【ミーナ学園編:エンディング】
魔法学院にも春が訪れる。
春は進学進級の時期に当たり、出会いと別れも交差するのであった。
第一学年の首席は無事レティシア・カタリナ・ヴァレンシュタインとなった。
実は成績上では3席となるのだが、上位二人が飛び級で4学年に進級が決まったのだ。
ここには実は高度な政治も絡んだりしたのだが、某公爵家や某伯爵家の意向には逆らい難いとの判断も有ったとかなかったとか。
もともとミーナは学院としてもカーニャを超える逸材としたいので、どうやっても上げる気ではいたのだ。
そこに条件として「エーラも一緒ならいいです」と言われ、これ幸いと各家の意向も汲み取ったのだ。
そういった大人たちの事情は置いておいて。
少女達は驚くほど短期間に驚くほど沢山の人と驚くほど親密になっていったのだった。
その中心にはいつもミーナがいて、レティシアとエーラが支えていたのだった。
まずは女子寮が変化にさらされる。
伝統がなどと抵抗もあったが、食事やお風呂の自由化や、部屋割のトレードなども認めさせた。
これによって少なからぬ女子が喜びの涙を流すのであった。
次には学園内にもこの風潮は染み込みつつ、いつの日か魔窟男子寮にまでいたるのではなどと予想する不届き者もいたとかいないとか。
これらの変化は総じて「ミーナ化」と称されて大概は喜ばれているのであった。
一部魔窟では「天使の侵食」などと呼び交わしているとも。
「レティも大丈夫??」
「平気よ!いっぱい練習したもの」
「大丈夫いざとなったら私も支えるよレティ」
ミーナの心配にレティシアもエーラも太鼓判。
今は日の出前で、今日は天気もよく風も弱かった。
計画を実行するには最適な天候であった。
ここは内壁の上にある見張り用の通路の上だ。
王都では王城以外で一番高い場所である。
ミーナがさらに回りを見渡す。
「セレナさんもフィオナさんもいけるかしら?」
そこにはレティシアの侍女たるセレナもフィオナもいる。
実はあの騒ぎの後ミーナとエーラがそれぞれにアタックして口説き落としていた。
レティシアに入れ知恵されたぬいぐるみの話題も、一役買ったのであった。
今では5人で深夜までぬいぐるみ談義をしたりもする。
セレナのぬいぐるみを前にした変化にはフィオナですら目をむいた。
「まかせて、魔力は十分だし最悪セレナは私がささえるわ」
「私も練習したから大丈夫だぞきっと」
普段はいまだ男らしいセレナであった。
「ミーナ時間がぎりぎり!始めよう!!」
エーラが時計を確認してGOサイン。
「よおっし出発するよ!」
日の出前の濃い紺色が広がる空に、5人の少女が舞い上がる。
この日のためにお揃いで準備した外套は真っ白な厚手のコートであった。
万が一の安全のため、一番魔力の多いミーナが中心で、左右にレティシアとエーラ。
それぞれがセレナとフィオナの手を取っている。
横一列に並びぐんぐん上昇する5人。
「計算ではそろそろだよ!!」
風に負けない大きな声でエーラが左右に告げる。
どんどん上昇していく中、東の空に曙光が走る。
その瞬間に眼下には山をこえ巨大な湖が見えるのであった。
「まにあったあ!!!」
ミーナの声とともに、5人が目を閉じ手をつなぎながら祈りを捧げた。
眼下の湖は『アウシェラ湖』
太古の昔に暁の女神アウシュリネが人々の幸せを願い作ったのだと言う。
この湖には一つの伝承があり、言葉無く交わされた同じ願いを持つものに祝福をくれるというものだ。
それは真実たれと誠であれと言う訓戒であったかも知れないが、少女たちにはそれで十分なのであった。
登りゆく日の出の眩しさが5人の顔を晴れやかに染めた。
それはきれいに揃った透明な笑顔であったのだ。
こうしてミーナの王都学院生活が本当に始まるのである。
かつて病床に付した少女が生き延びることだけを望んだ先に、祝福された空が広がっていたのだった。
この日ついにミーナのやりたいことリストは全て達成されたのだった。
最後の一つは
『みんながえがおでありますように』
そう書かれていたのだった。
涙に滲んで。
これは手をつなぐ物語。
希望を捨てなかった少女の夢がかなう物語。




