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【ユアママ編:第2話:ラドヴィスのこくはく】

ラドヴィスにとってもエルナにとっても、とても長い旅の果に海に至る。

「す、すごい!!どこまでも続いているよ!ラヴィ!」

二人は実は家の意向で幼い頃から付き合いがある。

海におどろいたエルナは機嫌がわるかったのもほっぽって、昔の口調と愛称に戻っていた。

「エルナは初めてだったね海。ここはミルディス公国の南の玄関口になるユラ海だよ」

ほー、と関心するエルナ。

コバルトブルーにどこまでも続く夏の海に夢中である。

自身でも予習して来ているのだが、知識と現実の差にすっかり忘れてしまっていた。

「もう少しで港町が見えてくるね」

潮の香りも漂ってきてエルナは顔をしかめた。

「なんか変な匂い!!」

ふふっと笑うラドヴィス。

「海の臭いだね、すぐ慣れると思うよ。海はとても広いからどこまで行ってもこの臭いがするんだよ」

「ええ?!鼻がおかしくなりそうだよ?」

「あはっ、そうだね!おかしくなったら感じなくなるよきっと」

くすくすといつまでも笑うラドヴィスをみて、不機嫌を思い出したエルナ。

腰をあげていたので、座ってからツーンと横を向くのだった。




港町のホテルまで枢機卿を送り届けた二人は、騎士団の敬礼で彼をホテルに送り出した。

同じホテルの部屋を取ってあるので、明日の会合までは二人は自由時間となった。

初期の設定ではダブルの部屋だったのを、ご立腹顔のエルナが変更。

「シングルを二部屋にしてください」

混乱する受付の人間にラドヴィスも願う。

「そうしてください、差額がでるならこちらで支払ってください」

そういって金貨を握らせるラドヴィス。

その手の大人びた交渉もエルナは大嫌いなので、またしてもツーンレベルを上げるのだった。


部屋に荷物を預けてから、翌日の警備の打ち合わせをするため一階のラウンジで待ち合わせた二人。

「おそいです団長補佐!遅刻ですよ!」

弱り果てるラドヴィスがエルナの前に座る。

ツーンが進化して、ツンツーンくらいになっていた。

一階ロビーの待合せ用テーブルセットだ。

「ごめんね、お待たせ。でも約束には少し早い時間なんだけどな」

とちょっとだけ言い訳のラドヴィス。

答えはツーンであった。

やれやれと話し始めるラドヴィス。

「ごはんまだでしょ?食べながら済まそうか打ち合わせ」

そう言って外に誘うラドヴィス。

ホテルのラウンジでも食事は出来るが、枢機卿が二人には来ないよう臭わせていた。

ラドビスは、なにか密談でもあるのだろうと推察していた。

「すぐ近くにおいしいレストランあるんだよ。前にも来たことあってね」

そういって付いてくるのが当然みたいに歩き出すラドヴィス。

ツーンで無視を決めようかとおもったが、エルナもお腹が空いたので許してあげることにした。

「ラヴィが誘ったんだからオゴリよね?」

そんな事まで言い出す始末であった。

実はラドヴィスから見たらとても可愛らしいなと思うのだが、子供時代にそう言ったら拳で殴られたので言わないこととした。

今の力でやられたら歯が折れるなとも思った。




海浜公園に面した、ちょっと高級なレストランに入った。

騎士団の制服はあらゆるドレスコードを無視出来るので、すんなり入れる。

むしろ騎士団長補佐の襟章は効果抜群で、一番いい席に通された。

神殿騎士はどこに行っても優遇されるのである。

「すごい‥‥海が燃えているみたい」

今日は風もなく静かな海に夕日が沈み終わり、今は夕焼けだけをほのかに水平線に残していた。

エルナは海も初めてだったのに、夕日の沈むショーは大変気に入ったらしく、大人しくなっていた。

あまり会話はなかったが、とてもいい雰囲気で食事を取れた。

少しだけお酒も飲んだので、エルナは珍しくごきげんであった。

ここしか無いと思ったか、ラドヴィスが本音を話し始めた。

「エルナにお願いがあるんだ。あ!もちろんエルナが嫌いなタイプのお願いじゃないからね!」

すっと不機嫌に変わるエルナにあわてて補足するラドヴィス。

すっと真剣に見つめ告げる。

「力を借りたいと思っている。僕は多分騎士を続けられない」

言葉の意味が解らずコテンと首を曲げるエルナ。

とても子供っぽい仕草なのだが、昔からの癖であった。

「少し込み入った話がしたいんだけど、ここじゃまずい。少し散歩しないかい?」

そう言ってテーブルを立つラドヴィス。

もう、といって付いていくエルナ。

(むかしっから時々強引なのよねラヴィは)

子供時代にもどって愛称で心に呟くエルナは、言うほどラドヴィスを嫌う事ができない。


会計を済ませ、海浜公園にでる二人。

海が見下ろせる緩やかな丘に登り、東屋のベンチに腰掛けた。

ここからなら四方が見渡せるし、声も漏れにくい。

なにげに斥候兵としても優秀なラドヴィスであった。

「驚かないで聞いて欲しい」

そう前置きしてラドヴィスは今の悩みを相談するのであった。

自分が引き継いだ力と、その力で見た神殿の現状。

今回連れてきている枢機卿を始め、かなりの数の影獣が神殿には入り込んでいること。

それを父に相談したが、むしろ自分の信仰心を疑われる結果となったこと。

次になにか問題を起こせば、破門になる可能性も示唆されたこと。

恐らく次は家も追い出されるであろうとも。

「そんな‥‥本当なの?枢機卿様だけではなく、法皇様まで‥‥」

じっと真剣な目でみて答えるラドヴィス。

「今の教会は影獣の巣窟だよ」

ラドヴィスはこういった冗談や嘘を言わない男だとエルナは知っていた。









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