

久しぶりに帰省したユアの実家を掃除していたのだ。

「ご苦労さまふたりとも。ごはんは無事完成していますよ」

おぉと近寄る二人をとめる明るい銀髪はさらりと背に流れていた。

アミュアだ。

「ダメです。二人共ちゃんと手を洗ってから来るのです」

庭先にある外水道を差し指示を出すアミュア。

『はぁーい』

たのしそうな笑顔で声を揃えた二人が手洗いに行く。

アミュアは少しだけ心配そうな目で中央にある櫓を見やった。

(ユア‥‥大丈夫かな?)

ユアはお墓参りしておいでと、3人で送り出したのだ。

白い馬車の横で水道をバシャバシャ出しながらノア達は騒いでいる。

「ちょっとノア勢い強すぎです!」

「あははあ!」

ばしゃっとラウマにわざと跳ねさせて水を飛ばすノア。

いい笑顔はホコリをはらって気持ち良いのだろう。

三つ子のような3人がそうして騒ぐ声が中央の櫓近くまでとどいていた。

それ以外に音はない。

この村は廃村なのだ。




(おかあさん、妹がふえたのよ。後で連れてくるよ)

いくつもの武器が地に刺してある。

それは村人の人数分有るわけではないが、ユアにとってはこれが村人皆の墓標だ。

かつて最初に戻った半年前に作ったのだ。

先日ユアは17才になった。

皆に祝われて照れくさかったが、誇らしくも有った。

(あたしもちゃんと大きくなってるんだよ。皆んなが育ててくれたあたしが大人になるんだよ)

今日も一本づつ丁寧に花を添え、一本の剣の前でしゃがんで祈っていた。

母親の長剣だ。

(なかなか会いにこれなくてごめんね。おとうさんと一緒だから平気かな?)

有ったこともない父親だが、エルナから沢山話を聞いていた。

幼い頃の二人。

若く生意気な母に、困った顔ばかりの父。

そうぞうの中の二人はいつも仲が良さそう。

(おかあさんがわがまま言って困らせていないといいけど)

くすっと笑って立ち上がるユアの顔に悲しみはもう見えない。

沢山の冒険と仲間たちが癒やしてしまったのだ。

この帰省が終わったらスリックデンにも行く予定になっており、これから先にも楽しいことばかりが予定されているのだ。

すこし悲しい事件や、恐ろしい思いもいくつか有ったのだが、いつもアミュアが側に居た。

今は3人と一緒に楽しい旅を続けている。

(またねおかあさん、おとうさん)

ユアの中では母と父はいつも一緒に居るように感じるのであった。

そのように育てられたのだった。




その夜はユアの実家に泊まり、山近いこの村ではまだ少し寒くなるので暖炉に火を入れた。

夜になり少し風が強くなったが、村の背後に崖が有るので風鳴りの音だけで家が揺れるほどではなかった。

先ほど晩御飯の後に温泉にも入ってきたので、ぬくぬくと暖炉の前に集まった4人。

ソファにユアとアミュアとノアがぴったりくっついて座っていた。

「ノア。せまいから椅子を持ってきたらいいです」

「アミュアが持ってきたらいいよ」

ユアの左右から密着する二人がお互いを追い出そうと争う。

「まぁまぁがんばれば3人でも座っていられるよ」

テーブルセットから椅子をもってきたラウマはにこにこひざ掛けを掛けて笑っている。

最近のラウマは随分自己主張をするようになった。

「では間をとってわたくしとユアがソファにすわるのはどうですか?」

『それはダメ』

ノアとアミュアの声が揃う。

「ひどいです‥」

しょんぼりするラウマ。

今は風呂上がりで3人共髪をおろしているので、非常に似た容姿になっている。

薄暗い暖炉の前ではなおさら似通って見えるのだ。

「じゃあ寝るときはラウマが一緒に寝ようね。アミュアとノアはおかあさんのベッド使って」

「えええ‥」

「なんかずるいよ」

3人ともユアにくっつくのがステータスになっている所があり、競い合ってそばに来るのだ。

この村に近づいてからずっとそうだ。

ユアの心を慮っているのだ。

「じゃあベッドをくっつけて4人で寝よう!」

元気よく立ち上がったユアが寝室に向かう。

ユアの力ならベッドなど片手で動かせるのであった。

4人で寝るために。


風の音だけが淋しげに過ぎていき、この村にはもう悲しみは残っていなかった。

すやすや穏やかな寝息の三重奏はユアも眠りに誘い込む。

その夜ユアは久しぶりに子供時代の夢をみて、大きな牛に抱きついて笑う自分を見つけたのだった。

「いいこね、ラヴィ」

そう告げるユアの声は、母のように妻のように娘のように優しかったのであった。

エルナとラドヴィスが思い描いたとおりに。





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