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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 2 誘惑のケーキを召し上がれ
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Battaglia del Rosario. ロザリオの攻防 i

 怪物(モストロ)の屋敷の玄関先。仮面を付けた女性使用人は、マルガリータの顔を見ると戸惑ったように口元に手を当てた。

 そそくさと一礼すると、マルガリータを置き去りにして奥に消える。

 しばらくして入れ替わりに現れたのはカルロだった。

「チャオ、ガリー。どうしたの?」

 身形(みなり)の良い服装で品良く出迎える。

 差し入れの件について、即座に非難したいのをマルガリータは抑えた。

 相手はいつからとも知れない大昔から生きている怪物だ。

 こちらを騙す機会を狙ってる。感情的になったら負けだわ。マルガリータは自身にそう言い聞かせた。

「聖カテリーナ女子修道院から参りました。マルガリータ・ディ・ジョヴァンニと申します」

 そう他人行儀に切り出し、マルガリータはカーテシーの挨拶をした。

「知ってるよ」

「昨日、ケーキを差し入れしていただきまして。まずはお礼を」

「まあ、君の食べ残しだけどね」

 はははと爽やかに笑って、カルロはマルガリータを屋敷内に促した。

「お茶でも」

「お構いなく」

「あ、ミルクがいい?」

 すでに揶揄(からか)い口調になりかけている。

 負けるもんですか。マルガリータは深呼吸をした。

「ここで結構です。すぐにお(いとま)致しますわ」

「ああ、そう」

 カルロが素直にそう返す。

 勝った。マルガリータは内心で勝ち名乗りを上げた。

 この調子で冷静に対応すれば、(たぶら)かされることもオモチャにされて遊ばれることも無さそう。

「ひとことだけ注意をしに参りましたの。敬虔なる修道女たちをわざわざ誑かしに来るのは控え……」

「ロザリオ、ちゃんと保管してるからね」

 カルロがそう切り出す。

「……え」

 マルガリータは目をぱちくりとさせた。

「忘れて行ったよって前に伝えたよね?」

「あ……」

 すっかり忘れてた。マルガリータは呆然とした。

 信仰が足りないせいではない。絶対。ロザリオが無くてもお祈りはできる。

 微笑するカルロと目が合う。

 まずい、負ける。

 マルガリータは慌てて態度を取り繕った。

「お手数をおかけしました。持って来ていただけます?」

「それがね……」

 深刻な表情でカルロが腕を組む。

「ああいう神聖なものは、僕たちには触れられなくて」

「え……」

「この前お茶を飲んでいたリビングにあるから。ガリー、自分で持って行ってくれる?」

 この前のリビング。マルガリータは頭を僅かに傾け、玄関ホールの奥の方を眺めた。

 結構奥といえば奥の方の部屋なのよね。

 非難の言葉を伝えてさっさと帰るつもりでいただけに迷う。

「例えばハンカチに包むとか。それでも無理?」

 マルガリータの提案に、カルロは首を振った。

「何ならわたしのハンカチを貸すわ。修道女のものなら少しは」

「無理だね。神の力が強すぎて」

 カルロは肩を竦めた。

「触れたら火傷(やけど)する」

 マルガリータは再び玄関ホールの奥を眺めた。

「……分かりました。持って帰ります」

「ごめんね」

 カルロが微笑し屋敷内へと促す。

 促す仕草に確かに品がある。貴族の子弟に成り済ますくらい可能だろう。

 だからといってこんな不埒な怪物に頬を染めるなんて、女子修道院の皆さまもどうかしている。

 玄関ホールから続く紅い絨毯(じゅうたん)の敷かれた廊下を、マルガリータは仕方なくカルロの後に付いて行った。 

「そういえば、昨日の従者の方々は? 見た目は普通の人間だったけれど、あれも死人?」

「あれは生きた人間」

 前方を歩きながらカルロが答える。

「知り合いの芸術家の卵と、貴族の家の五男だよ」

 マルガリータは、ごくりと唾を飲んだ。

「け、契約とか、そういうもの?」 

「そんなの無いよ。僕らを暇を持て余した貴族家の次男か三男だと思っていて、たまに遊びの提案に乗ってくれる」

 マルガリータは、唇をわなわなと震わせた。

 遊びって。

 清らかな女子修道院に偽りの身分で乗り込んで、修道女たちをごとごとく虜にするが遊びって。

 神に仕える者を堕落させて喜んでいるんだわ。悪魔のごとき者たちだとマルガリータは思った。

 見てなさい。

 マルガリータは表情を引き締めカルロの背中を見た。

 ロザリオを取り返したら、その場で神の力において撃退してやる。

 自分から弱点を白状するなんて、カルロも間抜けね。マルガリータは勝ち誇った笑みを浮かべた。

 覚悟するのね。

 リビングまで続く華やかな内装の廊下。

 マルガリータは前方を姿勢よく歩くカルロの背中を睨み付けた。





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