運命の鍵
亜里沙は属性強化ガチャの前で立ち悩んでいた。「どの属性ガチャを引けば、ガーディアンにダメージを与えられるんだ? 雷? 水? 最悪、凍らせてもいいなら水系ガチャの方がいいのかな? でも10連ガチャって確定でスーパーレア以上だし、運が良ければ…」と決意し、祈るようにハンドルを手に取る。しかし、その時、頭の中に声が聞こえてきた。
(今じゃない!)
ビクッと体が震える。何かを感じ、思わずハンドルを回すのを止めた。
(今の声は…? 直接聞こえてきたけど…)
その声がもう一度響く。
(今よ、回しなさい)
再度声が響くと、亜里沙は思わずビクッと震えた。しかし、すぐに反応する。
(よくわからないけど、言われなくても回すよ!)
意を決して、亜里沙は思い切りハンドルを回し、いつものようにガチャ結果を一括表示させた。
コモンウォーターショット✖︎4
レア水系効果倍増カード
ウォータービーム✖︎2
アイストラップ
スーパーレアアイスビーム
そして、キュインという音が鳴る。
(ついにレジェンドを自力で引いた?)
スーパーゴッドレア確定と表示されたあと、演出が発生した。フィールド全体に水が流れ始め、綺麗な歌声が響く。
(え? 綺麗な歌声…誰が出てくるの?)
遠くの小島から歌っている者がこちらを見つめ、ゆっくりと歩いてくる。その姿は、スーパーゴッドレア「セイレーンクイーン」と表示された。
(セイレーンクイーン…? 勝てそうじゃない? スーパーゴッドレアだし…)
亜里沙は期待を抱きながら、セイレーンクイーンがガーディアンを水で拘束し、歌声でその闘志を奪っていくのを見ていた。しかし、ガーディアンはロボットだ。歌声の効果はあまり効かないようだ。
(えー、意味ないの? どうしよう…)
亜里沙は焦りながら、次の行動を考える。
会話ボタンを押して、ルーレットが回転し停止。
「意味ないじゃん!」
(やばいやばい、怒られるって…)
とりあえず、カード効果発動! 水系ダメージ倍増中。
(よし、攻撃しよう!)と技を出そうとした時また頭の中で声がしてきた。(単品で使うつもり?同じ技はまとめなさい)
(え?まとめるってどうするの?とりあえずまとめるイメージをしてみよう)
ウォーターショットを4つ分まとめるイメージをして、ガーディアンに放つ。無数の水が、ショットガンのようにガーディアンに当たる。弱点だったのか、今まで以上にダメージを与えたようだ。
(効果は抜群って感じ?)
次に、ウォータービームをまとめて放つと、太いビームが両手から発射される。それもガーディアンにダメージを与えると、青く光った液体が少し流れ出した。
(よし、いけるかも! 次はアイストラップだ!)
その場で罠を設置するが、相手はそもそも動けないので効果はない様だ。
(まあ、仕方がない…)
「よし、足元の水を凍らせるくらいのアイスビームを! ここは会話ボタンでカッコよく決めよう!」
会話ボタンを押し、ルーレットが回転停止。
「はぁ〜寒いよ〜 あったかくしたいよ〜!」
情けない叫び声と共に、普通サイズのアイスビームが放たれた。少し恥ずかしいが、アイスビームは命中し、足元から凍らせることに成功した。
そして、ついにセイレーンクイーンの必殺技が発動する。その時、デバイスが振動し、表示が現れる。
(今から必殺技を放つので、技の最中はボタンを連打してください)
「いや、ゲームとかでムービー長いとやらされるやつじゃんでもしても結果変わらなかったり、ボタン押さないと失敗とか不評だよね…」
(でも、ゲームの世界だし応援のつもりで連打して威力が上がるなら、やるしかないか…)と連打を開始した。
セイレーンクイーンが歌いながら、周囲の水が渦を巻き始め、ガーディアンを包み込む。光の槍が水流の中から現れ、ガーディアンを貫く。その攻撃を見届けると、セイレーンクイーンは泳ぎながら遠くに消えていった。
(連打、意味あったのかな? 何も変化なかった気がする…ただ疲れただけじゃん)
ガーディアンは煙を上げ、倒れ込んだ。その瞬間、画面に「YOU Win」と表示される。
(よし、勝利のポーズだ!)
会話ボタンを押して、ルーレットが回転し停止。
天高く拳を上げ、キリッとした表情で「お怪我はありませんか?」と決めポーズを取るが…
(あれ? 決まってない…)
アディントログアウトしました、と表示され、フィールドが消えた。修正を加えた続きをどうぞ:
「なんとか倒せたけど、ほとんど攻撃してこなかったな…なんでだろ?まあいいか、とりあえず街を目指そうっと。でもその前に、ガチャポイントとステータスポイント、結構たくさんゲットしてるな。」亜里沙はすぐに運に全振りされたことを実感する。
「いや、わかってたけど、少しは『本当にこれでいいですか?』とか聞いてほしいんだけど。どこの世界に肉体を鍛えないで運だけ上げていく奴がいるんだよ。防御捨てて攻撃かバランス取るかとか、悩むもんなんだよ、普通はね。…本来、運なんて申し訳程度にちょっと振るぐらいなんだよ、私の場合はだけどさ。でもまあ、いいけど。」亜里沙は不満げに言いながら歩き出そうとした、その時、頭の中に声が響く。
(独り言はどうでもいいから、ちょっとこっちに来てくれない?)
「さっきからなんなの?微妙にイライラする言い方が…」亜里沙は顔をしかめながら、周囲を見回すと、青白くわずかに光る大きな祠のような物が目に入る。「なんだろう?近づいてみるか…」
すると、突然、倒れたはずのガーディアンが起き上がり、自己修正を始めながらこちらに近づいてくる。「警告、警告、それ以上近づいてはいけない。」ガーディアンは動きが鈍く、ダメージを引きずっている様子だ。ゆっくりと、こちらに迫ってくる。
「そっちこそ壊されたくなかったら、大人しくしてなさい。」亜里沙は祠に向かって歩きながら言う。
「警告、警告、それ以上は近づくな!警告、それ以上は近づくな!」ガーディアンの声は届かないようだ。亜里沙は面倒そうに肩をすくめ、つぶやいた。「うるさいから、止めを刺しとくかな?」とアディントにログインしようとするが、画面に「ログイン可能まであと10分」と表示されているのに気づく。
「冷却期間があるのか…」亜里沙は説明書をチェックし、そこで冷却期間についての記載を確認した。「書いてたか~。じゃあしょうがない。」仕方なく、祠に向かって進む。
すると、壊れた結界の隙間から、何かがこちらを見ていた。「やっと来てくれた。その鍵でここを開けてくれない?」と、声がかかる。
「いや、そもそもこれは鍵じゃなくて、車の鍵を大きくしたものだけど。」亜里沙は冷静に答える。
「こういうのは、本当の鍵じゃなくてもいいの。あくまでも手段さえあっていればいいんだから。」その言葉に納得し、亜里沙は鍵を祠に差し込む。
すると、結界が崩れ、祠から何かが現れる。全身が姿を現したその存在は、身長が亜里沙と同じぐらいで、髪も黒く、瞳は赤っぽい。ちょっと色白で、細い体つき。亜里沙はその姿に驚きつつも、思わず心の中で気になった。(ちゃんとご飯食べてるのかな?)っと
すると相手が「やっと出られた〜それよりなんで髪ボサボサなの?ちゃんと切った方がいいよ。」と軽く笑った。「いや、ボサボサなのは美容院とか得意じゃないから切ってないだけ。でもちゃんと結んでるでしょ?邪魔にならないように!」と反論すると
「別に、思ったことを言っただけで意味はないの。久しぶりに誰かと喋ったから、懐かしいよ。」と言うとガーディアンの方を向いた。すると、ガーディアンが「目標消失、結界解除。結界解除。直ちに報告を。」と言うとワープ装置が起動し、ワープホールが開く。亜里沙はその光景を見守りながら、ガーディアンがワープしていくのを見送った。
「じゃあ街まで行こうか?」
「そうだね。それより、さっき頭の中に声かけてきたのはあなただよね?驚いたんだけど!」と、彼女の声を聞いて改めて感じた疑問を亜里沙は口にした。
「あ~、テレパシーのこと?少し結界が崩れて外の様子が見えたから、アドバイスしただけよ。あのままだと亜里沙が負けてたしね」と、少しやれやれといった様子で答える彼女。
「えっ?負けてたの私?普通に圧倒的だったのに?それより、亜里沙って?自己紹介したっけ?」と、自分の名前を呼ばれたことと負けると言われたことに驚いた様子で亜里沙が問い返す。
「そういえば自己紹介もなかったね。でも、あなたのことはわかるから…それと、私が止めてなかったら悪い結果になってたのよ。セイレーンクイーンも出現してないし、技は単品で単調に使うだけだったし、カードの効果も上書きされてたしで負けてた。そもそもレベル4でやり合える相手じゃないしね。手加減してくれてたからいい感じに見えてただけよ。でも、そうじゃなかったら即死だったわね」と、畳みかけるようにダメ出しされる亜里沙。
「ちょっと聞いただけで、そこまで言う?結果勝てたんだからいいじゃん…。それより、名前はなんて言うの…?」と、今にも泣きそうな声で尋ねた。
「私の名前はないよ。特に誰かと関わってたわけじゃないし。ただ、私のことはみんな捕食者や怪物って呼ぶよ。だから亜里沙もそう呼んだら?」と、淡々と答える彼女。
「いや、呼べるわけないじゃん!怪物行くよとか捕食者戦闘準備よとかさ。それより見た目的にどちらも当てはまらないけど、どうしてそう呼ばれるの?」と聞くと、彼女は少しため息を吐いて答えた。
「私、大喰いなの…。だからじゃない?」
「いや、大食いだったとしても女の子に怪物とか捕食者って呼ばないでしょ?普通は?見たことある大食いしてる番組とかで、女性に向かって捕食者すごい、これは怪物の様だ〜とかさ?」
「私、そういうのは見ないから…」と、あっさり切り捨てる彼女。
「そうなんだ。普通見ないか〜って、テレビとかそもそもないよね〜?」
「ロボットがいるのにそんな質問するんだ。探せば映像見られるものぐらいあるんじゃない?どれも真面目に記録用として使用してるかもしれないけど」
「そっか〜。なんかフォローありがとうございます。それでさ、名前なんだけど私が付けても良い?変なのにしないからさ」と、亜里沙はちょっとワクワクして目を輝かせて聞いてみた。
少し考えたあと、「別にいいけど」と答える彼女。
「やった〜ありがとう!可愛い名前にするからね〜。じゃあ〜タマかポチでどう?」
「却下する」と、即断られる。
「えっ?早っ!まるでそう言われるのが分かってたみたいに早い。でも今のは練習だからね」と、悪気もなく言う亜里沙。
「なんの練習よ?ペットに名前を付けようのノリはやめなさい…」と呆れた表情で返す彼女。
「大丈夫!私って名付けのセンスあるし(自称)。じゃあさ、真面目な話、どんなのでも怒らない?」
「怒らないよ。名前付けようって子も珍しいし、ペットシリーズとかじゃなければ受け入れるよ」
「そっか〜。それを聞いて安心したよ。じゃあさ、あなたがいなかったら私は死んでたし、命の恩人だし」
「それはお互い様よ」
「そうだよね。もしもお互い出会いがなかったら、何もなかった。この会話すら出来てなかったんだからさ…それにちなんで、イフってどうかな?可愛いと思うんだけど」と、満面の笑みで聞く亜里沙。
それを聞いた彼女は何も言わず歩き始めた。
「あれ、どうしたの?イフ、怒った?」
すると歩くのをやめ、振り返ってこう言った。
「何言ってるの?街に行くんでしょ?置いて行くよ」と言い、スタスタと早歩きで進む。
「え?ちょっと待ってよ!名前は結局どうするの〜?」と、後を追いかける亜里沙。
彼女は早歩きをしながら、照れた様子で小さく呟いた。
「ありがとう。良い名前だね…」
こうして二人は街に向かうのだった。