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【ユアママ編:第6話:エルナママの教育】

シルヴァ傭兵団と王国軍及び禁軍の戦いは膠着状態となった。

影獣側もなにかトラブルなのか、全く動きがなくなったのだ。

2年前アウシェラ湖近辺で東方暗殺ギルドの襲撃が有った。

これは確定ではないがミルディス公国側からの干渉であったと思われる。

王国側の斥候は正常に情報を流してきており、確度の高い情報として無関係と回答があった。

襲撃のさい敵側で捕らえることが出来たのは、アー改めアイギスだけで、エルナの予想通り全く情報を持っていなかった。

どこで産まれ、どこで育ったかもわからないというのだ。

アイギスは養成所で修練しているとき、6人の子供がいたとだけ記憶していた。

アイギスは日常生活に困ることがないレベルの知識がある。

食事も排泄も入浴も全て1人で出来るのだ。

ただ、人間としての情緒や思考が全く出来ない。

エルナは絶望の中、子育てのようにそれらを一つづつ教えていったのだ。

「アイギス!何回も教えたでしょ!」

今日も今日とてエルナのお叱りが飛ぶのだった。

「どうして私に言わないの!言わないとわからないのよ!」

「いいから返してきなさい!!」

「もういいから!こっちに来なさい!」

と、四六時中エルナの怒鳴り声が鳴り響いた。

もうシルヴァ傭兵団の中では通常業務になっていて、誰も驚かない。

「お母さん大変ですわねww」

などと団員に煽られる程度だった。

アイギスの中で一番問題なのは、他者という概念がないのだ。

それは翻せば自己もないと言うことで、自分を大切にする気持ちも待たない。

利用可能かそうでないかを判断することは出来るが、それが許されるかどうかを考えないのだ。

手が汚れても洗わない。

服が壊れることを気にしない。

誰かが嫌がることに気づかない。

勝手に人のものを持ってくる。

とにかく目が話せないのだ。

幸い傭兵団としては今は訓練程度しかすることが無いので、アイギスも一緒にエルナの隊で訓練もした。

体の使い方はうまいが、武器の修練や駆け引きは全く身についていなかった。

「エルナ大丈夫?大変だったら別のものに対応させるよ?」

とラドヴィスも気にしてくれるが、エルナは意地になって続けるのだった。

「こうなったら意地でも一人前の人間にしてやるわ!!」

そうしてアイギスの情操教育が始まるのであった。

それは後年ユアの教育時に役立つスキルとしてエルナに積み重なっていくのであった。




「右手はそえて。そう、左手で動かす」

ラドヴィスはアイギスに請われ、剣を教えていた。

珍しく自主的に教えてと言ってきたのだ。

理由を聞いても答えなかったが、ラドヴィスはなんとなく察した。

(きっとエルナの役に立ちたいと思っているんだ)

微笑みながらラドヴィスは指導をする。

「じゃあ打ち込んでみて」

そういって木剣で相手もする。

アドヴィスは正統派の剣術師範であり、教えるのもうまいのであった。

鋭い踏み込みから真っ直ぐ振り下ろす打ち込み。

なんの工夫もない正面からの振り下ろしだ。

それはラドヴィスが指示した通りの綺麗な縦切りとなってラドヴィスの剣に受けられた。

「いいよ、その型を覚えるまで他の練習はしなくていいよ。自信が付いたらまた相手をしよう」

そういって去っていくラドヴィスにペコリと頭を下げるアイギス。

横で訓練しながら見ていたエルナがぷくっと頬をふくらませてラドヴィスにぽかぽか八つ当たりする。

「いたいいたい、なにするんだよエルナ」

「うるさい!なんかむかつく!」

ぽかぽかを止めないエルナから逃げるようにラドヴィスは走り去った。

「なんでラヴィにはお礼するのよ!!」

エルナは自分が一番アイギスのお世話をしているのに、一度もお礼をされたことがなかったのだ。

むしろ迷惑そうに睨まれるのがエルナの日常になっていた。

「くやしいのよ!!」

エルナの練習相手をしている団員こそ不幸で、ラドヴィスに次ぐ使い手であるエルナにボコボコにされるのであった。




シルヴァ傭兵団は移動後、スリックデンの南にある平原に砦を築いたのだった。

「団長、新しい拠点も落ち着きましたし、相手も動かないようです。良かったら先延ばしていた結婚式をやりませんか?団員の士気もあがります」

参謀長セリアスからの提案であった。

「ありがとう。だが良いのだろうか?士気が落ちてるわけではないだろう?」

今は団員の殆どが近隣の街や村にわけて潜伏している。

時々士気の維持のため、人員交代を挟むのであった。

「そろそろ潜伏させている部隊も入れ替え時期なので、皆も祝いたいと申し出ております」

めずらしく笑顔のセリアス。

「いいではないですか、エルナも喜びますよきっと」

エルナは団員全てから愛されているなと、ラドヴィスは嬉しくなるのであった。

「では羽目を外しすぎないよう、目付けはたのむよセリアス」

「おまかせを。式事まで含めセリアスにお任せお。ああ、そうです良かったらアイギスにも手伝わせたいと思っていました。いいでしょうか?」

「??お邪魔にならないかい?まかせるけど」

「ではおまかせを」

にこりと笑いセリアスが去った。




4日後に新しい砦でラドヴィスとエルナの結婚式をあげることとなった。

もちろん戦場でのこと、ちゃんとしたドレスや、もちろん会場すらない。

エルナは白いあり集めの布で女子団員総出で作ったウェディングドレスに身を包んだ。

ベールもちゃんとどこからか手に入れてきて、小さいが可愛らしいブーケも持っていた。

「ど、どうかしら?変じゃないかな?ラヴィ?」

緊張しているのか、何度もきいてくるエルナ。

「僕のお嫁さんは世界一だよ」

嬉しいことをさらっと言うラドヴィスであった。

最初はいいね、とかかわいいよ、だったのだが、ついに最上級の言葉に至ったのだ。

「それじゃあ会場でね」

にっこりそういって控えの間になっていたテントから出ていくラドヴィス。

まもなく向かえが来るからと待たされるエルナ。

落ち着き無くあちこち触って、そばにいる女子団員に怒られるのであった。



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