表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/87

【ユアママ編:第18話:エルナというもの】

カルヴィリスは恐怖すら感じていた。

十分な距離を取り、監視位置も厳選した。

シルフェリア村は一方を崖に寄り添っていて、その上にも施設があった。

温泉を利用した入浴設備だ。

そこへの移動用らしい経路が崖の斜面につづらに刻まれてるのだが、その少し横にとどまれる空間を見つけ、影もまとって潜伏していた。

カルヴィリスの潜伏スキルは高く、この戦場でカルヴィリスを補足出来たものはいないであろう。

ダウスレムから監視と報告を求められたカルヴィリスは、作戦から外されたと思いとても不満であった。

ただでも最近将軍職から直属の側近に取り立ててもらったとはいえ、部下の実働部隊も大半後任のドレインに付けられたので単純に昇進と喜べなかったところである。

(なんという気迫‥‥人間とはあそこまで戦えるものなのか)

恐怖の理由はエルナであった。

戦闘能力も恐るべき物であったが、長い時間戦いの中に身をおいてきたカルヴィリスには多くが見て取れた。

人間はもちろんの事、影獣でさえも自分の力全てを出し切ることは出来ないものだ。

カルヴィリスでさえ自己催眠を使わなければあそこまで動けず、死のはるか手前で足を止めたであろう。

(なにが彼女をあそこまで駆り立てるのかしら?)

カルヴィリスの見立てでは3度は死んでいたはずだ。

今回襲撃に来たのはカルヴィリスを除けば3人だけである。

近年のダウスレムは兵士を使いたがらない。

末端で失われる兵士を悼んでいるのだった。

少数精鋭による襲撃にはそういった事情があった。

中でもカルヴィリスには、情報を持ち帰ることを厳命して戦闘に参加することを禁止する。

確実に情報を持ち帰らせる指示とカルヴィリスは認識するが、戦力として信用されていないのかとも感じていた。

(いずれ襲撃は成功と見てよいだろうな。逃げ出したものも居なかった)

カルヴィリスの監視すら欺いてユアは逃げおおせていたのだった。

生存者無しと判定し気配を隠すのをやめたカルヴィリスが、崖の上に飛び上がる。

そのまま後方の森に溶けるように消えていくのであった。




立ち去ったカルヴィリスにすら見つからぬよう、さらに距離を置き監視していたものがいた。

崖とはほぼ反対にある森に深く潜伏する影。

大きな立木が小さく見えるほどの巨体はスヴァイレクであった。

闇魔法を駆使し、監視に留めると移動はできないがそこにいると知っていても見つけるのは困難なのであった。

セルミアから密命を帯び、ダウスレム勢力に情報を流したのもスヴァイレクの手のものだ。

セルミアは本拠地公都エルガドールにほど近いダウスレムの拠点が目障りであった。

ダウスレムそのものも目障りなのだが、自分がやましいことをしているので、ダウスレムもそうだと思い込み心配なのだ。

スヴァイレクのこの戦場での動きは、カルヴィリスのものと行動上同じものとなったが、指示をだした主人の思惑は逆であった。

(ペルクールの使徒が存在するなら、これを密かに支援し生かせと言われていた)

スヴァイレクは影から滲み出して全身をあらわす。

人型のままだがサイズは大きい。

巨人といえるサイズ感だ。

気配は薄いが、巨大な影が地に落ちている。

(あの女はペルクールの使徒ではないな。継承は途切れたのであろう、魔王との戦いは過酷な戦場であったしな)

カルヴィリスから身を隠すのは非常に困難だったので、部下も連れず単独で監視に徹していたスヴァイレクもまたユアを捕らえることが出来ていなかった。

「!?」

スヴァイレクは驚愕した。

エルナが起き上がったのだ。

「馬鹿な!致命傷だぞ‥‥2度以上死んでもおかしくない傷だ‥‥」

スヴァイレクはその姿にとある戦士を重ねて見た。

かつて魔王とまで言われ、影獣にすら恐れられていたあの狂王を打倒した戦士。

かの戦場にも潜伏し監視していたスヴァイレク。

彼はラドヴィスの影をエルナにみた。

(何度倒されても立ち上がる。何がお前達をそこまで駆り立てる)

スヴァイレク達影獣にはその理由が解らないのだった。




(ああぁ‥力がはいらないわ。‥‥ユアどこまで行けたの?見つからず行けたの?)

エルナを動かすのはユアへの想いだ。

(怪我をしていないと良いのだけど‥)

まるで初めてお使いに出した我が子が心配で、何度も確認したりこっそり後をつけたいと思う気持ち。

母の心配は果がないのであった。

それは自身の体や命など、意味を持たないと感じるほどに。

血がエルナの下に溜まりを作っていた。

死者の流したであろう量だ。

魔力も残っておらず、血も残りでは命をつなぐに足らない。

制御を離れた樹木魔法はとうに失われており、傷口からは命が流れ続けている。

エルナの進む先には自宅が有る。

朦朧とする意識でそこを目指す。

(家に私が居ないとユアが心配するわ。またユアを泣かせてしまう‥)

幸いそれほど遠くはなかった。

あと数歩進めたなら届いたであろう。




エルナは再度目覚めた。

二度と目覚めることは無いと自身でも解っていた傷だった。

有り合わせのシーツにくるまり、手当もされていた。

(誰か生き残っていて治療してくれた?まさか?!ユアがもどったの?!)

そこまで思い至り傷の痛みを押さえ半身を起こした。

意外に痛みは少なく、休んだからか魔力もかなり回復していた。

ゾクリとした。

すぐ背後に気配がある。

「取り留めたか。運もあったな女。重畳重畳」

静かな低い声であった。

気配が立ち上がる。

かなり大きいのがエルナにかかる月影でわかる。

スヴァイレクであった。

「本来はペルクールの使徒を生かすように持たされた薬であったが、役に立ったようだ」

エルナはすぐ横に高級そうな緑色の薬瓶を見つけた。

空になり転がっている。

意味が分からなかったが、このモノは味方のようだ。

試してみれば右肩すら治っていた。

「人の世では高級な品らしいぞ」

エルナには見覚えがある薬瓶だ。

かつて自分自身で手に入れラドヴィスに飲ませたことがある。

世にエリクサーと言われる秘薬だ。

ラドヴィスの雷神の傷には効かなかったのだが。

ここに至りエルナは状況を理解した。

「ひとまず礼を言おう。影獣よ。」

エルナも立ち上がる。

直ぐ側に置いてあった、抜き身の聖剣を右手で握りながら。

睨み上げたスヴァイレクの目は高い。

先ほどのベルゼよりも高い位置に赤い光がにじんでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ