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理不尽だと思うんですが

 結局薬を飲むのをやめてしまった。だがこの睡眠を解決出来ていた期間に私は精神的問題を解決させに動いていた。



「――つまり俺は他者を人生に関わらせすぎていた。他人、他人他人。誰かに認められたい。子供の頃に得られなかった承認欲求や愛情を今になって求めていたのだ。


 それに囚われて数字に固執した。

 他人を信用するな、他人の為に生きるな。他人に頼って何が解決できた。何も解決出来なかったからこうなってる。友人も恋人も家族もいらない。一人だ。一人でいればいい。


 もうあいつもいない。他人の為に生きて不幸になる必要はない。もう怯えなくていいんだ。

 自分が幸せになるために生きればいい。当たり前のことだ。それが許されなかった。でももう違う。他人と関わる必要なんてない。


 ――ただ唯一、作者と読者。クリエイターとファン。そんな関係性があるのならそれだけは例外だ。それは捨てる必要はない。他人への恐怖あれどそれだけは信じたい。捨てたくない」



 自分の問題点を洗いざらい書き出していく。以前から調べていた自分の症状。おかげで治療法含め知識は豊富だった。


 他人は頼れない。頼らない。俺には必要ない。他人にこの精神病は治せない。

 私はいくつかの治療をしながら自分の過去を振り返った。そこで気づいた。


 ――あの男にされた嫌な記憶がまるっきりないことに。他にも家族に言われていた働けという言葉すらもだ。お客さんのことも全て忘れていた。


 毎日毎日殺そう、死にたい、絶対に忘れない忘れてやらないと呟きながら生きていたはずなのに。


 どんなにあの男の名前を叫びながら思い出そうとしても思い出せなかった。思い出せるのはなにかされたらしいということだけ。時間はかかったが少しずつ思い出していく。その度に頭痛と混乱でやめたくなった。


 そしてもう一つ忘れていたことがあった。思い出したくない忘れておけば良かったと思えるような事実。


「おえっ……えっ……」


 涙を浮かべ、嗚咽に耐えながら現実を受け止める。



 ――あの男と同じ人格が自分に備わっていた。さらにその矛先は妹に向かっていた。


 信じたくなかった。けれど自分がそうしたのは自分を守るためだったのだろうと考えた。理解出来ない嫌いな人間を内に飼うことで身近な存在として理解する。そうすることで恐怖を和らげようとしていたのだろう。


 妹に対して口汚く言っていたのがとにかく苦しい。人格否定の言葉を投げていたのが……相手が女ゆえに手加減していたとはいえ暴力を振るっていたのか……あの男同じように……!


「おええぇぇぇぇっ!」



 私は一度そこで手を止めた。受け入れられず寝込んだ。起きてもその事実は変わらない。

 疲れた目を抑えながらため息をついた。


 今まで妹にやさしくしていたのはその罪滅ぼしだとでも言うのか。



 人格がまばらであったことが唯一の救いだ。ずっとあいつと同じ人格だったら……自責の念で自殺するところだった。


 忘れるには理由がある。忘れることで自分を守っていたんだ。



 私はゲシュタルト療法、スキーマ、認知行動療法、各種治療法のテクニックを組み合わせた。この時は自分が子供になったり大人になったり死にそうになったり暴力的になったり、年齢、性格がぐちゃぐちゃに入れ替わって大変だった。


 解離性障害、双極障害、境界性障害などいくつもの精神病が複雑に重なっているため治療は難航していた。






 ――長かった。長い時間をかけた。精神的な問題をいくつか解決し安定にまで持っていった。

 まだ人格部分が勝手に切り替わりコントロール出来ない状態が続いているがうまくいく兆候は見えていた。



 これでまともに創作活動が出来ると思った。睡眠や目の問題はあるがこれまでの知識を使えば先延ばしくらい簡単に対処でき……


「なんだこれ」


 AI。とてもきれいな絵だった。SNSから普段離れていたから気づかなかった。SNSにAIの絵が溢れている。




 だましだまし創作活動を続けたがだめだった。また寝込んだ。昔の思い出が蘇る。プログラマーの友人がこう言ったのだ。


「AI作ってるんだけどさ。絵のAIについてどう思う?」


 まだAIで人間が描くような絵が生成出来るなんて到底思われていなかった時代。私は強くそれを否定した。私の生きる意味が無くなるからだ。


 そしてこうも言った。


「絵を描いている人が楽になるような、手伝いになるようなものならいいんじゃないかな」


 線画つなげたりとか勝手にベタ分けしてくれるとか。AIってそういうのもAIって言うよな。確か。



「貴重な意見の一つだよ。僕らもそれを目指してる」



 ――笑いが止まらなかった。完成品が出てくるのだから。


 私が死なずに踏みとどまっているのは下手くそでも自分の手で描きたいものがあるからだ。自分の人生を否定されたような気がした。


 私の意見なんて所詮一意見。彼が作ったのかどうかも分からない。時代はこういうふうに進むことだろう。


「なんで……」


 やっとみんなと同じように描けるようになると思ったのに。追い求めた普通にやっと……たどり着けると思ったのに。


 暗くなってしまった未来に絶望するがごとく私は椅子に座って泣いていた。神や仏がいるのならなんて酷いんだと中指を突き立ててから襟を掴んで怒鳴り散らかしたいところだ。今度は価値を奪いに来やがったのだから。


 ――そんなに自殺させたいのかよ。




 それでも結局描くことはやめなかった。再起するのに時間はかかったが描く以外にとくに生きる理由もない。動画を見ていてもただ時間が過ぎるだけで何も解決はしない。


 逃げたい自分はいたが逃げた先には何も無いことは分かっている。



 ――自分に語りかけるように言った。もういい。全部お前でいい。

 全部統一する。元々持っていた適材適所という治療イメージなんて上手くいかないと考えた。それに自分が欲しい。


「ようは解決出来ればいい。絵柄、画力を統一出来るようにすればいい」


 私はこれが解離性同一障害、つまり多重人格だとは思っていない。しかし自分というものが統一されていないことは分かる。



 私は私が欲しいと思った。リンゴの実が一つ自分だと叫んだところでそれは十分の一以下の主張でしかない。他の私も私だと言う。それが十人。多すぎる。


 さぎりという名の自分が存在しない。言い換えれば私というさぎりがたくさんいる。自分を自分だと言えない苦しさがあった。

 これを統一出来たのなら、主人格が心の中にずっといた自分であるのなら全部解決する。



 解離性同一障害だと仮定しての治療イメージを統合に切り替えた。統一したくない人格は切り捨てるか眠ってもらう。




 

「やっとだ。まだ不安定かつ統一とまでは行かない。だが画力、絵柄の安定までは問題なく機能するだろう」


 長い治療時間を過ごした私は安堵の声を漏らした。タバコに火をつけ煙を眺めた。


 ――他者を軽視する自分を中心に置いた考え方。


 それを持つのが表に出たことの無い自分の考え方だった。ずっと裏で見てきた他者の悪意や愚かさ。理不尽にもそれで自分はポンコツ化。そんな考え方になるのも仕方なかった。


 私はいろんな自分に言い聞かせるように、もう守る必要はないと語った。




 煙と共にこんな言葉を吐き出した。


「長かったな。ここまでしてやっと普通の人間のスタートラインか。随分と年も取った。まだ二十代だが……

 まともになる。たったそれだけのことが俺にとってはこんなに遠いとはな。それもまだまだ先の可能性が高い」



 私は親のスネをかじっている引きこもりニートだ。だが罪悪感は一ミリもない。



 ――だがまだしなければならないことがある。

 それは完全な一人になることだ。人格の話ではない。家での話だ。


 SNSでさえ鬱や人格切り替えのスイッチになる。

 原因を作ったであろう家族であればなおさらスイッチは変わりやすい。



 一人になりたい。しかし問題がある。


「……金がない」



 貯金などない。外で働く事は前述した通り不可能に近い。であれば絵の仕事は?

 同人は画力、絵柄が未だ安定しない。アナログにすることで少しはマシになったが画力が落ちる。第一俺じゃない。


 イラストであれば完成まで耐えられる。しかしSkebには恐怖がある。いまだ他人に対しての恐怖は抜けていない。SNSに顔を出したくないのもそれが理由だ。


 一人称やしゃべり方を固定するのが面倒というのもある。

 だが少しずつ安定期間が伸びている。


 人格の治療イメージはほぼ全ての統一。たくさんの性格を持つ同一人物にまで押し上げること。そこから一つになってくれればいい。それまでは随分コミカルな人間になってしまうがまぁそれも個性ということで。



 後もう少し。あともう少しで……自由に創作をするという追い求めた夢が叶う。みんなが当たり前に持っているもの。それが手に入るかも知れないのだ。


 全ての根源となったこの家からも出る。あの男が頭にちらつくこの街を出れる。奪われた時間の分、少しくらい楽しいと思う日々を過ごしたい。



 財布の中身を開けると五十円以下の小銭がいくつか入っていた。


「……小学生かっ! くそ……同人で稼いだお金は素材、タバコ、絵に使う周辺機器や本に消えていくからな……」


 ――一人暮らしが出来るのは当分先になりそうだ。

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