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【ミーナ学園編:第16話:あわててはダメでした】

もうすぐ出口かなという辺りで、前方から騒ぎが起こった。

悲鳴が上がり、魔法が発動した光も見えた。

「ただの戦闘じゃないわね。ここで待機してミーナ残りをあつめて結界貼るように」

すっとそれだけ告げて滑るように前進していくカーニャ。

その動きは洗練され、足音どころか気配さえ感じ取れなかった。

まさに風のように消えるのだ。

未だ出口は見えず暗闇の中、ミーナが指示する。

「エーラ後方監視。二人は前を」

それだけ告げると詠唱に入った。

依然前方からは不穏な気配だけが伝わってくる。

ミーナの詠唱が終わり、ドーム状の大きな結界が張られる。

「ヴェールフィアレス」

魔法名まで発音するのは授業の影響であったか、中級魔法の結界を展開した。

あまり強度は高くないが、維持コストの低い長期戦向けの選択だった。

結界内部に精神安定効果もある野営時にも使われる事がある魔法だ。

ミーナの魔力なら半日でも貼っていられる。

先程の戦闘からざわざわと心が波立つミーナ。

何とはなく不安にかられるのであった。




(なぜこんな浅い階層に!地影竜は階層をまたぐとは訊くけど)

素早く強化魔法まで纏ってたどり着いたカーニャが見たのは地面から生えた巨大な赤い首であった。

前衛も後衛もなくなり、散り散りに逃げようとする生徒達。

その一番前でハンターが息絶えている。

上半身がなかったのだ。

「貴方達!!できるだけ出口に向かって!」

いいつつ無詠唱の結界を生徒と竜の間に展開。

通路を完全に塞がれた竜は進めず戸惑った。

瞬間、天井まで飛び、蹴り返したカーニャの突きが入る。

シュド!!

黄金の輝きが宿り、レイピアで開けたとは思えない穴が竜の首に開く。

突いて着地と同時に地面が破裂するほどのバックステップ。

直後に爪を開いた腕が地面から生えてカーニャの居た辺りを薙いだ。

地影竜は影魔法を使い本体を地中に隠すのだ。

本来はこのダンジョンみたいな浅い階層では見ない魔物だが、イレギュラーは起こると訊く。

(それにしてもおかしい。誰かがトレインしてきた?)

熟練のハンターでも、強敵に出会い逃げ出すことは少なくない。

他のハンターに協力を求めることとてあるのだ。

それにしても意図せずここまで連れてくることはあるまい。

(悪意をかんじるわ)

そうして並行して考察しながら戦う余裕がカーニャにはあった。

竜のランクはAで、Aクラスでも単独撃破は本来難しい。

カーニャが本気を出せばSクラスの魔物でも拮抗可能なのだ。

最近は昇級の打診すらハンターオフィス内であるのだ。

最高位たるSランクに。

現在のハンターオフィスでは空位となっているSランクだけに、反対派も少なからず居るようでまだ話は進んではいないようだ。

ざわりと殺気を感じるカーニャ。

(後ろ?!)

思った瞬間に詠唱を始めた。

ぶわりと浮き上がるカーニャに竜が襲いかかる。

待っていたぞと言わんばかりに詠唱中のカーニャを、ひと飲みにすべく口を開け飛び出してきた。

その体が半分程出た所で見極め、詠唱破棄し地を蹴るカーニャ。

短期決戦のため自分をおとりに、おびき出したのだ。

全身を覆う金色が輝きを増し、レイピアを先頭に一本の巨大な槍と化した。

ビシュウウウゥゥゥ!!

地面を蹴り砕き発射されるカーニャが、竜の胴体を綺麗に貫通し降り立った。

回転を収めるため地面が削れる。

螺旋を描き威力を高めた全身での突き攻撃。

光魔法の付与もあり一撃で竜を仕留めたのだった。

「ミーナぁ!!」

着地の勢いのまま後方に走り去るカーニャ。

カーニャが走り去ってから巨大な竜が地に落ちるズンという音が響き渡った。

入口方面で結界が崩壊する、持続時間が過ぎてカーニャの貼った魔法が切れたのだった。

「‥す‥すげえ」

ぺたりと座り込んでいた魔法戦士の生徒は、自分の学んだ先にある究極を目にしたのだった。

あちこちで同じように座り込んでいた生徒達は言葉もない。

ハンターの引率者が眼の前で死んだショックすら、一時忘れるほどの美しい戦闘を目にしたのだ。

真紅の外套が黄金をまとい去っていく。




「エーラ!!ダメだよ!しっかりして」

肩に矢が刺さったエーラに取りすがりミーナが泣いている。

カーニャが駆け戻って最初に見たのはその姿だった。

残りの二人は壁際で抱き合い震えている。

(襲撃?!矢が使われた、毒の可能性)

たどり着くなり、ミーナを引き剥がす。

「下がりなさいミーナ、任せて」

ぽてっと後ろに座り手もついたミーナは泣き顔。

「説明して」

短くミーナに言いながらエーラの傷を確認、ディテクトマジックも発動。

(魔法はない、変色もないから毒はないか、そんな強い毒ではないわね)

びりっとエーラの傷の回りの衣服を裂く。

布はそんなに簡単に裂けないのだが、Aランクの自力で裂いたのだ。

貫通してないが、出ている矢羽側の残りが少ない。

短い金属製の矢、小型のクロスボウと思われる。

思考が戦闘モードで動くカーニャはもどかしい。

ミーナの説明を待っているのだ。

軽く矢を引いてみる、鏃の手応えは少なくこれなら折れずに抜けそうと判断。

生活魔法で水を作り、傷の回りを洗う。

直後躊躇なく矢を引き抜いた。

「はああうぅ!」

痛みで覚醒したエーラが呻くが、カーニャの手は止まらず、傷を洗う。

大丈夫と思ったが念の為傷から血を吸い出してみる。

唾液は意外と役に立つ傷薬となるとも知っていた。

口の中の血液を試す。

(毒はなさそう)

ぺっと吐き出し、腰の収納ポーチから救急セットをとりだし治療を始めた。

「うああぅ!」

痛そうにエーラが動こうとするが、片手で抑えるカーニャを跳ね除けられない。

それくらいの力の差があるのだった。

汗だらけになりびっしょりのエーラをしっかり押さえるカーニャ。

容赦なくクスリを傷に塗り込み、ガーゼをあて口と手で包帯を縛っていく。

悲鳴には、はいはいと答える冷静さ。

ここまできてやっとミーナの思考がもどる。

「ねえさま!エーラが!」

すっとやさしい目でミーナを見るカーニャ。

「頑張ったね、大丈夫だから安心して」

頷いて見せて安心させるカーニャ。

壁際の生徒にも視線をあて微笑んだ。

「貴方達も大丈夫?怪我はないかしら?」

こうして波乱だらけで外部試験は終わるのであった。

不穏な謎を各所に残して。





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