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【ユアママ編:第16話:エルナのほんき】

(人型の影獣。強敵だわ)

燃える聖剣に左手も添える。

エルナは左利きなのだ。

逆手の剣士は有利も不利も多い。

エルナは30年以上積み上げた剣士。

戦場でも敵を震え上がらせ、味方を鼓舞する戦乙女として活躍した。

「かなりの使い手とみた。名乗ろう。我が名はベルゼ。ダウスレム様の軍を預かる1人だ」

一歩踏み出す圧力でエルナは下がりかける。

(強い。かつての戦場でみた将軍レベル)

エルナの表情はストンと消える。


「ようこそシルフェリアに。会いたかったわ我が夫の仇よ」


炎は静かに瞳にだけ宿っていた。

ゴウ!と白銀の光があふれる。

その瞬間にはエルナは影獣の足元を切りつけていた。

踏み込みが読めない、起こりの無さ。

鍛え上げられた剣術である。

セリフと同時に左つま先と膝の力を抜き、前に倒れるように進んだのだ。

影獣はそれでも野生の勘か、上に飛び上がり避ける。

切り上げを振り抜いて左手をはずすエルナが、左手から無詠唱で魔法を飛ばす。

「グルーダスピエキス」

魔法名を声に出すのは、相手に対処させるため。

地面から数本の岩の槍が突き出す。

空中にいては躱せない位置と速度だ。

ベルゼの右手から影の爪が伸び槍を打ち払う。

巨大な影の爪がふるわれるとエルナの魔法の槍が砕け散る。

爪が抜けた瞬間にエルナの縦斬りが神速で入る。

「ぐわあああ!」

ベルゼの右手が飛び白銀に燃え上がる。

聖剣に纏った白銀は、影獣に特効である。

振り下ろした白銀が翻る。

再びの切り上げだ。

ベルゼは対処が間に合わず、バックステップ。

紙一重で躱し下がった。

振り抜いた聖剣はその軌道のまま右上段にピタリと収まる。

これが鍛えた剣術だと睨みつけるエルナ。

視線を切らずぶわっとベルゼの影が膨らみ、戻ったときには切ったはずの右手が影で作られ爪を出していた。

(浅かった。まだ踏み込みきれていない)

エルナはさらに深く集中する。

一対一でエルナに勝てるのはラドヴィスくらいであった。

それほどの研鑽であり、積み重ねた戦闘経験であった。

「ガアオォン!」

ベルゼが吠えながら体毛をふくらませ全身で突進してくる。

無手とも違う獣独自の動きだ。

不規則な軌道変化が追いにくい。

全身を覆う黒い炎が吹き上がり、輪郭を曖昧にする。

エルナの右上段から雷のような切り下ろし。

エルナは突進に全くひるまない。

ベルゼの振り下ろす大きな影の爪を切り飛ばす。

(しまった誘われた)

手応えがなかったのだ。

見かけだけの右手を切って、想定より深く切り下ろした剣が地面すれすれまで行き止まる。

ドンッ!

ベルゼの左手が爪を走らせ、エルナを襲う。

躱せないと判断したエルナは右肩で受ける。

とっさに急所をかばったのだった。

同時に地を蹴ったが、殺しきれない威力に肉が爆ぜる。

軽いエルナはベルゼの力で、間合いの外まで飛ばされる。

右肩の出血が多い。

このままでは時間を置かず動きに影響が出る。

幸い間合いが開いていたので、また無詠唱の魔法を使い右肩の傷を縫った。

植物魔法で細いツタを出し、痛みを無視して傷を縫い合わせる。

食いしばった奥歯がギリリとなったが、視線は外さず作業を終えた。

(右肩はもう動かない)

絶望ではないが、不利では有る。

すっと右前に変わり、正眼に構える。

左右を替えて左手で剣をもったのだ。

エルナレベルなら左右の差は少ない。

剣術の試合なら不利だが、実戦では差を悟らせないレベルだ。

麻酔もなしに傷を縫ったのだ。

激痛にドクンドクンと傷が暴れるのを、気合だけで凌ぐ。

弱みを見せれば一気に襲われると分かっているのだ。

これは戦闘ではなく、狩るか狩られるかの人と獣の戦いだった。

ベルゼも辛かった。

切られた右手からとんでもない痛みがある。

それを怒りに替え力に落とす。

叫びもベルゼに力を与えるのだ。

「ガアァァ!!」

また影の右手を生み出し、フェイントとして使う。

いつもなら再生できる傷が治らないのだ。

(やはりこいつが継承者か?!)

ベルゼは痛みが雷神の力だと思い込んでいた。

獣と剣士の戦いは数合続き、互いに傷を増やした。

浅い傷なので直接動きに影響しないが、血を失えばエルナは消耗し、影を切られればベルゼも力を落とすのであった。

フェイントになれたエルナはベルゼの左手に集中していた。

右の影も受けたいとは思わないが、避けたり受けたりは左に傾いていた。

何度目かの突進からすくい上げるような左手爪に集中した瞬間。

トン

と、背に矢が刺さった。

「くぅぅ!!」

左回りに回避した左爪も若干かすり、血がしぶく。

(集中しすぎた!)

ベルゼに思っていた以上に手こずり、別の敵がいる可能性を忘れていたのだ。

その隙に殺気を抑えた矢が放たれたのだ。

(どこから?)

とりあえず角に背を隠し、ベルゼを剣先で牽制する。

エルザのディテクトイビルが無詠唱で放たれる。

同時に得意ではないが身体強化もまとった。

エルナの魔力量では、そう長く強化を維持できない。

(探知に反応がない‥時間をかけても得はないわね)

割り切ることにしたエルザ。

背に刺さった矢が魔力の塵に返る。

ニードル系の魔法の矢だった。

エルナが魔法を詠唱する。

地魔法の範囲攻撃だ。

「ヴルツェルシュトゥルム」

発動の瞬間を知らせるのは、先ほどと同じ。

対処を強要するのだ。

広範囲に暴れまわる太い根が、周囲を薙ぎ払う。

根はエルナの動きを阻害しない。

むしろ死角を補うようにカバーするのだ。

身体強化併用では負担が大き過ぎるが、ここでベルゼを逃したくなかったのだ。

ひときわ太い根を打ち払いつつ回避するベルゼの腹に、避けた所に突きこんだエルナの聖剣が入った。

ボウッ!

「ガアアアアァァァァア!!」

ついにベルゼの体幹を貫いた聖剣がここぞと白銀の炎を吹き上げた。

同時にエルナは後方への宙返り回避。

狙いすましたようにまた矢がふりそそいだ。

矢を躱し終えると、そのまま前方にダッシュしベルゼに刺さったままの聖剣を握り抜き取る。

(これで一体目!!あと何体いる?)

エルナの瞳は燃え続けるが、体中の傷から体力がにじみ出ていくように力を奪われるのであった。







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