ウラヌス戦後編
ウラヌスは冷徹な目をさらに鋭くし、空間を切り裂く準備を整えた。
次の瞬間、彼女の手から放たれた閃光が、まるで刃のように空間を引き裂き、次元そのものを割く。
裂けた空間の向こう側では、異世界が真っ二つに分かれ、崩壊を始める。
膨大なエネルギーが渦を巻き、破壊の衝動が加速度的に膨張していった。
亜里沙たちの目の前で、それはまるでビッグバンのような爆発的な力となり、あらゆるものを飲み込もうとする。
バリアが軋みを上げ、表面には無数のひびが走った。
「——っ!」
亜里沙は息を呑む。
次の瞬間には、砕け散ったバリアの破片が光の粒となって宙を舞い、爆発の波動が彼女たちを包み込もうとしていた。
しかし、その刹那——
「終わらせるわよ。」
ウラヌスが冷徹に言い放つと、突如、虚空が歪み、ブラックホールが出現した。
それは爆発のエネルギーを完璧に収束させ、破壊の波動を飲み込んでいく。
全てが吸い込まれ、次元の裂け目が閉じたとき、あたりには何事もなかったかのような静寂が訪れた。
「……バリアが持たなかったら、本当に消し飛んでたわね。」
亜里沙は震える息を吐きながら、ウラヌスを見た。
「これはただの力の誇示ではない。エネルギーの使い方を間違えれば、世界そのものを壊しかねないことを、あなたたちには知っておいてもらいたかっただけよ。」
ウラヌスは淡々と言いながら、一歩前に出る。
「言ったでしょ?私はあなた達を消したいわけじゃない。私が望んでいるのは、あなた達と一緒に理想の世界で笑って暮らすことだ。」
その言葉に、亜里沙は目を細める。
ウラヌスの言葉は確かに本心のように聞こえるが、それが歪んでいることも、同時に感じ取れた。
「そもそも、どうしてそんなに笑って暮らせる世界にこだわるの?」
ウラヌスの瞳が、一瞬だけ揺れた。
「あなたに話すことではないけれど、私にはやらなければならないことがあるの。時間はかかったけれど、きっと彼女も喜んでくれるはずよ。」
「彼女?」
亜里沙は疑問を抱きながらも、その言葉に一筋の可能性を見出す。
(もしかして、誰かのためにこんな壮大な計画を……?だとしたら、そこを引っ張ってくれば崩せるかもしれない)
「ふ〜ん、じゃあその彼女のために異世界をめちゃくちゃにしているんだ〜。よっぽど大切な人なのね!」
亜里沙が軽い調子で笑うと——
ズドンッ!!
何十もの隕石が、轟音とともに彼女の頭上へ降り注いだ。
「えっ!?いきなり何!?」
「——彼女のことを笑ったのかと思って、消し去ろうと思ったわ。」
ウラヌスは静かに、しかし確かな怒りを滲ませていた。
その手は次の攻撃の準備に入っている。
「待って!別に笑ってないわよ。そう感じたならごめんなさい!」
亜里沙がすぐさま訂正すると、ウラヌスの手が止まった。
「あなたにはわかる?」
そう言うと、ウラヌスは亜里沙に手をかざし、二人の周囲の空間が歪む。
気づけば、無数の異世界の記憶が駆け巡り、彼女たちはあらゆる世界を通過していた。
「今、通った世界の中で……彼女を微かに感じられるのよ。」
「本当にごめんね。会ったことがないから、何もわからないわ……。」
亜里沙が素直に言うと、ウラヌスは静かに目を閉じた。
「そうでしょうね。世界が一つになれば、あなたも会えるわ。」
「その人があなたに、異世界を一つにしてとか、笑顔が絶えない世界を作ってって言ったの?」
亜里沙の問いに、ウラヌスは間髪入れず答える。
「そうよ。彼女の願いなの……そのために私は計画を立てて、ここまで成功させた。だから、例えあなたでも邪魔はさせないわ。」
「へぇ……じゃあ、その彼女の名前は?」
ウラヌスは淡々と答えた。
「ガイアよ、私とガイアは共存体なの」
一瞬、時間が止まったような気がした。
「……ガイア?共存体……?」
亜里沙は呆然とウラヌスを見つめる。
ウラヌスはただ静かに、けれど確信を持って続ける。
「ずっと一緒だったの。私と彼女は……。」
「でも、ガイアは死んだの?それでショックを受けて、この計画を立てたと?……でも、未来に行けるなら過去にも戻れるはずだわ。助けに行けばよかったのに。」
何気なく口にした亜里沙の言葉に、ウラヌスの瞳が細められた。
「……助けに行けるなら、そうしていたわ。」
淡々としたその声には、わずかに感情が滲んでいた。
「何か、助けに行けない理由があったの?」
と、亜里沙は真剣な眼差しで尋ねた。
「さっきも言ったけど、異世界が増えれば、ガイアもバラバラになっちゃうのよ…だから、助けるっていうことは、そもそも異世界をなくさないと意味がないし、きりがないのよ…」
「だから、せめて完成した異世界は、穢れのない良い世界であってほしかったけど、どこも争いや環境破壊とか、何かしらの事が起きて、見るに堪えないのよ。」
「ガイアを復活させ、異世界をなくし、一つの理想の世界を作り、残った者たちとガイアと共に笑って暮らしたいの。」
と、ウラヌスは融合しつつある世界を物憂げに見つめながら言った。
ウラヌスの真意を聞いた亜里沙は、
(やっぱり、ガイア関係から攻めた方が良いかもしれないわね。失敗したら、こちらが一気に不利になる諸刃の剣だけれど、ここに賭けましょう…イフ、聞こえている?もう少ししたら芝居をするわ。セレナも闇の世界で空間を囲み続けるのは大変だと思うけれど、ここで決めるわ。イフ、ちゃんと伝えてね?)
と、テレパシーを送ると、すぐに
(ちゃんと聞いているわ。大丈夫。何をすれば良いのか教えて。)
と返ってきた。
(よしっ!)
「ウラヌスが異世界を自由に行き来できるようにし、管理システムを作ったのも、ガイアを感じるため?」
「当然よ。自由を与えたのは、冒険者ギルドが各地に存在しても違和感がないようにするためと、管理を楽にするためよ。中継局を置いておけば…まあ、結局は一つになれば必要ないのだけれど…」
「そうなのね。でも、そのおかげで暮らしも豊かになったと、みんな感謝しているわ。世間では、ウラヌスのことを英雄とか、真の勇者とか称えていたわよ?」
「そのような事はどうでも良いの。計画さえ達成すれば、私はそれで満足なの。」
と、ウラヌスは亜里沙の方を見ずに、世界だけを見つめている。
「私も、ウラヌスには感謝しているわ。作ってくれて、ありがとうとイフも多分思っているわ。でも、それも計画のためなの?」
と、亜里沙は寂しげに尋ねる。
「悪いけれど、情はないわ。あくまでも、ガイアの代わりにあなたたちを作り、ガイアを復活させるための駒としたの。それ以上でも、それ以下でもないわ。」
亜里沙は泣きそうになるが、ぐっと堪えて
「ウラヌス、私がガチャを使っていたのは知っているわよね?」
と尋ねる。
「勿論知っているわ。なぜあんな事をしているのかはわからなかったけれどね、それがどうしたの?」
と、ウラヌスは少し睨むように亜里沙を見る。
「私って、ガチャで召喚もできるのよ。だから、作って頂いたお礼に、ガイアを召喚しようかと思っているの。今の私は、運命の女神だから、確定ガチャみたいなものよ。どうする?」
(お願い、食いついて!)
と尋ねてみると、ウラヌスは少しため息を吐いて
「そのような事をしなくても、あと少しで会えるのよ…だから、黙って見ていれば良いわ。」
と言う。
(ここで引き下がったら負ける。)
「それでも、すぐに会えるかはわからない。そうだわ、ガイアに『もう少しでちゃんと会える』と伝えておくのはどうかしら?急に目覚めるより良いはずよ。だって、驚くでしょう?急に起こされたら。だから…?」
と、無理矢理召喚するメリットを話すと、ウラヌスは
「それもそうね。少し会ってからでも良いでしょう。誰が蘇らせたかもわかるかもわかるし…では、お願いしても良いかしら?」
と亜里沙の方を見た。
「勿論よ。では、ガチャを出すわね。」
と言うと、亜里沙は杖からガチャマシーンを出し、そこには召喚確定ガチャと書かれていた。
(イフ、よく聞いてね。今からガチャを回してガイアを召喚するから、セレナにそう伝えて。闇の世界を出しているし、幻影でどうにかなるでしょ?)
(うん、一応言ってみる)
とテレパシーを送ると、そこにいるメンバーに作戦を伝える。
イフ「亜里沙から芝居の指示が出たわ。今からガチャでガイアを召喚するから、セレナにガイアの振りをしてほしいって」
と言うが、セレナは戸惑いの表情を浮かべながら
「見た目はウラヌスの中のガイアのイメージを具現化するから良いけど、性格も話し方もわからないし、違和感しかないと思うんだけど…?誰か知ってる人いる?」
とヴィスティーたちに聞く。
クロノス「いや、そもそも聞いたこともないわ…メビウスもそうよね?」
と言うと、メビウスも頷き
「データベースにもないし、相当古い時代の話ね。ヴィスティーはどう?」
ヴィスティーは
「さあ、私が生まれる前のことだからね〜エリスもそうでしょ?」
とエリスを見ると、エリスは
「さっぱりわからないわ…でもするしかないしね。とりあえずドレスを着ておいたら?セレナ?さすがにズボンはまずいわよ」
と言うと、セレナは
「スカートって履いたことないんだよね〜ズボンの上からでも良い?」
と聞くが却下される。
メビウス「さすがにスカートの下にズボンだと違和感あるし、ちゃんと下着一枚でドレスを着た方が良いわよ」
と言われ、セレナは
「え!下から丸見えじゃん。嫌だよ。スースーするし」
と言うが、クロノスが
「まあ、かぼちゃパンツとかスパッツみたいのなら履いていても見えないし、良いんじゃないかしら?すぐに用意させるから」
と言われると、セレナは
「スパッツなら大丈夫かな…」
と少し安心した表情を浮かべる。
すると、クロノスの指示で、数種類のスパッツと長い裾のドレスが運ばれてきた。
セレナは、その中から黒いスパッツと、深い青色の重厚なドレスを選び、急いで着替え始めた。
長いドレスの裾が床を這い、装飾品が光を反射してキラキラと輝いている。
セレナは、ドレスの裾を持ち上げ、鏡の前で何度も回ってみる。
「なんか、落ち着かないな…」
と呟きながら、慣れない長いドレスに戸惑いを隠せない。
しかし、時間がないため、セレナは覚悟を決め、亜里沙の方へ向かう。
クロノスは、長いドレスを着たセレナの姿を眺めながら
「セレナを行かせても良かったのかしら?私の方が適任だったかもしれないわ」
と言うが、エリスが
「クロノスももっと早くに気づけば良いのに。もう行ったし無理よ。遅いわよ」
と笑うと、ヴィスティーが
「まあ、私がセレナにテレパシーで口調など伝えるから、その通りに言えば大丈夫よ〜」
と笑うと、メビウスが
「運命の女神の時のヴィスティーなら、まあ大丈夫でしょうけど、今のヴィスティーの口調はすぐにバレそうね」
と笑う。
イフとアルティアはその様子を見ながら
「あたしたちって、こういう時には何もできないのね」
と笑うと、イフは
「私は中継をしているから忙しいわ」
とスタスタ歩いて行く。
「なんだ、あたしだけが暇人なのか。まあ、亜里沙に何かあればすぐに駆けつけるわ」
とアルティアは笑う。
セレナの準備が出来た事をイフから聞いた亜里沙は、ガチャマシーンの前に立ち、ハンドルに手をかけた。
その瞳は、勝利への確信と、僅かな不安を孕んだ光を放っていた。
「じゃあウラヌス、ガイアを召喚するわよ〜」
と、亜里沙は高揚した声で告げ、勢いよくハンドルを回した。
ガチャマシーンは、まるで生きているかのように唸り声を上げ、内部の機構が回転する音が、空間に不気味な響きを立てた。
そして、眩い光がガチャマシーン全体を覆い始め、周囲の空間を激しく歪ませた。
光は徐々に強さを増し、亜里沙たちの視界を奪っていく。
雷鳴のような轟音が空間を震わせ、稲妻のような閃光が幾度も走った。
その光景は、まるで世界の終末を告げるような、圧倒的な迫力を持って亜里沙たちを包み込んでいく。
そして、光が最高潮に達した瞬間、ガチャマシーンから黒い雲が噴出し、亜里沙たちがいる空間を覆い始めた。
黒い雲は、まるで意志を持つかのように蠢き、空間を歪ませ、重苦しい雰囲気を漂わせた。
上空から、一点の光が差し込み、黒い雲を切り裂くように、眩い光が降り注いだ。
そして、黒い雲が晴れたとき、そこには一人の女性が立っていた。
それは、急いで準備して駆けつけたセレナだった。
しかし、ウラヌスだけは、他の者たちとは違う姿のセレナを見ていた。
長い緑色の髪は、重力に逆らうかのようにふわりと浮遊し、青く澄んだ瞳は、優しさと力強さを湛え、見る者の心を惹きつける。
穏やかな顔立ちは、自然や生命を感じさせるような神秘的な美しさを放ち、身につけている鉱石のアクセサリーは、まるで意思を持つかのように、妖しく光を反射していた。
「ガイア…!」
と、ウラヌスは驚きと喜び、そして僅かな疑念を込めた声で呟いた。
その時、亜里沙は、この戦いに勝機があると確信し、密かに笑みを浮かべていた。




