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蚊らくり彼女  作者: ようへい
一章 片想い成仏委員会
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File08・ピンクのイヤリング

『やっぱりあの二人は専属のボディガードみたいだねぇ』


 どこか間の抜けた太陽の声を聞くとホッとする。

 上流階級のお坊ちゃんとは仲良くなれる気がしないが、太陽だけは別だ。エリート家系のくせに勉強はいまいちの体力馬鹿で、いかにもゆるい性格のくせに礼儀なんかも弁えている。

 なんというか、ちょうどいい相手なのだ。


 俺はそんな太陽に瀬崎玲於の尾行を頼んでいた。

 図書室のあれこれで疲れ切ってベッドに転がり込んだところで、報告の電話があったのだ。


「バレなかったか?」

『もちろんさ。これでもベテラン調査員だからね』


 たかだか一年程度でベテランも何もないだろ、という突っ込みは胸に納めておく。


 話題を戻すと、仲谷の付き人の一人と言われる瀬崎玲於は無月学院高校の用務員である。といってもそれは表向きの顔に過ぎず、太陽の報告にあった通り、仲谷の専属ボディガードであるわけだ。

 それは雇われ校務員でありながら彼女の傍をずっとうろついていることからも明らかだ。

 そもそも金髪にピアスの学校職員なんて聞いたことがない。そうでなくともお堅い名門校と言われるウチの高校で。


 ただ、その報告内容は少し意外なものだった。


『瀬崎玲於は仲谷椛の家に間借りして、山吹幸子と一緒に住んでいるみたい』

「山吹幸子? あのおさげ眼鏡も一緒にか?」

『うん。聞き込みで分かったけどあの二人、苗字こそ違うけれど姉妹なんだってさ』

「まじかよ。……ていうか姉妹って、あの金髪イケメンってまさか女なのか」

『え、それ本気で言ってる? ボーイッシュ美女って感じで綺麗な人だと思うけど』


 瀬崎の冷淡な目を思い起こす。

 確かに洗練された印象もあるにはあるが、美女というよりは野獣にしか見えない。ライオンとか豹とか。


『まあとにかく、あの人たちは仲谷家の使用人。お守役とかお目付け役っていうより、護衛に近いと思うよ』

「……そうか。まあ、その二人は仲谷の謎を解き明かす鍵になりそうだな。引き続き身辺調査よろしくな」

『はいはーい』


 通話が終わり、スマホを放り投げてベッドに大の字になる。そうして天井の年季の入った年輪を眺めていると、ふと仲谷のことを思い出した。

 おもむろに立ち上がり、デスクの引き出しを開く。


「……あった」


 見つけたのは、片側だけのイヤリングだった。

 仲谷に初めて会ったあのパーティの日、彼女が座り込んでいた階段の踊り場に落ちていたイヤリング。おそらくは彼女のもので、けれど俺はそれをポケットに突っ込んだまま返すのを忘れ、そのまま持ち帰ってしまったのだった。

 そのイヤリングを手に取り目の前に持ち上げる。飾り付けられた薄いピンクの宝石が綺麗で、可愛らしい。


 これを返す機会がないまま時は過ぎ、その一年後、仲谷がうちの学校に入学したと知った時には驚いた。

 だが俺のことなんて覚えているはずがない、そんなふうに思っていた。

 そんな彼女が調査対象だなんてまたひょんなきっかけがあるものだ。

 人の縁というのはそういうものなのだろうか。



 翌日。俺は仲谷椛に再度接触することを決めた。

 依頼人の山本が調査を急かす理由が気にかかる。なんとなく嫌な予感があった。


「随分な変わりようね。最初はのんびりしてたのに。対話のきっかけがどう、とか」


 優吏が嗜虐的な目で俺を見下ろし、毒づくように言った。


 無月学院高校、時は放課後、場所は教室。

 仲谷との接触にあたり、俺は優吏と太陽にサポートを頼むことにした。彼女のボディガードである山吹幸子と瀬崎玲於、この二人を抑えない限りまともな接触ができないからだ。

 優吏はそんな俺の頼みが気にいらないようだ。


「わたしの忠告を無視するからよ。今更慌てるなんて愚図、のろま。転んで足くじけ」


 どうやら調査がのんびりスタートなことを怒っているらしい。


「仕方ないだろ、対話での解決が基本なんだから」

「うわ言い訳とか鬱陶しい、ジメジメする。それでなくても梅雨なのに」

「風呂場のカビを見るような目で俺を見ないでくれ」

「カビに失礼だから謝って」


 ここで我が親友、太陽がカットインしてくれる。


「まあまあ、僕は心が頼ってくれて嬉しいなぁ。優吏も本心では嬉しいんだよね」


 優吏のイジメに耐えられるのは太陽が緩衝材になってくれるおかげだ。

 そうじゃないと俺のプライドはズタズタのぼろ雑巾みたいになってしまう。


「こいつに頼られて嬉しい……? シンプルに気持ち悪いけど」

「どんなシンプルなんだそれは」


 とはいえ優吏が俺にイラつく気持ちも分からないでもない。

 依頼の違和感に一番に気付き、ずっと俺に発破をかけていたのだ。「嫌な予感がする」だなんて、今更感があるのだろう。


「悪かったって。でも嫌な予感ってのは勘に過ぎないし、実際にまだ何か問題が起きたわけでもないだろ」

「当たり前でしょ馬鹿なのそうなの。クライエントに何かあってからじゃ遅いのよ」

「分かった、分かった反省する。でも、だからこそサポートを頼みたいんだってば」


 そう言って俺は観音拝みをしてみせる。


「優吏は山吹幸子、太陽は瀬崎玲於の足止めを。どうぞよろしくお願いします」


 優吏がドン、と机を殴った。今までの経験上、「ムカつくけど了解」という意味が込められている。太陽は「アイアイサー」と陽気な返事をした。

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