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4.何故か食べたくなった冬メニュー

「休みはいくらあってもいいけど、どこもカップルやファミリーばっかだよなぁ」


今夜の凛は、やさぐれ社員である。


「分かってる。友達とか予定をいれようと思えばできるけどさ。もう、それすら面倒いのよ」


 動きたくない。頭を使いたくない。やりたくないづくしである。


「なんとかスーパーには寄ったけど、食べたい物もなかったんだよね」


 仕事帰りだと惣菜コーナーや値引きシールが貼られた海鮮丼など、お腹が空いているとカゴにいれてしまうのだが、今夜はどれも魅力を感じなかった。


そう、この状態は危険だ。


「私は、今、非常に疲労している」


 経理の仕事も監査が終わり一段落がついたので気分は悪くないはずだが、何分ストレスが半端なかった。


「胃がやられているんだわ」


小さなガス台には似合わない銀色の寸胴鍋からはグツグツという音と出汁の香りと湯気が立ちこめている。


 あったかい気持ちになるのは何故だろう?


「ん、良い感じかも」


 結局、私は、出来合いの品は買わずに作ることにした。でも、凝った料理をする気力はない。


「美味しそう」


 そこで、今夜はおでんにしたのだ。と言っても具は白滝、蒟蒻に大根、紅生姜入りの厚揚げとイカに昆布と卵である。


「油揚げに入った餅のやつが食べたかった!冬じゃないから売ってなかったのかなぁ。あと牛スジも!」


 私のベストスリーにはいる具が残念ながら買えなかった。


「今度リベンジだな」


 無いものは仕方がない。次回の楽しみにすれば良いのだ。


「本当は、明日のほうが味がもっと美味しいけど待てないから半分食べよ」


 出汁に染った具材は一見パッとしないなとサラダボウルによそいながら思った。


「なんか、あん時に上手く言えたらなぁ」


ふと昼間の仕事を思い出してしまった。


「気にし過ぎて話せない。かといって口を開いて余計な事を発言しちゃったり」


結局、上手くいかないじゃん。


「……要領悪い自分に腹立つ」


自分が嫌いだ。

いや嫌いじゃなくて。

大っきらいだ。


「あ〜、ヤメヤメ。明日から連休なんだし。なにより出来立てを食べるんだ」


小さなコタツになる丸テーブルに熱々のおでんを盛った皿を置く。


「あ、アレも」


 座りかけたが、忘れ物をしたので再び立ち上がり冷蔵庫へ。


「これがあるのとないのとでは雲泥の差よ」


 私が、おでんにプラスする調味料は柚子胡椒である。


「今思えば、子供の時はおでんは今ほど好きじゃなかったな」


 味が薄いというか、パンチがないいうか。


「あの時にこの柚子胡椒の存在をしっていたら、違っていただろうな」


まずは、大根に柚子胡椒を少しつけてかぶりつく。


「熱っ、でも美味しい!」


ピリッとした柚子胡椒と噛んだことにより大根から出た出し汁が口の中に広がっていく。


「うん、火傷した舌は烏龍茶で冷やす。まー、本来ならビールとかサワーのが合ってるんだろいけど外でしかな飲まないしなぁ」


 しかも、この体はアルコールにめっぽう弱い。


「はぁ」


 仕事でのやらかしともう一つ、帰宅した時に気づいたメッセージが私を憂鬱にさせていた。


『休みは返ってくるの?GWは都合つかなくてもお盆には来なさい』


 母親のため息までリアルに聞こえてきそうだ。


「……あそこは、私の家じゃない」


 実家に行くなら仕事をしていたほうがマシだ。


「あ、今日はコレにしようかな」


イライラとしながら、相変わらず塔のように積み上がった本の中から選んだのは。

 

『そして、ゾンビの世界になった』


 なんだか、B級の匂いが漂う題名である。


「なになに、通学中の車内で周りがゾンビになっていき雅美は」


 どうやらホラーらしいが、友情や恋愛も盛り込まれているようだ。


「あんまり興味ない分野だけど、読んでみるか。汁をたらしそう。汚さないようにしないと」


先に危険な白滝を食べてしまおうと、口一杯に頬張る。


「美味しい〜」


白滝は、この歯ごたえが癖になる。


「あぁ、怖すぎて寝れなくなったら嫌だなぁ」


 おでんをつまみながら期待しないで読み始めたこの物語の結末は、実は感動モノだったという事を凛は、まだ知らない。




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