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フェイトエッジ

亜里沙は必死に考えを巡らせていた。

(状況はどう考えても悪い…ガチャを引いても微妙なのしか出ないし、このままじゃイフも連れて行かれるし、私も負ける…話し合いで時間を稼いでも制限時間を過ぎたら私がログアウトして終わり。…詰んでる?お願い、これが負けイベントであってくれ…!)


その焦りを見透かしたかのように、イフが静かに口を開いた。

「何を悩んでるの?本気で戦う気がないなら、せめて亜里沙は自分にできることをしなきゃ。前みたいに、私が言うタイミングでガチャを引いてみて。きっと上手くいくから。」


その言葉を聞いていたクロノスが冷笑を浮かべ、軽く手を振りながら呆れたように言う。

「ん?この状況でまだ無駄なガチャを引くつもり?それより、私と話し合いをする方がいいと思うけどね。生きたいなら。」


亜里沙はイフの方をちらりと見て決意した表情で頷く。

「イフ、どうせ悩んでも誰も助けに来ないし、あんたの言う通りにしてみる。それでダメなら、潔く負けを認めるよ…。…イフが連れて行かれるかもしれないけど、仕方ないよね。私の実力が足りなかっただけだし。」


そう呟きながら亜里沙はガチャのタイミングを待つため、ひたすら集中を続けた。対するイフも全神経を集中させ、最適な瞬間を計ろうとしている。


一方、クロノスは少し苛立ち始めたようで、冷たい声を投げかける。

「これが本気の戦いだったら、もう死んでるぞ?今の実力じゃ、どんなに足掻いても運命は変えられない。」


だが、亜里沙はクロノスの言葉にも耳を貸さず、じっとイフの声を待ち続けていた。そして、ついにイフが力強く告げる。

「今よ!回して!」


その声を受け、亜里沙はすぐにガチャを回した。すると、突如として特殊な演出が発生する。

巨大な門が出現し、その扉がゆっくりと開かれると、中から威風堂々たる剣士が現れた。剣士の頭上には「レジェンドレア出現中」と表示され、周囲の空気が一瞬張り詰める。


だがその直後、突然周囲の景色がモノクロに変わり、剣士を含むその空間が一瞬で斬り裂かれる。


「えっ!どういうこと?!」亜里沙が驚きの声を上げると、モノクロの空間の中心にいたのはクロノスだった。


「ふぅん…なかなかいい演出だったけど、ムービーが長いと飛ばしたくなるんだよね~。」

クロノスは面倒そうに手を払うと、剣士は消滅してしまった。


「せっかくのレジェンドレアが、何もできずに消えた…」

がっくりとその場にしゃがみ込む亜里沙。しかし、イフが亜里沙の肩を叩いて上空を指さす。

「亜里沙、まだ諦めちゃだめ!あれを見て!」


亜里沙が目を上げると、そこには巨大な剣が召喚されたまま浮かんでいた。


「あれを使えばいいよ。」

「いやいや無理だって!大きすぎるし!」


イフは笑って答える。

「大丈夫。亜里沙が使いたいって意思を示せば、きっといいサイズになるから。」


その言葉に半信半疑ながらも、亜里沙は剣に向かって手を伸ばし、空中に飛び上がる。すると剣が輝きを放ち、亜里沙の手にすっぽり収まるほどのサイズに変化した。


「…えっ、本当に小さくなった?!」


驚きつつも亜里沙は剣を構え、一気にクロノスへと突進する。

「悪いけど、私剣の使い方とか全然わかんない!でもゲームなんだから、どうにかなるよね!」 

するとイフが「剣士じゃなくて、その剣がレジェンドレアみたい。名前はエターナルブレード。もしかしたら、いけるかも」と興奮気味に言う。

「そっか、良かった!負けイベントかと思ったけど、いける!」

亜里沙は剣を構え直し、クロノスに向かって叫ぶ。「クロノス、これが私たちの力よ! エターナルブレード一閃!!」


エターナルブレードが放つ光の刃が一気にクロノスに向かう。クロノスは咄嗟に時を止めるが、その時すらも切り裂き、斬撃はクロノスに迫る。(く…時をも無効にする能力を持った剣ね。なるほど…面白いわ)クロノスは一撃を回避しようと短剣で軌道を逸らすが、斬撃は彼女の頬をかすめ、わずかな傷を与えた。


「はぁ…はぁ…どう?勝てた?」

亜里沙が息を切らせながらクロノスの方を振り返ると、イフが冷静に答える。「いや、ダメージはあまりないみたい」

クロノスは立ったまま微動だにせず、頬から流れる血を指で拭いながら、亜里沙とイフを見つめた。そして、にこりと微笑みながらパチパチパチと軽く拍手をした。「正直、ここまでやるとは思わなかったわ。咄嗟とはいえガチャでこんな剣を引き、時を封じるなんて…あぁ、本当に面白い」


クロノスの表情はどこか余裕と興味深そうな色を帯びていた。「お前といるとイフも随分おとなしいみたいね。このままイフと一緒にいてもらいたいけど、もちろん嫌なら力ずくで連れて行くこともできるわよ?」

唐突な提案に亜里沙はキョトンとしながら戸惑った。「え、結局…私たちは負けたの?勝ってはないよね?」とイフに確認する。

「そうね、勝ってはないけど、亜里沙の力を見せつけて納得させたって感じよ」

「じゃあ実質、勝ちだー!」亜里沙は無邪気に喜んだが、クロノスはくすりと笑いながら、肩をすくめた。そして亜里沙の時を早めるとデバイスから「アディントタイムオーバーにより強制ログアウトします」と音声が流れると、亜里沙とフィールドは元に戻った。「二人のやり取りは本当に面白いわね。でも、これは遊びではないの。本題に入りましょうか」


そう言うとクロノスは亜里沙の方をじっと見つめた。「お前は運命に弄ばれているようだけど、もっと鍛えれば運命を操る者になれる。(間違いない…おそらく亜里沙がその存在ね) だけど、今のままではそうなる前に死んでしまう可能性が高い。だから、いいものをやるわ」


クロノスが青白い光を放つと、その光が亜里沙の腕に巻き付き、リングの形を成した。「えっ?この腕輪、何?」

イフがすかさず答える。「それはクロノスリング。装着者の能力に応じて、様々な武器や形状に変化するアイテムよ」

するとクロノスが、どこか呆れたように微笑みながら言った。「なんでイフが説明するの?普通、こういうのは私が言うところでしょうに。でも…まぁいいわ。捕食者だから仕方ないのかしら」


続けてクロノスは柔らかな口調で説明した。「イフの言う通りだけど、少し補足するわね。このリングはガチャとデバイスに連動しているの。ガチャで引いた武器や装備に適応して形を変えるのよ。例えば、銃を引けば銃に、素手ならその拳を強化する…そんな風にね。他の状況でも必要に応じて自在に変化するわ」


そう言い終えると、クロノスは次元の歪みを生み出し、少し意地悪そうな笑みを浮かべながら「次に会う時には、どんな力を手にしているのかしらね。それが楽しみだわ」と言い残し、次元の歪みの中へと姿を消した。

「今回もなんとかなったね…強くて負ける前提と思ってたけど…エターナルブレードとクロノスリングも手に入ったし、良かった」とデバイスを見ると、強制ログアウトのため「本日のログインはできません」と表示されている。しかし、戦闘結果によりスキルポイントが20ポイント手に入り、亜里沙は一か八か、運以外を上げようとしたが、その前に全てのポイントが運に振り分けられてしまった。「また運全振りか〜強くなれないな〜」と、亜里沙は肩をすくめ、「あ!ログインボーナスがある。今度はなんだろ?レジェンドレア確定とかならいいけど!」とチェックをすると、「ログイン時間無限チケット」と書かれていた。


それを見たイフは、「チケットを使うと、その戦闘中だけ無制限みたいだね。ガチャ引き放題だね」と言った。


「でも無制限を使わなきゃいけない程の相手ってことだし、嫌だな〜」と亜里沙は言うと、イフは歩きながら「なんかネガティブな発言だね。らしくないな」と挑発的に言った。


「いや、クロノスみたいな相手と戦ったばかりだしさ…あのレベルと戦うのは、ただガチャを引くだけとはいえ、きついなと思って…」それを聞いて、イフはクスッと笑って、「あのレベルはそうそういないから大丈夫。それに完全負けイベントでもなかったしね。十分やっていけるよ」と励ました。


「だといいけど…」と思いながらデバイスを見ていた亜里沙は驚く。「あ、良かった!冒険者ギルドまで転送って書いてある!ここ押せばギルドまでひとっ飛びだよ〜」


「そうなんだ。そういうサービスもあるんだね。お腹空いてたし良かった…」と言うと、「じゃあギルドに戻ろう」と言い、転送を選択した。すると、二人を光が包み、ギルドの受付に戻っていた。


「おかえりなさい。クエスト達成おめでとうございます。通貨を入金しているので、ご確認下さい」と言われたので確認すると、通貨が10万ラビほど増えていた。

「でもこの通貨のラビってなんだろ?覚えやすくていいけど」と言うと、イフが「ラビは異世界を移動する時にお金の使用ができないなどの問題を不便にならないように、冒険者ギルドの創設者が全ての通貨を共通にしようと独自に作った通貨であり、冒険者ギルドを脱退等すると元の通貨に戻される」と説明する。


「えっとそれって、ギルド会員だから自分の所の通貨も関係なしに使えるけど、辞めたら使えなくなるってこと?」と亜里沙が聞くと、イフが「そういう事。でも、あのクロノスが作った組織、ウラヌスとヴァルクアも、冒険者ギルドとは別に共通通貨を作ってるから、どちらかに所属していたらお金の問題と言語とかは共通化されて大丈夫みたい」と答える。


「ふーん、結構すごい事してるんだね」と亜里沙が言うと、受付の横にいたガイドが「次はどこに行きますか?それともこの世界で過ごしますか?」と聞いてきた。


「えっ、別の世界に行けるの?じゃあ行こうかな?イフも行きたいよね?」と亜里沙が言うと、イフが「もちろん行きたいよ、もっと色々と知りたいし」と答える。


「じゃあ、どこに向かいますか?レベルに応じて行ける場所は変わりますが、案内出来るのは…」とガイドが検索を始める。


「あ!検索してる間にチーム名を考えておいてくださいね」と言われ、亜里沙は「うーん、イフ何か良いのない?」と丸投げする。


「じゃあ、フェイトエッジはどう?運命に立ち向かっていく感じで良いと思うけど?」とイフが提案すると、亜里沙は「うーん…いいかも!」と悩みながらも、「うん、良いと思うよ!イフは流石だね!」と嬉しそうに言った。


「フェイトエッジでお願いします」とガイドに伝えると、「はい、わかりました。では、フェイトエッジさんが行けるのは『光に包まれた世界のエリシオン』のみですね。検索しましたが、まだ初心者なのでこういう安全な世界しか案内できないんですよ」とガイドが答えた。


亜里沙はイフの方を見ると「光に包まれた世界だっていいよね!行こうよ!」と言うと、そのテンションに引きつつ「うん、楽しそうだね、行こう」と答える。けれども心の中で(でもエリシオンって何かあったような…?)と思いながらも、亜里沙と転送装置に向かう。


「では、良い旅を~、エンジョイ」とガイドが言うと、亜里沙が転送装置に入った時、イフが「ごめん、先に行ってて、お腹空いちゃって…すぐに追いかけるから」と言って食堂の方に向かう。


それを見た亜里沙は(本当に食べるのが好きなんだな~)と思いながら、光に包まれてエリシオンに向かう。その頃、イフも「ふー、美味しかった。色々と得られるものもあったし、良かった」と言って、亜里沙が待つエリシオンに向かう。


一方、その頃クロノスは異世界の全体図が大まかに表示されている画面を見つめながら「今一つ世界が消えたな…結局抑える事は出来ないのかな…?まあ、見守ってるよ」と言いながら、自室へと向かって行った。


エリシオンに到着した亜里沙は「何ここ、聞いてた話と違うじゃん…光に包まれたって言ってたけど、闇に覆われてるんですけど~!」と驚く。その場所は、なぜか闇に包まれたエリシオンだった。


新たな冒険が、ここから始まる。


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