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【ユアママ編:第15話:準備をしていた】

「あたしも行きたかったなぁ、学校みてみたいな」

考えずにでた言葉だったのだろう。

言ったユア自身が驚いている。

ユアには疎開した子どもたちのことは、公都エルガドールの学校に入ることとなったと伝えた。

「今度様子を見に行くから、その時いってみるといいわユアも」

ちょっとずるい言い方だなと思いつつエルナ。

「ユアがいないと畑も、防御設備維持も難しいのよ。ごめんね」

ユアはあわてて手を振り答える。

「うそうそ、いいのあたしは。みんなのお手伝い楽しいしね!ラヴィもいるし」

ラヴィと名付けた牛の面倒は、ユアの担当となっていた。

にっこり笑うユアは、このような気遣いまで出来るようになっていた。

どこに行っても誰とでも仲良くなり、相手を気遣うことが出来る。

エルナは思わずうれしくて涙が出そうになった。

成長したユアを感じると、最近は涙もろくなるエルナであった。

「先にお風呂入るといいわよ。ご飯準備しておくね。今夜はユアの大好きなシチューですよ」

「わーい、おなかぺこぺこだよ!お風呂はいっちゃうね」

そういって浴室に行くユアを見送りキッチンに戻るエルナは、零れそうな涙をエプロンで拭くのであった。




結局アイギスには村に戻らないよう伝えた。

次は公都エルガドール方面の斥候を頼み、ついでに疎開した子どもたちを頼んだのだった。

エルナとしてはアイギスも子供達の世代と考えているのだ。

影獣とは関わらせたくないと。

ユアを残したのには理由があるのだった。

これはアイギスとエルナしか知らないことだが、ラドヴィスが死んだ時にその右手からエルナのお腹に黄金の光が移ったのだ。

ラドヴィスの命が尽きる瞬間だった。

エルナが光を引き継いだのかと、色々試したがどうやら違うようだった。

おそらく光はユアに引き継がれたのだ。

アイギスも同じ意見だった。

そしてもう一つの事情。

アイギスがエルナだけに当てた手紙には、影獣達のさらなる動機を探り出していた。

『どうやら影獣はペルクールの後継者を探している』

もしくはその可能性の有るものを、皆殺しにしたいようだとも。

影獣は雷神ペルクールの力を恐れているのだ。

自分たちの王すら滅ぼした光を。

エルナは悩んだが、ユアを学校に行かせて、そちらを襲われたらと思うと行かせられなかったのだ。

そこでまずは手元において、いざとなったら逃がす。

その準備を進めていたのだ。

そして準備は無駄にならなかった。




「行きなさい!ユア!振り返らないで!」

隠し通路の奥で、出口に向かいユアを押し出す。

「いや!いやあ!」

子供に戻ったように叫ぶユアをドアから押し出し、閉める。

この隠し通路出口は、外からは開けられないよう作られていた。

「お願い!ユア生きて!逃げるのよ!」

ドアごしに叫ぶが、もう返事はなかった。

ユアはこの数年で村の周りに一番詳しくなったと言えるほど精通している。

必ず逃げてくれるはず。

涙が出そうになるがこらえて引き返す。

戦っているだろう皆に加勢を考えるエルナ。

通路を駆けぬけ、勢いよく戻っていくのだった。




森の奥に続く道を1人で駆け出すユア。

(大丈夫、おかあさんはあたしより強い、きっと盗賊なんかには負けない)

軽く走っているように見えて、ユアは優秀だった。

気配は最低限にしつつ、速度重視でペースを気にせず進んだ。

影獣が気づいたときには、追跡不能な距離を稼いでいたのだった。

アイギス仕込みの斥候スキルも活躍し、痕跡を残さない逃走が可能だった。

(いつまで?どこまで逃げればいいのかな?)

半日ほど進んだユアは、戻るべきか考える。

(もう戦いは終わっているかも?)

エルナの言葉を思い出す。

(あんなに焦っているおかあさん見たこと無い)

逃走してからユアは一度も声を出していない。

ずっと戦闘意識で丁寧に逃げてきたのだ。

アイギスでも追跡できないレベルの逃走であった。

子どもたちが学校へと去ってから、村の様子はおかしかった。

(大人たちはずっと何かを準備していた。この荷物もかなり前から用意されていた)

背負ったリュックには、ユアの着替えと必要になりそうなもの一式。

数日分の非常食と、水が入った水筒。

そしてかつて母の選んだかわいい黄色い財布が入っていた。

(今日の日が有ることを知っていた‥‥)

それは、絶望の匂いを伴った想像だった。

感情ではなく、任務としての逃亡を続けるユアであった。

ユアはそのように鍛えられていた。




隠し扉を抜けて外に戻るエルナ。

襲撃の第一報を聞き、ユアをまず逃がしたのだ。

事前の打ち合わせの通りであった。

ユアには盗賊だと思わせたくて、見張りには符丁として「盗賊」と叫ばせたのだ。

見張っていた相手はもちろん影獣だ。

(幸い私達には豊富な戦闘経験が有る。影獣との)

群れをなし襲い来た影獣の群れすら退治たことがあるエルナ。

影獣が幹部クラスでなければ手こずるような団員はいない。

家に戻ったエルナは、抜剣し外まででる。

砦内は静かであった。

(おかしい。気配がなさすぎる)

頭上の櫓から気配がある。

ぱっと振り仰ぐと、櫓の屋根に影があった。

「お前が継承者か?女」

静かな声には濃厚な殺気がこもっている。

(やはり探しているのはそれか)

右手に握りしめていた聖剣に魔力を通す。

シュバ!

音を立てて白銀の炎がまとわれる。

シルヴァリアの祝福した聖剣は、魔力を通すと聖なる炎をまとうのだ。

「こちらが当たりであったか。ではまいるぞ」

すっと音もなく地に落ちる影が、立ち上がるとエルナの遥か上に2つの赤い光。

影の中に赤眼がゆらりと炎のように光をもらした。




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