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7.お家焼肉サイコー!からの寝落ちた日

「おじゃましまーす」

「おー、スリッパ使うならそれ履いて」

「ん、ありがと」


 なんか、スマートさが増したよなぁ。いや、社会に出れば成長はするけどさ。今更ながら私とは気遣いが段違いかも。


「よいしょ」

「手、洗うなら左横の引き戸な。タオルは替えてあるから」


 今日は、金曜日。仕事帰りに待ち合わせをしてスーパーで食材を買い込み修の城へやってきた。


「修らしいというか予想を裏切らないなぁ」


 手を洗う場所もスッキリしており無駄な物がない。おそらく鏡の裏の収納にしまっているんだろうけど、そこさえ整頓されているのが見なくても分かる。


あ、そうだ。


「服、汚すの嫌だから替えていい?」

「おー、そこ、内側鍵もかかるぞ」


 今朝、焼肉をしないかと連絡がきた際に汚れていい服持って来いとあったのだ。確かに匂いもつくしねとルームウェアをカバンに放り込んだのよ。


「なんか、ゆるゆるだな」

「自覚してるけど、楽でいいわ〜」


スーツは外仕様だもの。


「あ、続き代わるから修も着替えたら?」


 真っ白のシャツなんて油飛ばしたくないよね。なにより私ばかり他人様の家で緩いのも居心地が悪いし。


「そうだな。じゃあタレ頼むわ」

「了解〜」


 私は、広いキッチンに羨ましさを感じながら、長ネギを薄くスライスして水に晒す。


「あ、レモン忘れてなくて良かった」


 搾り器まで近くに置いてあったので、レモンを絞る。


「私は、濃いめが好きなんだけど修は平気かな」


 晒した葱の水を切り、そこに多めの塩と胡椒、絞ったレモン汁にごま油を混ぜる。


「ごま油って香りが食欲をそそるわよね」


ないとあるとでは雲泥の差だ。


「あとは、サラダか」


 チョレギサラダをさっと洗い水気を切ってボールにそのまま入れる。巻いて食べるしね。小皿も用意かと思っていたら、修が現れた。


「悪い、シャワーも浴びたわ」


 いや、さっぱりするよね。わかるわ。


「あ、お皿はどれ使って平気?」

「何をいれんの?そこの開きにある。どれでも使っていいよ」


 白い観音開きの棚には綺麗に皿が重なっている。うん、見やすいしお洒落な器ばっかりじゃん。


「はぁ」


 なんなん。給料?支給額の差か?いや、お洒落はセンスが大事よね。


「どうした?」

「なんでもない」


 キョトンとしている君に話をしても、響かないだろう。


「そろそろ焼くか?米も炊けた」

「うん」


急速白米で炊いた米も良い感じ。


「よし、じゃあカンパーイ」

「カンパーイ!お疲れ」


 今週も頑張って乗り切った。月曜も祝日だし、いつもはあまり飲まないが今日は特別だ。なにより焼肉には合うのよね。まぁ、成人前はコーラばっか飲んでいたかも。


「じゃ、まずカルビな」

「あ、タンも」 

「オケオケ」


 ギザギザのホットプレートに肉が並べられていく。うーん、既に美味しそう。


 修が焼いている間に小皿にタレを入れ、あとは待つばかり。


「これ、いい感じ」

「ん、美味しい〜」


 焼き立てのカルビをもらいタレに付けてパクリ。


 甘辛いタレと肉の油が口の中を満たしていく。口が空っぽになる前に炊きたてのご飯も投入する。


──最高なんですけど。


「アチッ、うまっ」


 そうだった。猫舌の修に焼き立ては厳しいものがあるだろう。だが、焼肉って焼いて直ぐに食すのが醍醐味よね。


「次代わるよ」


私ばかり食べるのも悪いしな。


「どうせ熱くてすぐ食えないから

いいよ。ほら、タン焼けたぞ」


 子皿には丸みのある肉がおかれた。今食べたい。すぐ食べたい!


「で、ではお言葉に甘えて」


 置かれた肉に作っておいた塩ダレをたっぷりのせて包むようにして一気に口に入れると、ごま油の強い香りとレモン汁の酸っぱさ、噛めば弾力のある肉。


「やっぱりタン塩しか勝たん」


 焼肉といえばタン塩。それくらい好きなのである。


「見りゃあ一目瞭然だな」


クックと笑う修にも今は苛つかない。だって本当に美味しいだもん。


「野菜も食えよー」

「確かに」


 修の声にそうだったと包む為にチョレギサラダに手を出した。




✻〜✻〜✻



「進捗進捗うるせーんだよ!」

「わかる。かといって残業するとまだ残ってんの?とか言われたりさぁ」


 食べ飲みして二時間後には、二人とも出来上がっていた。


「休みが消えていくと俺、何の為に働いてんだっけ?って思う時あんだよな〜」


 しかも出来上がり度は、修のが上だった。いつも愚痴なんて吐かないし、私の聞き役なのに。


 でも、意外な面を見ても嫌じゃないというか、酔い方も穏やかだなと関心するわ。ってあれ?


スースー


 肘をついて頭を支えていた腕が外れたなと思ったら、寝てる?


「え、本格的に寝てる?ちょっ、修!」


 ゆさゆさしてもムニャムニャ言っているだけで、起きる気配がない。


「今は十時半か。三十分くらいねかしとくかなぁ」


 勝手に帰るにしても、世の中は物騒になってきているし、鍵をかけてもらわないと危ないよね。


「終電までまだ時間あるしな。とりあえずざっと洗っておくか」


 よいしょと立ち上がれば、ふわふわするものの、まだ動けそうなので、皿を回収し洗うためにシンクへ足を向けた。


「あと十分」


 思っていたより早く片付けられたので予定より時間が余った。修はまだスヤスヤ寝ている。


「少し休憩するか」


 ソファに掛けてあったブランケットを修にかけ、私は、脇に置かれていた本を手にとりソファに腰掛けた。


「へぇ、飲み屋で起こる事件の謎ときね」


 どうやら食べ物の描写もかなり出てきそう。ちょっと借りよ。私は、回らない頭で読み始めた。




✻〜✻〜✻



カタン


 なんかさっきから遠くから音が聞こえる。何の音だっけ。


──ん?


「ふぁ!?今何時!?」

「朝の8時過ぎ。おはようございます〜」

「嘘」

「ほんとでーす」


 あと少ししたら修を起こして帰るつもりが、読みながら寝ちゃったのか!


シャッ


「まぶしっ」


 修がカーテンを開ければ、既に明るい日差しが差し込んでくる。


「とりあえず、シャワーでも浴びるか?タオルは置いといた。使い捨て歯ブラシも洗面とこあるから使って」


 遠慮すべきかもだけど、そう言われると、なんか身体がベタベタしている気がしてきた。


「で、ではありがたく使わせてもらうわ」


 今日が休みでほんと良かったとバクバクした心臓を落ち着かせながシャワーを浴びる凛だった。


「ふー、ありがとう。スッキリした。これ、ココア?」

「そ。たまに飲みたくてさ」


 下着は気持ち悪いけど泣く泣く諦めて部屋着で帰宅は厳しいので昨夜の仕事着に着替えた私の前に麦茶と甘い香りの飲み物が置かれた。


 水分大事よねと先に麦茶のグラスに口をつければ、身体が欲していたのか全身に広がる感じがしたが、私はそんな繊細ではないので気の所為だろう。


「食えるならどうぞ」


 淡い焼き物の平皿にはミニクロワッサンが2個のっている。


「中に挟んでも美味いけど、胃がキツイかと思うから。キツかったら残していいぞ」


 なんか、予想以上の至れり尽くせりである。


「昨日、悪い。俺が寝落ちたから帰りそびれたんだろ?」


あ、そのせいでか。


「まぁ、でも寝ちゃったのは私だし。あ、本、借りていい?」


 数ページしか読み進めていなかったが、ほろ酔いの朦朧とした中でも展開が早く面白そうだと感じたのは覚えている。


「あ、それオススメ。ただ美味そうな飯ばっかでるから夜中はやめておけ」

「確かに」


 夜中って無性にお腹空く時あるよね。忠告は有り難く受け取るわ。


 パンは正直、ハードルが高いので、少し湯気が消えてきたカップにそっと口をつけてみた。


「美味しい」


甘さが控えめでミルク感が強い。


「だろ?鍋で作ると上手いんだよね。市販の甘すぎるしさ」


 訂正だ。予想通りではなくて、想像以上にデキる奴じゃん。




✻〜✻〜✻


「じゃ、また」


洗濯したいし、なにより下着が嫌なので朝食をご馳走になり帰宅する事にした。


 駅まで近いからと言ったのに、なんか送ってくれた。こんな奴だったっけ?


「あ、これ」

「何?」

「遅いけど誕生日おめでとう」


 別れ際にミント色の紙袋を渡された。あ、そうだ。葬式とかでバタバタしていて忘れてた。


 子供の頃とは違い、いつしか歳を重ねる事に喜びはなくなった。


「……ありがと」

「ん」

 でも、なんか人に言われると、ちょびっと嬉しいかも。


「ちゃんと食えよ。じゃ、またな〜」


 余韻に浸る間もなく修はにかっと笑い去っていった。


ちゃんと食えって。


「いつから私のオカンになったのかな」




✻〜✻〜✻



「可愛いけどコレ、絶対お高い品よね」


 帰宅し着替えて洗濯機を回して一息ついた時に、今朝もらった小さな紙袋を開けたら、小さなベアのキーホルダーとアクセサリーが入っていた。


良く見ていなかったけど、袋に白く印字されている横文字は鈍い私でも知っているブランド名だった。


 金色のチェーンには、小さな丸い金色のビーズ状の物が一つ通されている。よく見るとそのビーズの輪には石が埋め込まれているようだ。


「保証書にK18ダイアモンドネックレスってある」


え、これって。


「誰かと間違えてないよね?」


 今朝の修の様子を思い出してみるも通常運転だったし、むしろ機嫌が良さそうに見えた。


 ギラギラしたのは苦手だけど、これはチェーンもカットボールではなくボールチェーンでデザインも至極シンプルである。


「こんなのプレゼントされたら修の誕生日、焼き鳥の奢りとかじゃ済まなくなるじゃん」


 過去、ご飯の奢りやちょっと高級なお菓子のやり取りはあったけど、なんか今回は違う。


「念の為、私になのか聞いてみよ」


 やはり、万が一、人を間違えた説が消えない。凛は確認のためスマホで連絡し、間違いじゃないと3回ほど聞いてから、恐る恐るアクセサリーを身に着けたのだった。



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