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0.はじまり
背中に強い衝撃を受けた瞬間、痛みはなかった。
胸をえぐり突き出た鋭い剣の切っ先を思わず見つめる。
それがゆっくりと引き抜かれ、溢れ出る血を受け止めようと思わず両手を広げる。
しかし、受け止めきれないほど噴き出した血が地面へと零れ落ちていく。
膝から力が抜け、地面へと倒れ込む。
月の光を遮るように目の前を暗い靄が掛かっていく。
これは…なに?
何が起きたの?
暗くなっていく世界にあがくように地面を這う。
だめ…だ。
僕は…帰らな…くちゃ…いけ…ないのに。
僕はもう一度彼女に会わなくちゃいけないのに。
君を傷つけて泣かせた。
ごめんなさいって言えなかった。
子どもでいたくないってあがいて…そのくせ誰よりも子どもだった。
婚約破棄なんて…嘘だから。
本当は…。
君のこと大好きだよ。
目を開いているはずなのに、目の前が真っ暗になった。
深い深い闇が…世界を覆う。
愛しいレーネ。
ああ…僕のシャルレーネ。
君にもう一度会えるなら。
君にもう一度触れられるなら。
僕はなんだってできる。
なんにだって……なってみせるさ。