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【ユアママ編:第5話:アーではなくアイギスです】

ラドヴィスは右手に宿した雷神の力で、影獣の気配に敏感だった。

その力を行使すれば相対した相手の影を見抜くことも出来るのであった。

それとは全く別に武人として鍛え上げた幼少よりの鍛錬と、ここ数年戦場で鍛えた勘どころは敵意を捉える。

(影獣ではないな)

ラドヴィスは夜半に気配を感じ、目覚めた。

すぐ隣で眠るエルナを見やる。

この幸せそうな寝顔を自分が浮かばせたのだと、誇りに思った。

そんな満ち足りた寝顔だった。

起こすのがすごく惜しく、何時まででも見ていたいなと思ったが、敵が近いのも間違いないと感じていた。

「エルナ、起きて。声は出さないで」

そっと揺すり耳元にささやく。

パチっと目を開けるエルナ。

彼女も非常に寝起きが良いのだ。

時々寝坊するのは、ただ甘やかされたい合図だった。

必要な時は野生のようにパチリと目覚める。

「まだ遠いけど囲まれている。武装して」

そう言いながら自分も外していた装備を身に着けていった。

「影獣では無いけど、相当手練れだね人数は多く無いみたい」

そっとエルナも装備を身に着けながら問う。

「王国軍かな?」

エルナの表情は曇る。

王国軍にはほとんど影獣がいないと判っていた。

一部の将軍にだけ影の気配がある。

それと戦うのはただ人が傷つけ合うだけだと奇策をうったのだ。

シルヴァ傭兵団は弱ったぞと、逃げ腰だぞと。

大事な団長の結婚式まで延期して逃げて見せた。

誘ったのだ影獣の幹部を。

子鹿を逃がすため、わざと足を引いてみせる親鹿のように。

だが襲撃に影獣の気配が無い。

まだ焦る程ではないががっかりしたのだエルナは。

戦いの中エルナも多くの命を奪ってきた。

ラドヴィスももちろん。

だが2人共に人を殺めたいとは思っていないのだった。

はっとラドヴィスが飛び跳ねエルナをかばう。

テントの隅にあった影から人が湧き出したのだ。

「そんな!?結界はまだ破られていない!」

エルナの驚きは自身で貼った悪意を弾く結界に自信があったからだ。

「これは、作り物の様な気配。洗脳か?!」

ラドヴィスが歯を食いしばり抜剣する。

シャランとなったのはシルヴァリアの祝福した聖剣だ。雷神の力を借りずとも影を打ち破る。

影の様な人影は小さい。

陣地の合間を抜けてきたのだろう。

ここまで気配がないと闇夜で気づけるものではない。

思った通りの鋭い動きで刺突用短剣をねじ込んでくる。

色を確認するまでもなく毒入りだろう。

キンッと剣でいなし足払いをかける。ぱっと飛び上がるのはラドヴィスに追い込まれている。

ラドヴィスが動くより早くエルナの拘束魔法。

地魔法に属する植物を生み操る魔法だ。

ツタのようなものが刺客の両手を拘束した。

空中では避けるすべはなかったか、綺麗に拘束した。

同時に屋外から戦闘の気配。

「エルナそれ見張ってて!」

叫んだラドヴィスが外に駆け出す。

外の騒ぎは間もなく静まるのであった。

エルナは驚いていた。

拘束した刺客のマスクを取ると、可愛らしいとさえ言える年頃の男の子だったのだ。

7〜8才程の男の子はかなり整った異国風の容姿で、術が切れたのかそれが素なのか殺気がない。

慎重に武装解除して、痛くないように拘束し直したエルナ。

「君は何者なの?どうして殺そうとするの?」

「そのように生み出されたからです」

即答で答えがあった。

秘匿する必要がある情報は持たされていまいと察し、方針を変えるエルナ。

「私を殺したいの?この剣は毒が仕込んであるの知っている?」

「殺すよう言われています。このテントの中に居るもの全てを」

そうして尋問とも言えない様な会話を続けエルナは悟った。

(この子は刺客として必要な事以外なにも知らないのだわ)

「君の名前は?お姉さんに教えてよ」

「アー」

それは東方異国の数字だったか?とエルナは気付く。

(名前も貰っていないの?ひどい!)

エルナの女性的感はほぼ正解に至っていた。

「じゃあ、私が名前付けてあげる。うーん、アイギスよ。今日から君はアイギス。わたしの弟ね!わかった?!」

「弟とは何だ?」

そこからかーとちょっと辛い顔になるエルナ。

そうして後日ラドヴィスに「弟じゃなくこれじゃ子供だよ」と言われるまではエルナの弟になったアイギスであった。

弟にする事ができるほど、物事を知らなかったのだアイギスは。

まるで赤子のように無垢で、人になるために必要なことを一つも教えられていなかったのだ。



「何人死んだ?」

ラドヴィスの顔は表情を変えない。

この程度の犠牲は日常であった。

「4人だ。すまん」

そう告げたのはエルナ麾下の副隊長だ。

たくましい体でひざまずき、部下の遺体を抱き上げた。

彼の表情も変わらないが、遺体を運ぶ腕は震えていた。

怒りか悲しみか。

戦いの日々は喪失を当たり前にしてしまうのだった。

見かけ上は。

ラドヴィスの心も外には見せないが震えている。

(すまんみんな。ちゃんと弔う事すらしてあげられない)

すぐに逃げなければ行けないのだ。

刺客を恐れ、犠牲を出したのに弔いも適言逃げ出した。

そう見えるようにしなければ、彼らの命と覚悟を無駄にしてしまう。

シルヴァ傭兵団は民間人や王国軍の兵士を守るため、身を削る覚悟を既に決めていたのだった。

参謀長のセリアスと目が合う。

彼も厳しい顔で頷いた。

ラドヴィスの気質も知っているので、自分が酷薄に演じるのだ。

ラドヴィスの心をおもんばかって。

「ラドヴィス、進まねばいけません。わたしの策に従って下さい」

それは傲慢でも冷酷でも無く、ラドヴィスの負担を減らすための言葉だった。

「わかっている。すぐ立つぞ」

ラドヴィスも好意を受け取り厳しく告げるのだった。



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