【ミーナ学園編:第1話:ねえさまといっしょ】
このお話は「わたしのつなぎたい手」「わたしがわたしになるまで」で描かれなかった外伝です。
本編読まずとも意味は通じるかと思いますが、お時間ありましたら本編から読むのをお勧めいたします。
スリックデンを出て3日。
魔導汽車にて王都まで来たミーナは、駅舎でカーニャに出迎えてもらう。
「ミーナお疲れ様。大丈夫だった?疲れていないかしら?」
ステップを軽々おりるミーナは、にっこり笑顔になった。
疲れは一筋も見えず、未来への希望で輝いているのである。
「平気です!元気いっぱいですよ。姉さま本当にありがとうございます、沢山助けていただきました」
今回の王都での進学は、カーニャの金銭的支援も多々あったのだ。
ミーナ大好きのカーニャは、ミーナさえ元気なら何でも良いと言わんばかりの笑顔になる。
「よかったわ。私も汽車できたけど、結構長くておしり痛くなったわ。毛布作戦聞いておけばよかったユア達に」
くすっと微笑むミーナ。
「そうなんです。アミュアに聞いて、小さな毛布を手荷物に入れてきました。役に立ちました!」
秋に入り以前来た時と違い、大分涼しくなっていた。
ミーナは成長期なのかぐんぐん身長が伸びていて、カーニャは会う度に驚かされる。
「あれ?ミーナまた大きくなったのではない?かかと有る靴だった?」
言いながらミーナの足元を確認するカーニャ。
すっとななめに靴を立ててみせるミーナ。
「ふつうのブーツですよ?」
特別ヒールがあるわけではなく、身長が伸びているようだ。
肉付きも良好で均等に大きくなると気づき難いのである。
「なんかすぐに背が追い付きそうね?なんだか淋しいわ」
そういってカーニャが軽く抱きつく。
「アミュアには追いつきたいのです!身長」
「あはは、じゃあいっぱい食べないとね!お肉苦手は治ったかな??」
「うぐぅ、すこしづつ食べてます‥‥」
ミーナは肉全般が苦手であった。
最近はアミュアにも勧められ、煮込み料理をチャレンジしている。
柔らかく、匂いが薄れると食べられると気付いたのだ。
「さ、今日はホテル取ってあるから、荷物置いて出かけましょう」
そうして並んで歩いていく金髪の二人は、一目で姉妹と解る相似を描いている。
13才になったミーナの身長は、いつの間にかカーニャの肩を越えていたのだった。
ホテルの部屋に手荷物を置いて来て、身軽になった二人が並んで出てくる。
カーニャは最近使っている、装飾が少なくなったレイピアだけ釣っていた。
「姉さま街中でも武装するんですね?綺麗な剣です」
以前の誘拐未遂事件で反省し、ミーナと居るときは必ず武装することとしていた。
「ユアに意見されてね‥‥不要は装飾は重いだけだっていわれちゃったの。やっぱり突き詰めるとそうなるのは解るから新調したのよ」
カーニャのレイピアは以前は蝶が羽を開いたような大きい装飾が付いていたのだ。
今のは銀に金が差し入れられて、美しいがシンプルなものになっていた。
「それもとても姉さまに似合います!かっこいいです」
ハンターも護衛や警らの人員も居るので、武装している人は多くはないがそれなりにいる。
カーニャはすでに王都でも名を挙げたハンターとして、顔が知れ渡って来ていた。
Aクラスハンターは、王都でも数人しかいないのだった。
今は赤いレンガ敷の歩道を二人並んで、内壁に近い店を目指していた。
王都は外壁内壁と二重に城壁で囲まれた巨大な町だ。
外壁の外にも市街区は広がり、人口はスリックデンの10倍にも成る。
外壁の内側が治安の維持まで国がになう特区で、外は自由市街であった。
内壁の内側は公共の施設が多くあり、魔法学園や大学もここだ。
騎士団や内政官など王城に詰める貴族家も多く、たいてい建物は大きい。
その奥に巨大な王城がちらちら見えている。
「ここがおすすめよ」
ぱちりと綺麗なウインクを決めるカーニャ。
ミーナも密かに練習しているが、姉にはまだ及ばないと感じさせられた。
「これがいいんじゃない?かわいいわ!」
カーニャの持ち出してきたロッドは、金色で先端におおきな蝶々が意匠されたものだ。
宝石のように魔石が付いており、とても派手であった。
「ちょ、ちょっと目立つかな。もうすこしシンプルなのが好きです。姉さまのレイピアみたいのがいいな」
焦り気味のミーナ。
昔から姉が買い与えるものは、服にしろものにしろ可愛いものが多いのだ。
「そう?可愛いと思うんだけど。でもお揃いのってのは良いわね!」
ミーナの意識誘導は成功したようで、次は無難なロッドが選ばれてくるのであった。
ここは老舗の魔道具店で、王都でも1、2を争う名店であった。
ミーナの編入祝にとカーニャがプレゼントすることになったのだ。
「これ素敵です!みて姉さま星の意匠がきれいです」
ミーナの指差す棚には銀のロッドが並んでいた。
ああ、と納得のカーニャ。
アミュアのロッドも銀色でシンプルなものだったと思い出したのだ。
妹のアミュアへのあこがれや、もろもろの気持ちが見えてにっこりするのであった。
そうしてプレゼントしてもらったロッドが入った細長い箱を、大事そうに両手で持つミーナ。
「ありがとうございました姉さま。大事に使います」
並んで歩道を戻りながら礼を伝えるミーナ。
ほほが少し赤いのは使用する事を想像して興奮しているのかも知れない。
微笑ましく見返しながら、寿ぐカーニャ。
「いいのよ、学園編入おめでとうミーナ。とても誇らしいわ」
秋になりさらに高くなった空には、うすい雲がたなびいていく。
気温は少しづつ下がり、人々の距離を短くしてくれるのだった。