運命のガチャ
しばらく草原を歩き続ける亜里沙。
街に着くどころか、人影すら見えない。
「全然人にも会わないし、どうなってるの?そもそも、本当にこの道で合ってるのかな~?できたら夕方までには着きたいけど…。多分、このゲームは時間の概念があるタイプだろうし、暗くなるよね…」
そうぼやいていると、突然、手元のデバイスが振動し、画面に「アディントにログイン」と表示された。
(え?急に何?)
その瞬間、頭上に「AAAA レベル1」と表示が浮かぶ。
(AAAA レベル1?なんて読むの?エーフォー?……なんか恥ずかしい。というか、何で喋れないの!?)
周囲に目をやるが、風景は何も変わらない。ただし、空中には**「残りタイム 59:00」**とカウントダウンが浮かび、自分の身長ほどもある巨大なガチャが目の前に現れた。
(誰か説明してよ~!)
その時、遠くの茂みが揺れ、2匹のウサギのような生き物が現れる。
デバイスから機械的な音声が流れ始めた。
「それでは、今から初バトル、チュートリアル戦を開始します。ただし、敵は本気ですので油断すると戦闘不能になります。
まず、敵が一定の距離にいると強制的にログイン状態になります。画面上部に表示されている時間は“アディント”の能力を維持できる時間です。この時間がゼロになるまでに戦闘を終わらせるか、ログアウトしてください。時間切れになると強制ログアウトになりますので、注意してくださいね!」
亜里沙はデバイスを握りしめながら音声に耳を傾けた。
「次に、バトル中にできることですが…ガチャを引くことだけです。自分のターンになったらガチャのハンドルを回してください。ガチャの種類はバトルごとに変化するので、その都度お伝えします。では、まずガチャを引いてください!」
(よく分かんないけど、とりあえずやってみるか…。)
亜里沙は目の前のガチャに手を伸ばし、ハンドルを回した。
「コモン:弱立ちパンチ」
画面に文字が浮かび上がると同時に、体が勝手に動き出す。
亜里沙はウサギに向かって走り出し、パンチを繰り出した。
しかし、手応えはほとんどない。
突然、デバイスから新たな音声が流れる。
「ちなみに、バトル中は喋れません。ただし、どうしても喋りたい場合はデバイスの“会話ボタン”を押してください。」
(良かった、やっと喋れる…!)
亜里沙が会話ボタンを押すと、目の前でルーレットが回り始めた。
(え…?ルーレット?)
止まった先に表示されたセリフが、声となって発される。
「ウサギ共め、積年の恨みを晴らしてやるわ!」
(ないない!ウサギにそんな恨みはないよ~!)
「このように、ガチャで選ばれた技や行動のみ実行可能です。ただし、ターン中以外は動けず、敵の攻撃を受けます。その際、タイミングによってはルーレットでの対応が必要です。」
ウサギたちが亜里沙に向かって一斉に体当たりを仕掛ける。
その瞬間、亜里沙の目の前でルーレットが回り始めた。
止まった行動は、「全力で受ける」。
「ッ……!思ったより痛い…!」
倒れることはなかったが、亜里沙は肩を抑えながら顔をしかめた。
「では、初回ログインボーナスとして20連ガチャを引いてください!」
(20連!?ここで流れを変えるチャンス!)
亜里沙は気合いを入れ、ハンドルを力強く回した。
画面に次々と結果が表示される。
•コモン:しゃがみ弱キック×10
•コモン:立ち中パンチ
•コモン:立ち強キック
•レベルアップ×5
•レア:エアカッター
•レベルダウン -4
•レジェンドレア:一撃必殺技確定!
「AAAA レベル5」
強化された亜里沙は、ウサギたちにしゃがみ弱キックを10回連続で叩き込み、中パンチ、強キックで畳みかける。
それでも倒れないウサギたちに向けて、エアカッターを発動。
風をまとった刃がウサギたちを切り裂き、1匹がダウンした。
その直後、レベル1に戻り再びガチャの雰囲気が変わり、目の前にボタンが表示される。
(ストックしておければいいのに…)
不満に思いつつも亜里沙はボタンを押す。
その瞬間、空が暗くなり、雷鳴が轟き始める。稲光が何度も走り、暗闇を切り裂いた。
「大巨人の一撃」
上空から巨大な巨人が降り立ち、咆哮を上げる。
拳を振り下ろすと地面が裂け、大地震と共に火柱が上がる。ウサギたちは一瞬で蒸発した。
「戦闘が終了したので、ログアウトします。倒した敵に応じて、ガチャポイントとステータスポイントを獲得できます。」
(よし、攻撃力を上げよう!)
だが、デバイスから冷酷な音声が告げられる。
「全ポイントを運に振り分けます。」
「どうして運に全振り!?全然強くなれないじゃん!それにゲームの世界なのに、本当に痛いし、経験値もないし、レベルもガチャで上下するし……クソゲーなんだろうか?」と、亜里沙は一人愚痴をこぼしながら草原を歩く。「でも、オープンワールドでリアリティーもあるし、今後アップデートで改善されたらいいな……とりあえず歩くか。」
そう思った矢先、デバイスが振動し、画面にお知らせが表示される。
詳しい説明は説明書に書いていますので、ぜひお読みくださいね!
「……あ、私、基本的に説明書は読まない派なんで!」とキリッと決めてみせる亜里沙。
だが少し考え、「状況がよくわからないし……読んでみるか」と観念して目を通し始めた。
説明書には、先ほどのチュートリアルバトルについての説明に加え、ガチャの詳細が書かれていた。
レア度の確率:
•コモン:60%
•レア:20%
•スーパーレア:10%
•ゴッドレア:5%
•スーパーゴッドレア:3%
•レジェンドレア:2%
※期間限定ガチャや特別なガチャでは確率が変動する場合があります。運のステータスに応じて確率が上下するのでご注意ください。
「ふ~ん……なるほどね~。たった2%のレジェンドレアを、うさちゃんに使ったのか~……。勿体無いな~!」と、ぼやく亜里沙。「ストックシステムかメールで保存しておけたらいいのに……」
さらに説明書には、武器や防具だけでなく、カードやチケットなどもガチャで手に入ると書かれていた。
「全部ガチャなのか……?運全振りは、正解なのかもしれないな……」
ページをめくると、デイリーミッションや特別ミッション、ログインボーナスについての説明もあった。
「デイリーミッションか~……とりあえず達成して報酬もらおうかな。でもログインって何?今がログイン状態じゃないの?あのバトル中の時だけログイン状態ってことなのかな~?……まあいいか!」
デバイスを操作して、デイリーミッションをチェックする。
•困っている人を助ける
•ボスを倒す
•スーパーレア以上を出す
「うーん、無難な感じだな~。まあ、達成して報酬確認しよう!」
そう呟きながら、亜里沙は草原を歩き続ける。しかし、しばらくするとデバイスが再び振動し、画面に「アディントにログインしました」の表示が現れる。
(また敵ってことね!スーパーレア以上を引けばいいのよね!)
その直後、突然どこからかミサイルが飛んできた。
(うわー!いきなりミサイル!?)
ルーレットが回り、「完全回避」の文字が表示されると、亜里沙の身体が自然とするりと動き、ミサイルをかわす。
(よかった……回避で……)
デバイスの会話ボタンを押すと、ルーレットが回り、停止する。
「こんな事して死んだらどうするの?ちゃんと保険には入っているの?」
(いやいや……なんだこのセリフは……)
声を出すと、ロボットのような見た目をした者が姿を現す。その身体は青白く光り輝いていたが、ところどころボロボロで、液体が漏れ出している部分もあった。
「捕食者の結界を破った者よ。警告する……捕食者を解放するな。」
(捕食者……?)喋れない亜里沙は困惑し、もう一度会話ボタンを押す。
ルーレットが回り、「捕食者?知らないけど結界を解放して欲しくなければ私を倒せ!」
(なんかまずい事言ってる~!もう一回会話ボタン!)
ルーレットが止まり、「ロボットさん、一緒に遊びましょ~」
(あー……終わった……)
「警告はした。これより、武力行使に移行する。」
(いやいや、そもそも最初にミサイルを撃ってきたのはそっちじゃん!)
ロボットの構えが戦闘態勢に入る。デバイスにはボス戦開始の表示が出た。
(でもボスっぽいし、デイリーミッションも達成できるし体もボロボロだし……もしかしたら勝てるかも!ガチャ次第だけど……!)
亜里沙は10連ガチャを選択しハンドルを握り、勢いよく回した。
(何か演出こい!)亜里沙は祈るような気持ちで10連ガチャを回した。
「コモンジャンプ強キック、武器で立ち強攻撃×3、レベル1アップ×3、レア乱れ突き、カード『しばらく完全回避』、スーパーレア奥義乱舞!」
(あ!スーパーレア出た!これならいけるかも!)
早速ジャンプキックを仕掛けた亜里沙だったが、ガーディアンにはまったくダメージが入らない。
(なんで!? こんなに高く飛んだのに!)
次に取り出したのは武器。「車の大きな鍵」のような見た目に少し戸惑ったものの、勢いで強攻撃を3回連続で叩き込む。しかしガーディアンの装甲はビクともしない。
(全然効いてない…レベル1じゃ仕方ないか…)
一方でAAAAがレベル4に上がったことでわずかな希望を感じる。続けて「乱れ突き」を発動。車の鍵のような武器で無数の突きを繰り出し、わずかに傷を付けた。
(やっぱり少しは効いたかな?)
だが次の瞬間、ガーディアンが口からビーム砲を放つ。鋭い光が一直線に迫るも、カード『しばらく完全回避』の効果が発動。亜里沙はギリギリでかわし、その反動で相手に一気に接近する。
「はあああ!」
手足を駆使して無数の打撃を与え、最後に強烈なアッパーを叩き込む。ガーディアンはその場で大きく揺れるが、倒れることはなかった。
(これでもダメなの…?やっぱり素手と鍵じゃ勝てない!武器を引かないと…)
「侵略者からの攻撃を確認。結界を守護するガーディアンとして、この侵略者を討つ。」
無機質な声でそう告げると、ガーディアンは盾と鋭い剣を取り出し、静かに構えた。
(あー、これからが本番ってことね…)
亜里沙はひとまず会話ボタンを押してみた。
ルーレットが回転し、停止する。
「負けられない戦いがある。必ず貴様を倒す!」
(あーぁ、もうダメだな…これ、死ぬか倒すしかないよね…)
「捕食者を解放しようとする者は全力で沙汰する。」
その発言と同時に、ガーディアンは剣を振り抜き、亜里沙を一瞬で切り裂こうとする。しかし完全回避が再び発動し、亜里沙は間一髪で避けることに成功した。
(なんか動きが速くなってる!早くガチャを引かないと!)
視線をデバイスに移すと、ガチャの種類が2つに増えていた。「ノーマルガチャ」と「属性強化ガチャ」が表示されている。
(これはチャンスだね。属性強化ガチャで一気に逆転してみせる!)
ガーディアンが再び剣を構えた瞬間、亜里沙はそう決意した。
そのとき、結界の崩れた一部から戦いを見つめる影があった。
「ふふっ…面白い戦い方をするね。でも、あのままじゃ勝てないな…ガチャ次第だけど」
捕食者もまた、戦況をじっと見つめている。
戦いはさらに激化していく――。