ウラヌス戦中編
ウラヌスから攻めてくることはなく、ただ融合の時を今か今かと待ちながら、融合中の世界を静かに見つめていた。
アルティアは、ウラヌスを睨みつけながら言った。
「亜里沙、少し時間を稼いでくれないか?ガイドに使った技より威力を高めて、あいつに喰らわせてみせる!」
亜里沙は、どこか呑気な口調で答えた。
「それはいいけど、何もしなかったら向こうも何もしてこないんじゃない?」
「確かにそうかもしれない。でも、まだ融合していない世界が点々と残っている。いつ次の行動に出るか分からない。ここで倒しておかないと、本当に手遅れになる……。とりあえず、向こうで充填してくるから、よろしく頼む」
そう言って、アルティアは少し笑い、ヴィスティー達がいる方へ向かった。
亜里沙は、一人残され、目の前のウラヌスを見つめた。
(え? 今って私一人だよね? ウラヌスが攻撃してきたら、とても防ぎきれないよ? 誰でもいいから来てくれないかな〜? イフでもセレナでもいいからさ)
そう心の中で呟いていると、ウラヌスがゆっくりと振り返った。
「あなたは侵略者で、勇者のはずなのに、随分と情けなくなりましたね。日和ったということですか? 別に無理に私と戦う必要はありませんよ。私は全ての存在を受け入れて救済しますから。あなたも反抗期があったけど、許してあげるから戻ってきなさい。こちらに来て、一緒に世界が一つになる瞬間を見ましょう」
しかし、その顔には笑顔はなく、人形のように冷たい表情で、何の感情も感じられなかった。
(なんか無表情で明るい感じで言われると、すごく怖いな……。人形とか、少し前の3Dゲームのキャラみたい)
亜里沙はそう思いながらも、剣を構えて言った。
「みんなが戦っているのに、私だけあなたの横にいられるわけがない!」
そう言うと同時に、亜里沙は素早く雷をウラヌスに向かって放ち、剣で切り裂こうとした。
しかし、「哀れね……」という一言と共に、空間が歪められ、雷は消え、ウラヌスが亜里沙の目の前に現れた。そして、亜里沙の剣を折り、首を掴んだ。
「あなたは本当に言うことを聞かない子になったのね。私は一度でもお願いをしたことはない……。意味は分かるかしら? 全て命令なのよ。あなたが私の命令に従えないのなら、仕方がありません」
そう言って、ウラヌスは首をさらに締め、亜里沙のエネルギーを吸収し始めた。
「ぐっ……うっ……」
「本気で勝てると思っていたの?」
そう言い放つと同時に、ウラヌスは亜里沙の全身を炎で包み、投げ捨てた。
「アルティアも、ヴィスティーも、エリスも、セレナも、こそこそしないで降伏すれば、救済してあげる。そうでなければ、私の世界から消えなさい」
そう言い放つと、ウラヌスは再び融合しつつある世界に目を向けた。
亜里沙は、全身を炎に包まれたまま、抵抗する力もなく、下の世界へと落ちていった。その時、彼女の目に映ったのは、夕焼け空を背景に飛ぶ一羽のコウモリだった。そして、次の瞬間、セレナが亜里沙を抱きしめていた。セレナは、コウモリ達と協力して炎を消し止めた。
「亜里沙、大丈夫? 生きてる?」
「うっ……。大丈夫、だけど……。なんか力が抜けちゃって……」
亜里沙は座ろうとするが、力が入らず、その場にへたり込んだ。
そこへ、ヴィスティーも駆けつけて言った。
「おそらく、能力を吸われてるわね〜。懐かしのアディントログインAAAAレベル1ね」
ヴィスティーはそう言って笑ったが、エリスは深刻な表情で言った。
「笑い事じゃないよ! どうするの? そもそも普通の攻撃でウラヌスにダメージを与えられないことも、倒せないことも分かったし、もう打つ手はないよ……。まあ、アルティアの一撃がダメージを与えられればいいけど……」
エリスはそう言って、俯いた。クロノスも、諦めたように言った。
「イフが目覚めて、皆で対策を練るしかないな……。相手が悪すぎる。こっちはチームワークが無さすぎる」
(チームなのに、個人的な感情で動いた私も悪いけど、他の者も勝手な行動が多すぎる。と言っても、普通にチームワークが良くても勝てる相手ではないんだけど……)
クロノスはそう心の中で呟いた。
「じゃあ、どうするの? 降参して救済してもらう?」
ヴィスティーがそう言うと、亜里沙は弱々しいながらも、はっきりと答えた。
「勝手なことを言わないで! たとえレベル1になったとしても、私は諦めない。さっきは躊躇したけど、もう時間がない。これがラストチャンスだと思うから、みんなで出来ることを最後までやろうよ。セレナも、私の血を吸ってもいいから、力を貸してよ。イフもなんとか起こすからさ。最後にみんなで頑張ろうよ。それでも駄目だったら、あの世界で笑って暮らせばいいじゃない!」
「血を吸ってもいいの? でも、それでもいける保証はないよ」
セレナがそう言うと、亜里沙はゆっくりと立ち上がり、ヴィスティーに向かって頭を下げた。
「ヴィスティーさん……。運命の書を貸してくれませんか?」
「何をするの?」
「ヴィスティーさんなら見えていますよね? 私が何をしようとしているか」
「まあね〜。でも、保証はないよ?」
「はい! でも、ヴィスティーさんが止めないということは、可能性はあるということですよね? 私は無能力者になったけど、最後まで足掻いてみせます」
その時、魔闘気を全開にしたアルティアがやって来た。
「亜里沙、ちょっと待って! もう準備できたから、ちょっと倒してくるよ」
亜里沙は、運命の書を受け取り、アルティアに言った。
「アルティア、止めても無駄ですよね? せめて私をウラヌスの近くまで連れて行ってくれませんか? ワープするんですよね?」
「へぇ〜、よく知ってるね。そのつもりだよ。一緒に行く? 危険かもしれないけど」
「はい、お願いします!」
亜里沙の瞳には、何かを覚悟したような、力強い光が宿っていた。
「分かった。じゃあ、ちょっと亜里沙を連れて行くよ」
アルティアはそう言うと、空間を歪め、一気にウラヌスの目の前までワープした。
「待たせたな。別に待ってないか?」
「いいえ、お待ちしていましたわ。あなたには、ガイドの衣装と体を破られていますから。気に入っていたのに」
ウラヌスはそう言って笑った。
「へぇ〜、あんたも気に入ったりするんだ。何も興味ないかと思っていたのに。でも、その余裕もこれで終わりだよ。次で決めるからさ!……とその前に、亜里沙は離れてて」
「あら? レベル1なのに戻ってきたの? 即死よ、あなた?」
「いや、あんたの相手は私だから」
アルティアはそう言って、ゆっくりとウラヌスに近づいていった。魔闘気で空間を作り出し、ウラヌスとアルティアを囲んだ。そして、重力が重くのしかかるが、ウラヌスは平然としていた。
「またこれ? 本当にワンパターンね」
「いや、ここからが本番だから」
アルティアはそう言うと、手の中で圧縮していたエネルギーを一気に解放し、空間を包み込んだ。その圧力は、立っているのがやっとというほどだったが、ウラヌスは平然と「ああ、これで驚かせたつもりですか? ガイドの時と一緒じゃないですか?」
「悪いけど、これは前兆に過ぎない。今からが本番だって」
アルティアはそう笑うと、ウラヌスの目の前に行き、もう片方の手をウラヌスに向かって広げた。すると、さらにエネルギーが空間を包み込んだ。その圧力は、先程よりも遥かに増し、空間を歪ませ、軋ませた。亜里沙の方を向き、アルティアは言った。
「あたしができる限界は多分これだから、これで駄目なら諦めような」
そう言うと、アルティアは全身に空間に放ったエネルギーを取り込んでいった。全身が赤く光り輝き、まるで炎を纏っているようだった。そして、静かに言った。
「ヘルズインパクト」
その瞬間、アルティアは溜め込んだエネルギーを一気に放出した。空間全体が一気に爆発に包まれ、空間を覆っていたものが粉々に砕け散った。アルティアは、ゆっくりと地面に降りていくが、煙の中から腕が飛び出してきて、アルティアを光で包み込んだ。
「……へっ……?」
ウラヌスは全く動じておらず、光の中で同じ大爆発をアルティアに浴びせた。光に包まれたまま、アルティアは地面に凄い勢いで叩きつけられた。
「アルティア〜!!」
亜里沙は涙を流して叫んだ。ウラヌスは、涼しい顔で言った。
「ダメージはないけど、服はボロボロね〜。まあいいけど」
そして、亜里沙に向き直った。
「あなたはどうする? 運命の書を持っているし、私を倒す未来でも見えたかしら? 勘違いしないでほしいのだけど、あなたなんかいつでも消せるのよ? 私が作ったんだから。それでも生かしているということは、ある意味愛があるということを分かってちょうだいね。まあ、良くは分かってないけど」
「あなたはガイドとして、様々な出会いやイベントを経験したでしょう? それなのに、愛も情もないんですか? あなたと関わった人達も、あの世界のために消滅しているかもしれないのに!」
「それってイフによって浄化されたってことでしょ? ということは、悪いことじゃない。消えて正解よ。融合した後に会えたら、悪くなかったって思うんじゃないかしら? あと、情なんてないわ。生まれた時からね。ガイドの仕事も、ただ計画を遂行するために利用していただけ。あなた達の監視も兼ねてね。他の冒険者とかはどうでもいいのよ。あくまで、あなたと捕食者のことだけを見ていたわ……。正直、一緒に行動しだした時は焦ったけどね。本来なら、関わるはずがないはずの2人だったから。あっ、もちろん2人とも私が作ったんだから、一緒にいることはいいのよ。でも、目的のためには2人は別行動が望ましいってこと」
「つまり、あなたにとって一番大事なのは理想の世界だけで、他の世界もそこに住まう存在もどうでもいいと? あなたが生み出したんでしょ?」
「そうよ。だからこそ、私の手で終わらせるの。不完全な世界は。そして、私の手で完璧な理想郷を作るのみ。皆が笑って暮らせる世界が一つあればいいじゃない。世界なんて一つで十分。皆が幸せに生きていければそれでいいのよ。もちろん私はその世界を見守り続けるわ。ちゃんと笑っているかどうかをね」
ウラヌスはそう言って笑った。その時、クロノスが亜里沙の元へやって来た。
「ちょっと待ってほしい。ウラヌスは笑っている人が嫌いだったはずなのに、なぜ皆が笑って暮らせる世界を作ろうとしているんだ? おかしくないか? 見るのも嫌いって言ってたのに?」
「なんだ、失敗作がまた来たの? 私が笑っている人が嫌いなのは、昔のあなたはミスをしてもヘラヘラして、何かあると笑って私の機嫌を取ろうとしていた。そういう笑顔が嫌いだったのよ。別に普通にしてればいいのに、何かあれば笑って話しかけてくる失敗作が嫌いだったの。分かるでしょう、この意味? でもね、あの理想の世界では皆がどんな状況でも笑って暮らすのよ。私の支配下においてね。笑わない者は排除していく。理想の世界は、心の底から笑える者たちにとっては最高の世界になるわ」
「それって、楽しくなくても笑うのか? それって地獄なんじゃ?」
「ふふふ、あら? あなたは得意でしょう? どんな状況でも笑うのは。あなたはどう思う?」
ウラヌスは、亜里沙に視線を向けた。
「私はみんなが本当に笑って暮らせる世界なら良いと思った。でも、今の話を聞いたら無理矢理笑い続けるみたいで嫌だな。人にはね、喜怒哀楽があるから、ただ笑うだけじゃ駄目なんだよ。ウラヌスには分からない?」
「ごめんね、分からない。とりあえず嫌なら私の世界に来なければ良いだけよ。簡単でしょ?」
「どうする? 亜里沙。戦っても勝てない。世界の融合も止められない。運命の書はどういう道を示している?」
クロノスが尋ねると、亜里沙は正直に答えた。
「う〜ん、正直降参したいです。でも、ちょっとタイムってどうですか? 一旦作戦会議をしたいです。駄目ですか?」
亜里沙は、ウラヌスに尋ねた。
「………認めましょう」
意外にも、ウラヌスはあっさりと認めた。
「え? 認めるの?」
クロノスが驚いて尋ねると、ウラヌスは答えた。
「はい。最後の悪あがき、存分に作戦会議して下さい。お待ちしています」
そう言うと、ウラヌスは亜里沙達を送り出した。
亜里沙とクロノスは、重い足取りでヴィスティー達の元に戻ってきた。亜里沙は、申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
亜里沙「ごめんね、みんな。タイムして作戦会議をすることになったんだ」
エリスは、深い溜息をつきながら、それでも前向きな言葉を口にした。
エリス「いや、謝ることじゃないよ。むしろ、ラストチャンスをもらえただけラッキーだと思わないと……。って言っても、勝算はないけどね」
ヴィスティーは、首を傾げ、いつものように冷静に尋ねた。
ヴィスティー「それで、何か考えはあるの?」
そこへ、満身創痍のアルティアが、それでも毅然とした態度で立ち上がってきた。
アルティア「あたしにもできることがあれば協力するよ」
セレナは、自身の腕をさすりながら、覚悟を決めたように言った。
セレナ「私も血が飲めたら、結界でも何でもできることをするよ」
クロノスは、目に涙を浮かべ、それでも必死に言葉を紡いだ。
クロノス「ウラノスの前では、微力ながら協力するよ」
その時、メビウスが静かに姿を現した。
メビウス「じゃあ、私も協力させて」
クロノスは、驚きと安堵の表情を浮かべた。
クロノス「メビウス、来てくれたのか?」
メビウスは、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
メビウス「ごめんね、色々と後始末をしていたから遅くなって。でも、事情は分かってるし、惜しみなく協力させてもらうよ。非力だけどね……。最悪、またループさせたらいいしね」
メビウスが冗談めかして笑うと、ヴィスティーは冷静に訂正した。
ヴィスティー「多分、それは無理よ。もうループも通用しない。だってもう認識されたからね、ウラヌスに……」
メビウスは、肩を落として言った。
メビウス「冗談だって。和ませようと思って言っただけだって。状況は圧倒的に不利だしさ……。というか、クロノスもだろうけど、正直戦うのに抵抗があるんだよね……」
クロノスは、俯き、涙を堪えながら心情を吐露した。
クロノス「うん、分かるよ。ウラヌスはなんだかんだ英雄だし、尊敬してたんだ。正直、殺しておいて言うのもおかしいけど、生きてて良かったと思ってるし、今からでも共存できるならとか、戦わない未来があればそこにいたい……」
メビウスは、悲しそうな表情を浮かべ、遠い記憶を辿るように語り始めた。
メビウス「ごめんね。ウラヌスを昔から知っている者からしたら、英雄で憧れの存在だったからね……。いくら計画のためだったとはいえ、私に異世界を託してくれたのも嬉しかったし……。冒険者ギルドに下っ端から下積みして、ガイドまでなったのも驚きと共に嬉しさもあった。私と一緒に働いていたんだって、知らないところで……」
クロノスは、涙を拭い、決意を新たにしたように顔を上げた。
クロノス「ごめん、しんみりして。でも大丈夫、裏切るとかはないから……。私、ウラヌスって組織を作って、ずっとウラヌスの生まれ変わりを探してたし、界族のみんなをまとめてヴァルクアって組織にして管理もしてた。メビウスの考えたイベントのために隊員を出したりもしてた。情もあったんだけどさ、この騒ぎでもう全滅してるんだ……。だからさ、恨みもあるし、昔の思い出もあるけど、やっぱり倒さないと駄目な存在だと思ってる」
メビウスは、覚悟を決めたように言った。
メビウス「私も管理システムに関わってる職員とか逃がそうとしたけど、それも難しいって分かったから、私のいた本部にできる限り集めてる。その内消えるかもしれないけどさ、少しでも長く生かしたいから」
アルティアは、少しでも空気を和ませようと、いつもの調子で言った。
アルティア「いや、そこの職員は理想の世界でも生きられるんじゃないか? 悪くないなら」
メビウスは、苦笑いを浮かべた。
メビウス「確かにそうかもしれないけど、もしもがあるからね」
ヴィスティーは、楽観的な口調で状況を分析した。
ヴィスティー「それに、ここでウラヌスさんを倒しても手遅れ感はありますね〜。だって、取り込まれた後だし」
その時、静かにイフが立ち上がった。
イフ「亜里沙、私も力貸すよ。最後なんでしょ?」
亜里沙は、驚きと喜びの表情を浮かべた。
亜里沙「えっ! イフ、起きたの? 良かった。もう全然起きないから心配したんだよ。迂闊に起こせないし……」
イフは、力強く頷いた。
イフ「これでみんな揃ったよね?」
みんなが頷くと、イフは尋ねた。
イフ「それで、何か作戦はあるの?」
亜里沙は、決意を込めた表情で言った。
亜里沙「イフも起きたし、みんながいれば勝てるよ! でも、戦って勝つんじゃなくて、なんとしてでも勝つってこと。勝負に勝てばいいの。私もできれば、ウラヌスにも本当の救済を与えたい。だって、私もイフもウラヌスがいなかったらいなかったわけだし、恩義もあるんだ」
メビウスは、亜里沙の真剣な眼差しを見つめ、確認するように尋ねた。
メビウス「直接会うのは初めてだけど、勝算があるってことよね? しかも、ウラヌスも救えるの?」
亜里沙は、満面の笑みで答えた。
亜里沙「うん、みんなが協力してくれればね!」
作戦会議は、広大な草原の真ん中で行われた。地平線まで続く緑の絨毯の上で、各々車座になり、亜里沙の言葉に耳を傾けていた。周囲には、既に都市の痕跡はなく、ただ風が草を揺らす音だけが響いていた。
亜里沙は、皆の顔を見回し、ゆっくりと口を開いた。
亜里沙「私たちの目的は、ウラヌスを倒すことだけじゃない。彼女を救うこと。それが、私の最後の願いなんだ」と覚悟を決めていた。これから作戦会議が始まろうとしている。




