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まともに描けない

 私は高校を卒業しフリーターとなった。あの男からの呪縛から解放されたはずなのに心はずっと痛みを感じていた。なぜかは分からない。もういないのにずっと怯えているのだ。



 通信の時と何も変わらない。バイトしてはやめてを繰り返した。

 父が深夜三時に私を呼び出した。



「なんで働けないんだ」

「知らない」


 反抗期を終えた私は少しだけ父に何かを言うことが出来るようになっていた。


「信心が足りないからうまくいかないんだ。寺にも行かなくなって。手も合わせない。仏様のおかげで父ちゃんは借金を返せた。命が助かったこともある。

 だからお前もちゃんと信心しろ。そうすれば全部うまくいく。仏様が助けてくれる」


「……」


 何も言わなかった。無駄だから。むしろ父を否定することで父が壊れてしまうことを恐れた。論破することが正義ではない。そもそもまともに働けない私は父に養ってもらうしかない。


 別の日には母に出来損ないと言われる。祖母が死んで私はその部屋を与えられたが襖のため鍵はない。取り付けることは許されなかった。悪口ばかりだ。



 いつになっても安心できる日々はこない。突然笑い出すことが増えた。親の前で笑う時が一番きつかった。勝手に笑うな。何一つ面白くない。会っただけで笑い始めるな。



「大丈夫? お兄ちゃん」

「あぁ……」


 妹は全部うまくいっている。その対比が心を蝕む。両親が仕事で相手してもらえない部分は同じなのに。少しわがままだが、いや結構わがままではあるがいい子に育っていた。


 妹は知らない。私がどういう子供時代を過ごし、あの男からどういう扱いを受けていたのかを。私が切り替わるという事実を知らない。俺にとって家族というものは家族じゃない。家族なんていない。同居人だ。だが記憶はある。映画の登場人物のようだ。親では無い相手に向かって父さんと呼ぶのは正直……苦しい。


 ――唯一の心のよりどころは作品だった。




 高校生の頃、アニメに出会って以来マンガ、アニメ、ゲームを楽しいと感じていた。つまらない世界で唯一の楽しみだ。


 創作として最初は模写などで楽しむ程度だった。それから高校を卒業してどう生きるかと考えた時、作品関係を仕事にしたいと考えた。



 普通に働く事も視野には入れていた。だが最後の職場でそれは諦めた。職場の女上司から悪い特別扱いを受けたからだ。しかも一人じゃ無い。小学生の時の女子と重なって疲れた。それに自分の中によくない人格がいる。次働いたら刑務所で目を覚ます自信がある。





 大人になってから描こうというのは果たして大丈夫なのかと当時は不安だった。周りを見れば子供の時から描いているのか若いのに上手い人ばかり。


 それでもゆっくりと休みながら描き続けた。

 無職となり家族にいろいろ言われながらも描いた。睡眠は不眠と過眠の時期を繰り返すようになっていた。切り替えによって画力が上がったり下がったり。絵柄も変わった。鬱になればこれまた画力が落ちた。そして落ち込んで逃げる。


 次第に先延ばしが増えていく。描くことに重さを感じていく。何もせずに座ったまま時間が過ぎていくようになった。

 世界が色あせていく。夕日の色が分からなくなる感覚がする。焦燥感に襲われる。誰もせめてなどいないのに。


「だめだ……だめだだめだ……これじゃ、違う……違う違う!」


 責めるような自分が時間の大半を占めるようになる。人格の入れ替わりが高校生の頃のように激しくなった。順調に人生が終わりに向かっていく。

 残像や線のブレで自分の描いた線なのか分からない。解離が激しくなり、高校生の頃のように余裕が無くなっていく。立体が分からなくなる。


 小説をなろうで投稿しはじめた。絵と違って書き続けることは出来たが自分の切り替えによって文体、キャラクターのブレが起こる。意識がうまく保てず文章が言葉足らずになっている。それにすら気づかない。


 視野は狭く、暗く。作った同人のレベルは低すぎて買ってくれた人達に謝りたくなる。自分を保ち続けられない。短い時間で保ち続けられるイラストも変化するようになってしまった。画力が落ちる。評価も落ちる。数字が伸びない。



「どうして、なんで……アタリは一緒なのに……前の絵を見ながら描いてるのに……!


 キャラクターが、死んでる。表情が……どうして、あれ、分からない。表情? 分からない。キャラクターらしく……じゃないとまた……数字が」


 ――必要とされてない。見られてない。バカにされたらどうしよう。見捨てられるっ! 何か間違っていないか。解釈違いだと言われないか。怖い――怖い怖い怖い!


 動悸が激しくなってくる。胸が痛い。呼吸が浅い。うまくいかない。勝手に被害妄想を始める。


「はぁっ、はぁっ……」


 頭が、頭が痛い。手が震える。涙が勝手に出る。小さく丸まって自分の人生と他人を呪った。光の届かない洞窟に閉じこめられているような息苦しさが私を包みこんだ。


「はい。ほにゃらら精神病院です」


 すがった。僕を助けて。他人なんて頼りたくなかったがどうしようもない。長い月日を待たされやっと診察。いろんなことを、ここに書いたようなことを要約して話した。


「発達障害かも知れませんね。試験を受けましょう」

「は、はぁ……」


 それで……いいのかな。

 私は疑っても仕方ないため発達障害の試験を受けた。後日結果を聞かされた。


「発達障害で間違いないと思います。君は空気も読めないし記憶力もないね。ストーリーのやつとかばらばらだし」


 ……そんなこと、どうでもいい。


「それじゃ以上です」

「……以上?」

「はい」

「先延ばしとか」


 今日の先生は苛立っているのが診察室に入ってから見て取れた。早口で急いでいる。待合室に人がすし詰め状態だからだろう。


「リマインダーでも使えばいいでしょ!」


 怒鳴られた。睡眠のことについても聞きたかったが追い出されてしまった。

 以前から渡されていた薬を再び処方される。効果ないって言ったのに増量もなし。これでこの病院の評価がすごく高いのだから笑えてくる。


 帰りの電車。期待して長い時間を待たされてやっと診断を受けられたのに。


 ――他人にすがるからだ。他人を信用するからだ。他人に期待するからだ。だからこんな気持ちになる。


 そんな自分の声は聞こえない。耳を傾けない。


「障害があることを知りたいんじゃない。

 ただまともに描けるようになりたい。それだけなのに。せめて眠気くらい……」


 私はホームのベンチに腰掛け、頭を抱えた。

 なぜ病院に行くのか。それは解決したい問題があるからだ。


 リマインダー? そんなものはとっくにやった。ポモドーロテクニックも、瞑想も、運動も、食事だって炭水化物を抜いたり油を抜いたりいろんな食事回数を試した。心理学を勉強したり脳神経学に手を伸ばしたり翻訳を使いながら海外サイトや論文も読みあさった。意識高い系のものだって試した。


 何の為に……

 僕は……線路に飛び込みたかった。


 死ぬことを大した事だとは思っていない。死ぬことが絶対の悪ではない。自殺でさえ本当に自分の意思なら肯定する。してはいけないなんて誰かが勝手に決めた価値観だ。



 ――まだ死なない。死ぬことを肯定することで寿命を伸ばした。死んだっていい。死ぬという逃げ道は存在していいんだ。だからもう少し。


 別の精神病院へ行った。ここでも発達障害以外全てノータッチ。おそらくこういうものなんだろう。人格の問題は特に。薬がなく稼げない。割に合わないのだ。



 ここで私は前回の反省点を生かした。睡眠を解決したいですとはっきり言うのだ。たった一つに焦点を当てさせる。発達障害以外ノータッチであると分かれば提案すると決めていた。そこから広げていけば全て解決できるかもと思った。


 薬をもらいそれが運のいいことに効いたのだ。だが……


「おえぇぇぇぇっっ!」


 嘔吐していた。薬は効いても副作用がきつすぎた。嘔吐せずとも気持ち悪いの一言二言に尽きる。

「こんなの毎日飲んでられないぞ」

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