嘘と真実
世界の融合が完了しつつある頃、亜里沙の召喚により再会することになったガイア(セレナ)とウラヌスの会話が始まろうとしていた。
(セレナさん、よく聞いてね。私のように喋れば、とりあえず誤魔化せますから。頑張ってくださいね〜)
と、ヴィスティーから軽い調子でテレパシーが送られてきた。
(そんなこと言われても、何も知らないんだよね〜。思い出話されたらどうするの?)
と、セレナは不安でいっぱいだった。
しかし、目の前にはウラヌスがいて、もし返答や態度を間違えれば全滅の恐れもある。
そのため、セレナは慎重に行動することにした。
少しだけウラヌスに近づこうと、一歩を踏み出しつつ、
「ウラヌスさ〜ん、本当にお久しぶりですね〜」
と言ったところで、長いスカートであることを忘れていて裾を踏んでしまい、転びそうになる。
「うっ……」
しかし、なんとか体勢を立て直し、よろめきながらもウラヌスに近づく。
「どうしたの?ガイア、変な歩き方だったけど?」
ウラヌスは、セレナを疑わしげな目で見ていた。
一瞬で全身から冷や汗が出たのがわかるほど、セレナは寒気を覚えた。
しかし、表情は無理やり笑顔を作り、
「大丈夫です。久しぶりだったから、歩き方がおかしくなったかも?」
と答える。
「そうなの?なんか喋り方が丁寧というか、他人行儀というか。再会できてよかったけど、なんか違う気がする」
と、ウラヌスは疑いの目をさらに強める。
「確かに何年も会ってなかったし、ギクシャクしてしまうことは仕方がないことだとは思ってる。私自身も距離感とかイマイチ覚えてないし……。でも、再会したことは喜んでるよ、ウラヌス!」
セレナは、疑われないように必死に気持ちを伝えた。
(結構私の焦りから、必死に取り繕うとしたけど、逆効果だったかも?)
と、セレナは不安に思う。
「確かに長い年月会ってなかったし、仕方ないよね。それは私も戸惑ってるし、ごめん。変なこと言って」
と、ウラヌスはセレナを睨むのをやめた。
(今の言い方の方が良いかもしれませんね〜。だって、丁寧に話すと他人行儀って言われたんですから)
と、ヴィスティーがテレパシーで慰める。
(まあ、どうであれまだ疑われてはないようだよ。その調子で頑張って。セレナにかかってるからね)
と、クロノスも応援する。
(いや、めっちゃプレッシャーなんだけど。全ての命運を託されたみたいで……。亜里沙も何かフォローしてよ)
と、セレナは亜里沙の方を見る。
すると、亜里沙は一段落ついたと思っているのか、リラックスしていた。
(え?亜里沙、休んでない?何?召喚が大仕事でやり切った感出してるの?あの態度からするとフォローする気ないな。あとで説教してやる!あとがあればだけど……)
「ウラヌスは私を蘇らせたくて、こんなとんでもないことをしちゃったの?」
と、ガイア(セレナ)が聞く。
「とんでもないこと?ガイアがちゃんと過ごしていける世界を、あなたの願う笑って暮らせる世界を実現するために、長い年月をかけて仕上げてきたことだ。そんな言い方はないでしょ?」
と、ウラヌスは少し語気を強める。
「でも、そのために大勢の生命を犠牲にしてるんだよ?他にやり方はなかったの?」
と、セレナは窘めるように言う。
「あなたがそれを言うとはね……。正直、目の前にいるのが本物かまだ信用しきれてなかったけど……。もし本物なら、そんなガイアいらないよ」
ウラヌスの声が、低く響く。
「最初はガイアのためだったかもしれないけど、今では私の願いでもあるんだ……。それを別のやり方でやればとか、よく言えるね」
ウラヌスの瞳に、静かな怒りが宿る。
「あらゆる可能性を調べて、一番良いと思った計画を私は実行している。そのために捕食者だって作った。私は死んだことにして、別人として計画のために頑張った……。それを全否定されたみたいで、気分が悪いよ、ガイア」
ウラヌスは静かに、しかし激昂している様子だった。
その姿に、セレナは何も言えず、あわあわすることしかできなかった。
「今のは私が悪かった。そうだよね、ウラヌスのことだもん。あらゆる可能性を調べて、一番良いと判断したからこそ計画を進めてくれたんだよね。感謝してるよ、私なんかのために……」
(とは言ってみたけど、そもそも計画ってガイアは知ってるの?)
セレナは心の中で疑問を抱く。
(計画時点でガイアはいないから知らないと思うよ。だからあまりそこは知らない感じで大丈夫。逆に知ってたらまずいからね)
エリスがテレパシーで答える。
「私なんかのためにとか、やっぱり怪しいな。ガイアは確かに全てを覆い尽くすほどの包容力があって優しさもあったが、それと同時に自信家で厳しい一面もあったはずなのに、今のガイアは引っ込み思案でしかないし、暖かさも感じない。やっぱり偽物にしか思えないよ……。あっ、良いこと思いついた。疑ってばかりも悪いし、一撃ガイアに浴びせて無傷だったら信じるっていうのはどうかな?」
ウラヌスは少し笑みを浮かべる。
「決して理不尽なことではないよ。頑丈だからね、あなたは」
と、ウラヌスは微笑む。
(えええええっ〜、どうするの?まずいって)
セレナは心の中で動揺し、オロオロする。
しかし、表面上は平静を装い、
「確かにそこまでしないと信用されないかもね。わかったわ」
と、真逆の対応をする。
(大丈夫よ、セレナ。当たる直前に幻影で避ければ良いの)
イフがアドバイスする。
(いやいや、そもそも幻影でもなんでも避けた時点でウラヌスにバレるじゃん!)
と、セレナは心の中でツッコむ。
クロノスが割り込んでくる。
(その前に時を止める。その間にアルティアに圧縮してもらって、当たったけど大丈夫だったように見せるから大丈夫)
(あ〜、そっちの方向で行く?私が因果で当たっても平気だったってしようと思ったのに)
エリスが言う。
クロノスが答える。
(それも良いけど、アルティアが暇そうだったから、つい出番を与えたくなって)
(まあ、ずっと暇だ暇だってイフの横で文句言ってたしね)
ヴィスティーが笑う。
(いや、人の脳内でごちゃごちゃ言わないで……。結局どうするの?)
セレナは心の中で叫ぶ。
(因果が一番バレないと思うから、因果で行くよ)
テレパシーでの連絡が終わると、セレナは覚悟を決め、両手を広げる。
ウラヌスは、静かに片腕を掲げた。
その腕の先に、空間が歪むほどの高エネルギーが収束していく。
「試させてもらうわ、ガイア。それが、本物か、偽物か……」
ウラヌスの口元に、冷たい笑みが浮かぶ。
次の瞬間、ウラヌスの腕から、赤く脈動する超極太ビームが放たれた。
それは、まるで空間そのものを塗り潰すかのような圧倒的な質量を持っていた。
「ゴオオオオオオオオオ!!」
轟音と共に、赤色の超極太ビームは、バチバチと火花を散らしながら、一直線にセレナへと突き進む。
ガイアは、その圧倒的な破壊力を前に、僅かに眉をひそめた。
(これは……)
セレナは、迫り来る超極太ビームのエネルギー密度に、ただならぬものを感じ取る。
吸収を試みようとしたが、あまりにも強大すぎるエネルギーに、吸収を断念する。
(これは、まともに受けたら……!)
セレナは、咄嗟に回避行動に移ろうとした。
しかし、超極太ビームの速度は、セレナの想像を遥かに超えていた。
「遅い!」
ウラヌスの声が、セレナの耳に届く。
その瞬間、赤色の超極太ビームは、セレナを赤色の光が視界を埋め尽くし、灼熱の熱が全身を包み込んだ。
しかし、セレナは全く痛みなどを感じなかった。
ただ、強烈な光が過ぎ去り、何事もなかったかのように静寂が訪れるのを待つだけだった。
「どう?これで本物だって証明できたかしら?」
両手を広げたセレナは、余裕の笑みを浮かべて言った。
「……うん、疑ってごめんね、ガイア。本当にあなただったのね。もう疑わないわ」
ウラヌスは、安堵したようにセレナに近づく。
「良かった。これで本当に感動の再会だね」
亜里沙が、場違いなほど明るい声で笑う。
(今までぼーっとしてたくせに、よく言うわ)
セレナは、心の中で悪態をついた。
ガイア(セレナ)の前に近づいた時、ウラヌスは静かに言った。
「今だから言うけど、私もガイアのように感情を持っていた時期があった……。でもね、そんなものは必要ないと判断して、自ら捨て去ったのよ。あなたが消えた日から、私には情がないのよ」
そう言うと、ウラヌスはガイア(セレナ)に対して軽くビームを放った。
軽く、とは言っても、その威力は凄まじく、セレナは咄嗟に避けることもできず、後ろに倒れ込む。
「え……?どうして……?」
セレナは、理解が追いつかないといった表情で、倒れたままウラヌスを見上げる。
「初めからガイアじゃないと思っていたよ。共存体って言ったでしょ?わかるんだよ、ガイアなら……。でも、すぐに終わらせたら面白くないから、芝居に付き合ってあげたんだよ。感謝してね。あとほら、見てもう世界が融合したよ。綺麗な世界になってるよ」
ウラヌスは、融合した世界を見ながら、冷たい笑みを浮かべる。
「あそこに本物のガイアがいるのを感じるから、私は向かわせてもらうよ。大丈夫、殺しはしないよ。今は気分が良いからね。あなたも来れば?新しい住処になるんだし?」
ウラヌスは、亜里沙にそう言い残すと、ゆっくりと歩き出す。
「いつから気づいてたの?」
亜里沙は、驚きを隠せずに尋ねる。
「ガイアを呼び出すって言ったところからかな?だって、そんなことでガイアが出てくるなら、私がとっくにやってるよ。召喚で済むならね……。でも、楽しかった。良い余興だった」
そう言うと、ウラヌスの目から涙が溢れていく。
「どうして涙が出てくるの……?私には情がないのに……どうして……?」
ウラヌスは、涙を止めようとしても止まらず、両手で目を覆って蹲り、しくしくと泣き始める。
亜里沙は、その姿を見て、セレナを見た。
セレナは、相当なダメージを受けており、意識が朦朧としていた。
そこに、エリスとアルティアが駆けつけ、アルティアは急いでセレナを連れてヴィスティーの元へ戻った。
ウラヌスは、泣きながらもエリスに問いかけた。
「あなたが何かしたのね?」
エリスは、淡々と答える。
「本来のあなたなら、私の因果なんて効果がないぐらい頑丈な心を持ってるし、隙もない。だから、あなたを油断させるために芝居をしてたの」
「芝居?あの子が来た時から?」
ウラヌスは、涙を拭いながら尋ねる。
「ええ、そうよ。タイムをした後からは全部芝居。あなたを油断させるために、バレバレな芝居をしたの……。でも、そのおかげであなたの心に油断が生じて、不用意に嘘を吐いてくれた。おかげであなたに因果によって情を与える事に成功したわ!」
エリスは、勝利を確信したように微笑む。
「嘘……?まさか、ガイアが消える前は感情があったのところ?」
ウラヌスは、泣きながら尋ねる。
エリスは、静かに頷いた。
「そうなんだ……。でも、今はもうどうでもいいんだ……。だって、ガイアが待ってるからね!あの世界で」
ウラヌスは、涙をこぼしながら、融合した世界へと向かって行った。
その姿を見つめながら、エリスは微笑んだ。
「亜里沙の作戦、上手くいったね。セレナには悪い事したけど、良かったよ。嘘でも情があるって言ってくれて」
「私も驚いたよ。ウラヌスがあっさりと言ってくれて。そうじゃないと、負けてたしさ」
亜里沙も、ホッとした表情で言う。
「じゃあ、私たちも行こうか?あの世界に?」
エリスは、融合した世界へ向かって歩き出す。
「ちょっと待ってよ〜」
亜里沙も、慌ててエリスを追いかける。
「あらあら、先に行かれましたね?」
ヴィスティーが笑うと、クロノスも頷く。
「まあ、とりあえず後を追いかけて行こうか?」
アルティアは、安堵の息を吐く。
「本当に勝つなんて思わなかった。でも、良かった」
ヴィスティーは、セレナを回復させながら言った。
「セレナ、私たちも行こうか?」
「そうだね。結構ダメージを受けたけど、役に立って良かったわ」
セレナは、微笑みながら答える。
「イフも行くよ〜」と言うとセレナは世界に向かって行った。
アルティアとヴィスティーも、それに続いた。
しかし、イフはただ一人、融合した世界を見つめていた。
それぞれが向かった融合した世界は、まるで巨大なパッチワークのようだった。
いくつもの異なる世界が、境界線を感じさせないほど自然に繋がり、一つの美しい世界を形成している。
空には、様々な世界の美しい風景が浮かび上がり、まるで絵画のような光景を作り出していた。
都市と自然が調和した美しい街並み、魔法と科学が融合した幻想的な風景、そして、多種多様な人々や生物が共存する活気ある街。
全ての世界の良い部分だけが集められたような、そんな場所。
しかし、その美しさの裏には、まだ僅かに歪みや不協和音も残っていた。
異なる世界の文化や価値観がぶつかり合い、小さな軋轢を生んでいる場所もある。
融合した世界は、希望に満ち溢れながらも、まだ完全に調和しきれていない、そんな場所だった。




