百七話 『勇気』の代償
「どちら様ですか?」
ただその一言が部屋に響いた。
「え⋯」
抱きついていたレファは離れてつい声をもらした。
「嘘だよね?」
「いえ、初対面ですが⋯」
ノアは無情にもそう答えた。
「そんな⋯」
レファはその場に崩れ落ちた。
「えっと、ごめんなさい。何も覚えてなくて。頑張って思い出しますからそんな泣かないで下さい」
ノアには、今、八雲裕也としての記憶しかないのだ。それなのに、ここが元の世界ではないと言うのに彼はただ他人の心配をしていた。
聡い彼だからこそ気がついてしまった。
ここが現実だと。
「私はこれで⋯」
レファは悲しい顔をこらえて部屋を飛び出していった。
(早く報告しなきゃいけない。この目で見たことを今すぐに)
レファは急いでとある場所へと向かった。
「フィリシア!」
「レファ?どうしたのですか?そんなに急いで」
「フィリシア⋯今から伝えることは現実なの⋯だから覚悟して聞いて」
と涙をこぼしながらそう言った。
「⋯分かりました。聞きます」
「じゃあ、話すね⋯」
レファはついさっきあった出来事をすべて洗いざらい話した。
ノアが起きたこと。けれど、記憶がないことを。
「そんな⋯」
フィリシアは口を両手で抑えて悲しみをあらわにした。
「つらいのは私も同じだよ。でも、目覚めただけ奇跡って思わなきゃ。記憶はちょっとずつでも取り戻していけばいい⋯」
本当はそんなことはないのに無理してレファは笑顔を作った。
「本当にそれでいいのですか?」
フィリシアは問うた。
レファは今の現実に満足が行っているのかと。
「そんなの嫌に決まってるよ!寂しいよ。でも、私にはどうにもできない⋯」
そう言って俯いた。
「そういう時こそ他人を頼るといいのではないですか?だから、行きましょう」
「行くってどこに?」
「この国で一番偉い人のところです」
───────────────
二人は執務室へと走っていた。
「お父様!」
「おぉ、びっくりしたぞ。フィリシアかどうしたのだ?」
「お父様に相談があります!」
フィリシアはそう父に向かって懇願した。
◇◆◇
「成程ノアがそんな状況に⋯」
落ち着いて話を聞いたあと納得したのかアルフォードは
「実際に会いに行ってみることにしよう」
そして、アルフォードは重い腰を上げた。
そうしてノアのいる部屋についた一行は部屋の前に衛兵を立たせ誰も入れないように命じた。
部屋には窓から外の景色を見るノアがいた。
ノアはこちらに気がついたのか
「もしかして、知り合いの方ですか?」
と聞いた。
「ああ、知り合いだ。記憶がないと聞くが事実だろうか?」
「はい、何も思い出せなくて。ところでここはどこか聞いてもいいですか?」
「ここは王城の救護室だ。ああそういえば、私はアルフォード・エス・エリンだ。よろしく頼む」
とアルフォードはあえて身分を隠しながらそう話した。
「あ、俺は八雲裕也です」
「ヤクモユウヤ?私が知る限りでは君の名前はノア・フォン・スペクトだと思うのだが⋯済まない『ステータス』と言ってくれるか?」
「分かりました『ステータス』」
そこにはノアのぶっ壊れたステータス欄が表示されていた。
「なんだこの数値は⋯」
本当は名前を確認するためだけに頼んだのに目に入ってきたものはおかしなステータスだった。
この部屋にいたものはそれを見て驚愕していた。
なぜなら、そこには神の加護が三つ書かれていたのだから。
この世界にとって加護を持つものは神の御使いとして扱われる。
そんなものを三つも彼は隠し持っていたのだ。
それに称号欄はもっと悲惨だった。
そこに表示される称号の数々。
『転生者』『神々に愛されしもの』『ヴェリスの英雄』『聖竜の主』『リヴァイアサンの主』『白の魔術師』『悪魔キラー』『感情の化身』『夢に打ち勝ちし者』となんとも壮観な物だった。
どんどんバレていくステータス。
隠していたものが崩れていく音が聞こえる。
ついには、スキルに付いてもバレてしまった。
「スキルが三つ?それにすべて見慣れぬものばかりだ」
「あのそんなに驚いてどうしたんですか?」
そんな何もわかっていない少年の声が部屋に響くのだった。




