【ミーナ学園編:第15話:たたかってうばうこと】
王都から現場までは6台の魔導自走馬車に振り分け、パーティ+引率者が乗り込んだ。
引率者が馬車を走らせるような配置だ。
最後の一台は教師と侍女が乗り込み、侍女の1人が運転した。
いろいろと救急用品や食事なども馬車の収納に収める。
その作業も含めた外部試験であった。
ミーナは一度馬車で旅を経験しているので、率先して動きエーラ含めパーティメンバーの信頼を勝ち得た。
もちろん引率はハンターカーニャであった。
エーラ含め目がハートマークで大変だったが、エーラにもカーニャにも釘を差し、姉妹だとは内緒にしてもらった。
移動中にハンターから注意事項が説明される。
「さて、戦闘は基本的にみなさんが担当です。わたくしは手出ししませんので承知おきを」
カーニャは声まで美しく、3人の目はハートマークを増やすのであった。
「危険と判断したら介入しますが、パーティとして減点になります。重大なミスがあれば中止して切り上げますので慎重に」
にこりともしないカーニャはむしろ威力満点の説明であった。
凛々しいわ!減点でもいいから助けられたいわ!とかキャーーキャー3人で盛り上がっていた。
ミーナがこっそりカーニャを見ると、パチっとウインクしてくるのだ。
(姉さまなんだか楽しそうです)
カーニャとしても妹が心配だったのだ。
DかCランクで引率やってくれないかと依頼表がでると、真っ先にカーニャがカウンターに飛びついた。
「いえ、カーニャさんこれは学園からの依賴でして‥‥」
などと困り果てる職員を片手で締め上げ、眼力で黙らせサインさせたのだった。
「それでは始めてください!」
教師の声でダンジョン前の広場から出撃する学生達。半数くらいは前衛もこなせる魔法戦士だ。
ミーナはカーニャにプレゼントしてもらった銀ロッドを左手にもった。
「少しタイミングずらしていきましょう」
3人に指示を出すミーナ。
全会一致でミーナがリーダーだった。
事前にカーニャからアドバイスをもらっていたのだ。
わあっと入ると混戦になって危険だから、少し遅れた方が良いと。
同じように考えたのかレティシアのグループも近くで待機していた。
見回したミーナとレティシアの目があった。
ちいさく手をふってくるレティシアからは悪意を感じないのであった。
(どうして侍女はいじわるするのかな?レティシアさまは優しそうなのに)
わずかな関わりからでもミーナはレティシアの本質に近づいていた。
緊張した残りの3人だが、エーラは背後を気にしている。
(またあいつら何か言ったのね!)
ミーナはこっそり腹を立てていた。
チラ見するエーラの視線の先には、侍女達がいるのだ。
ミーナには侍女の意図がさっぱりわからないのであった。
譲り合って最後に入ることとしたミーナ達は、レティシア達の後からゆっくりと慎重に進むのであった。
座学でも一度は習う討伐依頼である。
崖に穿たれた巨大な洞窟で、高さは飛び上がっても届かないほど、横も同じくらい有る。
それが黒黒とどこまでも奥に続いているように見える。
実際には半日と行かず行き止まるらしいのだが、果ては感じられずいんいんと細かな音が反響している。
どこかで戦いが始まっているのであろう。
知識としてはミーナはじめ皆が把握しているのだが、実地は何かしれない迫力があるのだった。
詠唱が終わり、暗闇を光魔法で払うミーナ。
ロッドの先に追従する光の玉をだした。
基本的に魔法学院では詠唱して魔法を使わせるのだ。
式を重ねるような多重詠唱は大学の専攻で、無詠唱は理解を下げると指導される。
学生たちは武道で言う型をなぞる段階なのだ。
技の意味を理解する段階で、応用はその先にだけあるのであった。
洞窟を進むと何度も分かれ道が有る。
毎回交代で魔法を使い、悪意を確認しながら進んできたのであった。
洞窟の分かれ道の手前でエーラのディテクトイビルが発動、緊張した報告がくる。
「右手に3つ気配があります。おそらく敵性と思われます」
ミーナのパーティには前衛が居ないので、ミーナが結界魔法を使う魔法盾士となるのだ。
光源はミーナだけが出すことで注目を集めやすくなる。
じりじりとロッドを向け進むミーナを、最後尾からはらはらしてカーニャが見ているのだ。
すでにレイピアは抜いており、戦闘態勢であった。
流石に緊張している他のメンバーもカーニャを見ている余裕はない。
気配が動くのを感じて詠唱をはじめるミーナ。
お手本のような高速詠唱で敵が現れる前にシールドの魔法を発動する。
ミーナの体を隠せるほどの大きな丸い結界が右手に張り付く。
教本どおりに壁を背負い残りのメンバーは詠唱を始めていた。
右手の分かれ道からモンスターが飛び出してきた。
ぬめりと光を反射した胴をうねらせ巨大なミミズが襲いかかった。
先端の丸い口には無数の牙。
その太さはミーナを丸呑みしそうな大きさであった。
思いがけず速い動きに3人の詠唱が途切れる。
ミーナは横目に見ながら並行詠唱したアイスニードルを2連射する。
シュピピと2本の矢が飛び、あやまたず2匹の胴を貫いた。
「GHAAAA」
みみずって鳴くんだと場違いな感想を持ちながら右手に連動させていた結界魔法で残りの一匹をなぐる。
きれいに3匹ともミーナにヘイトが向いた。
威力は低くとも注目を集められる魔法を選択したのだ。
見事な盾役ぶりである。
カーニャは後ろで小さくパチパチ拍手して喜んでいる。
運動会に来た親のような表情。
後で怒られないように声は我慢したようだ。
(もう姉さまったら)
ミーナの心は落ち着いていた。
やはり一度命のやり取りをしているのが大きいのか、ミーナの視線は乱れない。
やっと詠唱の終わった3人から中級魔法が飛んでくる。
ズン!と大きな音を立て太い氷の槍が突き立ち3匹とも沈黙した。
中級氷魔法のアイスジャベリンであった。
結局ミーナ達は結界を張り直さず倒したのであった。
すでに結界を維持しながら、2回めの結界を待機まで詠唱していたのだ。
魔法を破棄し、支給されているナイフを取り出した。
「さあ、ぱぱっと解体しましょう」
ミーナは指示をだすのであった。
なんか液が!とか顔についた!などと騒がしくしながらも、魔石と判定部位である牙を取り出した4人はカーニャを振り向く。
きれいにウインクしてOKマークのカーニャ。
これで授業としての戦闘は完了であった。
あとは戻るだけである。
「なんだか早く帰ってお風呂に入りたいです」
言いだし、手を見ているエーラに他の二人も同意する。
「ほんとね~手は生活魔法で洗ったけど、なんだか綺麗になった気がしないわ」
「それほんとー、ざわりとするよね全身が」
いわれてみてミーナも同意するのであった。
「ほんとうです、なんだかすっきりしないですね」
現場で手洗いまで済ませたが、どこかしらぬめりとして汚れた気分になる各員。
実はその感覚こそが命を奪い悪意を向けられた手触りなのだが、興奮している彼女達はまだ気づかないのであった。
ミーナでさえも。