【ユアママ編:第1話:むかし語りのはじまり】
最初から申し訳ありません。ちょっとエルナの年齢と、追憶との年代差が間違っていて、直しました。
話の筋は変わっていません。思ったより若かったママ。
「おかあさん!どうしてあたしにはおとうさんがいないの!!」
あーんと大声で泣き叫び立ち尽くすユア。
「あらあら6才にもなった、おねえさんがどうしたのかな?赤ちゃんに戻っちゃったかな?」
そう言って、からかいながら笑顔でしゃがみ、抱きしめるエルナ。
20代も半ばを過ぎ、ユアを出産してもまだまだ若々しいエルナであった。
「ちがうもん!!」
叫ぶとぷっくりなって泣き止んでしまうユア。
膝を付き小さなユアに視線を合わせるエルナ。
「よしよし。さすがおねえさんだ、涙はもう止まったみたいね?」
ぽんぽんと優しく背中を叩くエルナにユアがぎゅっと抱きつく。
「あたしもおとうさんとお話したい‥‥」
涙は止まったが、悲しみがなくなったわけではなかった。
「よし、じゃあ今日は昔のお話をしてあげるから、ベッドに行こうね」
「うん‥‥」
ユアの大きな目にはまだ涙が溜まっていたが、それ以上流れてくることはなかった。
ベッドに入ったユアにエルナが昔語りをする。
それはユアも大好きな、父と母の出会いのお話だった。
「おかあさんは、おとうさんが最初からすきだったの?」
くすくすと笑いながら。
「最初はだいっきらいだったのよ!」
「ええ?!どうしてどうして!?」
さらに悲しそうにするユア。
ふふと笑いながら、ユアの髪を優しく撫でるエルナ。
「おかあさんもね、若かったから、おとうさんのこと誤解してたのよ」
「ごかい??」
「そうおかあさんが間違っておとうさんを悪い人だと思っていたのよ」
「たいへんだよ?ユアが産まれなくなっちゃう?!」
どこで仕入れてくるのか、ユアは結構おませさんだ。
「だいじょうぶよ。おちついてお話をきいたらわかるわ」
そういってユアの目をやさしく閉じさせるのであった。
「あれはおかあさんが15才のときのお話よ」
やさしく小さな声で話し始めるのであった。
それは今から12年前。
エルナ15才の夏のお話である。
エルナは優秀な騎士であり、実家の意向を組んで神殿騎士団に放り込まれた生贄。
妾候補として期待され、家からは主家の長男ラドヴィスの子を望まれているのだ。
若いエルナはそのことに険悪すら感じたが、貴族子女が騎士になる道はなかなか厳しく、むしろ利用したのであった。
そうして騎士団長の息子ラドヴィスの側近の1人として、側に仕えていた。
エルナは剣術も魔法も、男性の騎士に負けない才能を持っていた。
それは若いエルナにとってはとても大事なこと、強さこそ自身の価値であり、他者を測る物差しであった。
騎士団でも若手NO1であり、師範と言われる上位の騎士以外には負けたことがなかった。
そんなエルナが勝てない1人がラドヴィスなのだ。
そこもエルナがラドヴィスを気に入らない一つでもあった。
エルナとラドヴィスは度々二人で任務につかされる。
二人きりでだ。
そこにいやらしい意図があるのがみえみえで、エルナはとても不機嫌だった。
ラドヴィスがため息とともに話しかける。
「エルナ‥‥機嫌直してよ。枢機卿様の前だけでもいいからさ」
ツーンである。
4頭立ての馬車を二人で交代で操っていた。
「用がないなら話しかけないでください、団長補佐」
エルナの声は硬いを通り越してトゲトゲしい。
騎士団では年齢も近いので、訓練を通しよく話すのだが、エルナは一向に心を開かない。
ラドヴィスも実家やエルナの家の意向を理解してないわけではないが、最初にそこは気にしないで行こうと話してあった。
後部の客室には公都エルガドールから枢機卿の1人が乗り込んできている。
かなりの遠出任務で、片道で5泊はあると予定している。
目的地でも何泊か予定しているので、半月ほどの旅程となる。
(今回の旅行でなんとか普通に接してくれるようにならないかな?)
ラドヴィスには現在野望があるのである。
その達成にはエルナの力も借りたいと思っていた。
将来をみこした仲間として期待しているのだった。
「何回も話したけど、実家の意向は気にしないでいいから、お互いのためにもそこは忘れようよ」
キっと睨んでから、ツーンである。
「はぁ‥」
先行きに不安しか無いラドヴィスであった。
ラドヴィスには秘密が有った。
栄光ある神殿騎士団の長を父に持ち、幼い頃から武人として育てられたラドヴィス。
ある日修行の一環としてまだ学生だったラドヴィスは騎士団と共に遠征に参加した。
そうして雪月山脈にほど近い村で休憩中に1人で散策していたラドヴィスは、何かに呼ばれた気がしてふらふらと森の中を進んだ。
そうして迷い込んだ先にあったラウマ像の祠で、とある人物に出会う。
彼女は年若い娘だったが、死に瀕していた。
全身に刀傷や矢傷があり、1人で逃亡しているのだと聞いた。
傷以上に彼女を痛めつけた事情が有ったのだった。
そうして死にかけた彼女からとある事を託される。
右手をラドヴィスに掲げた彼女はこう言うのだった。
「力を頼りすぎると自分を損なうから、気を付けて」
お互いの右手を通し光とともに膨大な情報も流れ込む。
悲鳴をこらえたラドヴィスは、彼女の最後を看取ったのだった。
彼女は実は王国を追われてきた隻腕の剣士だった。
不思議なことに光とともに彼女の体も消えてしまい、後には右手の光だけが残った。
彼女の残した記憶がささやく。
「どうか影獣を倒してください」
彼女の記憶から影獣という魔物が人類に広く隠れ潜んでいることを知り、この右手の力でラドヴィスは影獣が化けている者を見破ることが出来るようになったのだった。




