【ミーナ学園編:第19話:月だけがみとどける】
手紙を読み終えたレティシアが話しかける。
「あの‥‥ミーナさん?」
「ふわあ???!なんでしょうお嬢様」
取り繕えもできないミーナであった。
ミーナの視線の意味に気づいたレティシア。
「ええと、くまちゃん抱っこしてみます?」
「ええ?!いいんですか!!したいしたい!」
みえみえの感情がばれていたミーナにそっとくまのぬいぐるみを渡す。
ぎゅむっと遠慮なく顔からいくミーナ。
アミュアに抱きつく要領だ。
くまは大きくミーナの上体からはみだす大きさだ。
「ぷはぁあ」
堪能したのか顔をあげたミーナ。
目をまんまるにして驚いているレティシア。
抱きつくというより襲いかかるいきおいであった。
「おきにめしまして?」
「おきにめしました!」
ユアのような受け答えで元気がよかった。
くすくすと二人で笑い合い、タイミングがあったのがさらにおかしく声をあげて笑うのであった。
「あははははは」
「うふふふ、あははは」
最後は二人で声を揃えていた。
クマを返納するミーナ。
とても名残惜しそう。
「ミーナさん」
クマを受け取り横に置くと、姿勢をただし自分も正座したレティシア。
「エーラさんにお伝えしてほしいことがございます」
眉を下げすこし悲しそうにするレティシア。
「まずはお怪我お大事にと。そしてわたくしの使用人がご迷惑をおかけしたこと深くお詫びいたしますと」
後半がよく解らなかったが、ミーナは驚くほど記憶力がよく、人の話を一言一句間違わず記憶するのだった。
メッセンジャーとしてこれほど優秀な人材もまた居るまい。
話は終わったようだと、立ち上がろうとしてレティシアに引き止められる。
「ミーナさん」
じっと見てくるレティシアが急に顔を赤らめて視線を逃がす。
ミーナの服のはしをちょびっとだけつまんでいた。
ミーナは不思議そうにレティシアを眺めていた。
「あ、あの。」
ついに真っ赤になるレティシア。
「もしお嫌じゃなかったら、また遊びにきてくれませんか?今度は正面からでいいですわ」
意図がわかったミーナはにっこりしてレティシアの手を握る。
膝も突いて目線も合わせた。
「もちろん。光栄ですわお嬢様」
にっこり笑ったミーナにレティシアもにっこり笑顔を返した。
まだ耳まで真っ赤でなんだか可愛いなとミーナは思ったのだった。
今日はこっちから帰りますと窓からでるミーナに、最後の言葉を告げるレティシア。
「こんどからレティと呼んでくださいませんか?ミーナさん”お嬢様”もいらないわ」
窓に片足を掛けたミーナが振り返る。
「侍女さんにおこられないですかね?」
こてんと首を傾げるのだった。
「大丈夫、ちゃんと話しておくわ!お友達になりましょう!」
ついにレティシアは言葉にしたのだった。
この一年間だれにも告げられずいた心の声を。
「ありがとうレティさん、私のこともミーナと気安くよんでね!」
「うれしいわミーナ、ではわたくしにも敬称は不要よ!お友達ですもの!」
こうして身分も育ちも何もかも違う二人が友人となった日であった
月も祝福するように力強く二人を照らし出した。
よくいえたねと褒めるように。
ドアから入ってきたのはセレナを先頭にぞろぞろと3人だ。
エーラは驚いたが、セレナの顔をみてピンと来ていた。
最後に入ってきたフィオナもドアを閉め横に並ぶ。
3人でエーラに習う様子だ。
「エーラ嬢、いままでの非礼を詫びさせて欲しい。すまなかった」
深々男らしいお辞儀をするセレナ。
その横で何方かのお嬢様とフィオナも深く謝罪を示した。
「どうぞ頭をお上げください皆様」
にっこりと優しい声がでてエーラは微笑むことが出来た。
「事情を説明するわ」
すっかり角の取れた話し方でフィオナがあとを継ぎ、来意を告げた。
この真ん中の娘はヴァレンシュタイン伯派閥下の男爵家長女であると、名乗りも本人よりあり謝罪もあった。
引き続き調べ上げた事の真相を話すフィオナ。
セレナは直立不動で上を見て唇を結んでいる。
ヴァレンシュタイン家各家々で勝手にレティシアお嬢様をもり立てるよう指示が出ていたこと。
エーラとミーナがレティシアのライバルとなり、こちらに都合が悪かったこと。
今回の実技試験でハンターカーニャがいたので、嫌がらせは諦めていたこと。
その指示に従わず手を出した娘がいたこと。
「自分で説明の上、再度謝罪を」
厳しいフィオナの声にビクっとなり娘が話し始めた。
「実は先日出発の前に手伝ってくれるという背の高い女性に会いました」
どうもその謎の女性はカーニャに恨みが有るようで、ミーナに怪我を負わせられるなら手伝うと申し出たらしい。
小型で持ち込みやすいクロスボウと矢を数本貰ったらしい。
結界が有るようなら自分が魔法で壊すので、その隙に近づき撃てと指示された。
ささっても死に至るほどの威力はないし、嫌がらせの域をでないと背を押されたと。
実際にミーナに撃った所恐ろしいほどの威力であったこと。
怖くなってそのまま逃げて隠れていたこと。
ミーナ達の前方の騒ぎもその女性が目くらましに起こすと聞いていたこと。
それらをとつとつと白状し最後に深々と頭を下げた。
「ごめんなさいエーラ嬢、本当にこんなことになるとは思っていなかったのです」
ふるえるその娘を愚かだとはおもったが、憎むことはエーラには出来なかった。
「どうか頭をお上げください。命にも別状はないと医師にも断言されました」
きゅっと眉尻をあげ口を引き結ぶ。
「ただし、二度と私の友人に弓を向けるなどゆるしません」
静かだが気迫のこもった宣告にセレナですら怯んだのであった。
「それでは失礼する。今後ともエーラ嬢、ミーナ嬢に関わること無きよう徹底させるのでご容赦いただきたい」
セレナが真摯に告げ、3人は退室していった。
窓からは明るい月が差し込み、普段以上に明るい部屋の中。
エーラは少し興奮していた。
(言ってやったわ!)
ちいさくガッツポーズのエーラ。
(私だってやれば出来るんだわ!あのセレナさんがひるんでたわ!)
それは後に偉人とまで言われる魔道具博士の、最初の一歩であったかも知れない。
ただ月だけがみとどけるのであった。
その勇気ある一歩を。