【ミーナ学園編:第17話:事件の結果解ったこと】
エーラ以外に生徒の負傷者は出なかった。
発生した事態に対して犠牲は少なかったとも言える。
ただのDクラスハンター1人である犠牲は。
王都ハンターオフィスの会議室。
皮肉にも出かける前に説明を行った会議室だ。
カーニャは査問を受けていた。
現場にいた最高ランクとしてどのように事態に関与したのかと。
「そもそも何故に魔法学園の依賴に同行していたのかね?意図を説明願いたいが?」
これはカーニャをうるさがっている派閥の者だ。
「いえ、カーニャがいたからこの被害で済んだともいえるのでは?」
こちらは擁護派、カーニャの出世に利権があるのであろうか必死である。
「それは先程も話しをしたがね‥‥」
少なくとも3つの派閥が有るようね、とカーニャの観察。
会議は紛糾し、カーニャの発言は結局最後まで回ってこなかった。
「カーニャ君言いたいことはあるかね?」
「ありません」
ここが延々と立たされていたカーニャの唯一の出番であった。
半日に及ぶ会議の中で。
魔法学院職員の間でも会議は紛糾していて、こちらにもいくつか派閥が有るようで誘導しバイアスをかける作業が延々と続く。
最終的にハンターオフィスの調査報告待ちと、半日の会議の末結論付けた。
現場に引率した教師の発言機会は、椅子には座っていたがカーニャと変わらなかったという。
「エーラあーんして、りんごむいたよ」
帰寮して翌日までは医務室に止められたエーラは、今朝になり釈放された。
自室にミーナの肩をかり戻ったあと、少し熱が出て寝ていたのだ。
午後になり目覚めたところである。
シャリと果実を噛むおとがして、ミーナは笑顔になる。
顔色も大分いいので、安心したのだ。
エーラのベッドの横に自分の椅子を持ってきて座っているミーナ。
自分も時々食べながらりんごを半分二人で食べた。
残りは晩御飯の後に食べようねと、布巾を掛けて日陰に置いた。
「ミーナ‥ごめんね大騒ぎになって」
眉がさがるエーラ。
いつも前髪に隠れているエーラの眉が珍しいなとにっこりするミーナがエーラの髪をなでる。
「ぜんぜん。あの時エーラがかばってくれなかったら私に当たっていたかも」
暗闇から飛んできた悪意はどこが狙いかはよく解らなかった。
闇魔法らしき手応えで結界が破られた直後に矢は飛来した。
直ぐ側のエーラが状況が判らないなりにミーナ覆いかぶさりかばったのだ。
その後は気を失ったエーラにパニックになったミーナが縋り付くだけとなった。
カーニャが来るまでは。
「カーニャさんやっぱりすごいよね、お医者さんも褒めてた、初期対応がよかったねって。傷もあまり残らないと言ってもらえたよ」
エーラの中ではまだハンターカーニャのイメージだが、妹に話すのだからと自然に名前をだしたのだ。
エーラはそういった気遣いもできる女の子であった。
「うん、私も姉さまの戦っている所ちゃんと見たのはあんまりなくてね」
しばらくはそうしてカーニャの話や、外部試験の話をしてエーラの状態を観察したミーナ。
体調は大丈夫と判断し、核心をたずねる。
「エーラお願いがあるの。正直に答えて欲しい」
まっすぐに見てくるミーナは瞳に決意を宿していた。
これはごまかして終わりにはできないかもとエーラも覚悟を決めた。
「なんでも聞いて」
うなづいたミーナは聞きたかったことだけ訊くのだった。
「侍女がやったと思う?事前になにか言われてたでしょう?」
まゆが下がり悲しそうに訊くミーナ。
少しだけ考えてから話すエーラ。
しっかりミーナを見返す目には意思が宿っている。
「落ち着いて聞いてほしいのだけどね、事前に話はあったの。臭わせくらいだけど」
きゅっと眉がうごくミーナが唇も引き結んだ。
めったに見ないが怒っている顔だ。
不思議なことに少しだけ嬉しいエーラ。
自分のために怒ってくれていると感じたのだ。
「でもあの襲撃は違うと感じたわ」
ふむ?と保留の表情になるミーナ。
ころころと変わる表情が愛らしいなとエーラは感じる。
「ミーナはどうして侍女が私に構うかわかる?」
「わからないわ」
即答であった。
実際考えたことや想像したことは有ったが、結論には至らないのだ。
ミーナはそもそも人の悪意をよく解っていないのだ。
「侍女いえ、セレナさんとフィオナさんはレティシアさんを守りたいのよ」
「??」
もうついて行けないミーナであった。
にこっと笑いエーラが続ける。
「きっとレティシアさんに首席で卒業して欲しいのだわ。同じ学年にわたし達がいたのが困りごとだったのよ」
なにか言いかけて辞めるミーナ。
エーラは続けた。
「セレナさんもフィオナさんも悪意を向けるけど、悪人だと思えない」
もう本当に解らなくて困り顔のミーナ。
「くすっ、いいよミーナそんなに考えないで、とにかくあの二人やレティシアさまがあんな酷いことするわけがないのよ」
とても酷いことを続けられていたエーラがそういうのだ。
ミーナにはわからないほどの強さがエーラには備わっていた。
これは侍女達のおかげとさえ言えるのだ。
真剣な悩みは、人を真剣に生きさせる力を授けるのだ。
そこにこそ真の成長があったと、今のエーラは理解したのだ。
「話は終わりかな?私からもお願いがあるの。聞いてくれるかな?」
自分にはわからない形で話が終わってしまったと、もやもやしていたミーナ。
あわてて答える。
「なんでもするわ!」
「女の子はそういうこといってはダメよ」
唇に指をあて悪戯っぽくわらうエーラ。
珍しくお姉さんぽい。
「手紙を届けてほしいの」
はてなはてなのミーナであった。
晩ごはんまではまだまだ有るので、それまでに書くわとエーラは笑った。
ミーナはやっぱり意味が解らずにコテンと首を傾げるのであった。