エピローグ
この世界にはわたしたちが知らない秘密がいくらだってある。
それはUFOだったり、未来人だったり、地底人だったり、わたしたちみたいな「蚊」だったり。
新しい人類が旧人類の血液を栄養にするなんて、どこかの三流映画みたいだなって思う。
でも志信ちゃんいわく、準備はず~っと進んでいたそうな。世界で最も現人類を殺している生物は蚊で、そんな彼女たちこそが、新しい人類の礎になっているんだそうな。生物の歴史とはそういうものだそうな。
かくいうわたしも新しい人類の礎。これから二度目の受精をするところ。
受精は「ハシラ」なんて呼ばれるそいつと触れ合わなくちゃならなくて、気味が悪いからわたしは苦手なんだけど、人工的な研究があって成り立つ存在らしくって、その研究には人のクローンを使うそうな。
ただ、人の尊厳を侵すな、なんて怒られるものだから、秘匿性の高い個体を用いるんだそうな。つい先日も、そういう個体がやってきた。血を提供してくれたことのある、あの男の人だった。
そういえば、心くんと優吏ちゃんに話そうとして話せなかったことがある。
わたしは、昆虫に感情というものがあるかは知らない。ただ、人の血を吸っている蚊が、血をくれてありがとう、とか、血をとってごめんなさい、とか、そんなことは考えていないと思う。
血をもらうには身を危険にさらす必要があるけれど、その恐怖を感じているかすら怪しい。ただ本能に従って必要な栄養素を求めているだけ。強いて言うなら、そこにあるのは「欲」だと思う。
――そしてそれって、わたしたちもおんなじで。
人の血を飲む罪悪感だったり、子供を育てる責任感だったり、そういうのはあまりなくって、ただただ、血というものに対する「好意」だけがあって。
例えるなら、喉が渇いたから、お水を飲む。それとおんなじ。
血を飲まないと具合が悪くなっちゃうから。ずっと飲まないでいたら私たちは死んじゃうから。だから、飲む。それだけ。……それに何より、血は美味しい。あ、もちろん不味い血だってあるけれど。
……はあ、こういう話って、やっぱりひいちゃう?
だからわたしたちはこれからも、コソコソ、コソコソ、後ろ指をさされないようにこっそり血をすすって、生きていくのだ。
「月麦。お前の番だよ、来なさい」
思ったよりも早く呼ばれた。とても寒かったので助かった。
わたしは志信ちゃんに返事をした。それから質問をした。
「ねえ志信ちゃん、志信ちゃんはわたしのこと、好き?」
「なんだい唐突に」
「ん、なんとなく!」
志信ちゃんは困ったように笑った。
「……そうだな。少なくとも私にとって大切な存在だ」
わたしは満面の笑顔を返した。
想像した通りの返事でつまらなかったけれど、一度こういうやりとりをしてみたかった。わたしもわたしの気持ちを教えてあげることにする。これ以上の返事は期待できないし、時間もないから、ただのひと言。
でもこの言葉はきっと、世界のカラクリの核心だ。
「嘘つき」
志信ちゃんはやっぱり、困ったように笑うのだった。
(終)
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