Continua Festa del tè. お茶会はまだ続く i
聖カテリーナ女子修道院。
隼の姿で回廊のある中庭に舞い降りると、カルロは身形のいい青年の姿になった。
周囲を伺いながら修道院長室への廊下をコツコツと歩く。
庭中に四季咲きの野ばらが咲いている。こぢんまりとしながらも見事な景観だ。
マルガリータがこの庭を見たらさぞかし懐かしがるだろうと思うが、カルロとしてはもう修道院に戻す気はなかった。
口説き文句を抜きにしても、本当に向いているとは思えない。
自分で向いていると思っていたのだろうか。
そしてもう一人、遠い過去に恋した人もとても修道女が向いているとは思えない人だった。
そちらは結局、兄の恋人になったのちに屋敷を残して去り、修道女としての人生を選んでしまったが。
「チェ、チェルトーザ子爵」
うしろから呼び止められ、カルロは目を見開いた。
振り向くと、二人ほどの修道女が驚いた顔で立ち尽くしている。
男性が入るのは御法度の女子修道院で、堂々と廊下を歩いているところを見られるのはさすがにまずかったか。
今日はレオナルドもいないし、どうやって誤魔化そうかと思案する。
「修道院長にご用ですの?」
片方の修道女が尋ねる。
「ええ……まあ」
そう答えてカルロは苦笑した。
「弟君なら、今日はお見かけしていませんけど」
もう片方の修道女が周囲を見渡した。
修道院長に用事なら修道院長室だけで済む。
用事の際にまたレオナルドが奥まで入り込んでしまったと思われているのか。
ちょうどいいから乗ってしまおうとカルロは思った。
「そう……なんですか。あのとき以来、ここで信仰についてもっとお聞きしたいと駄々をこねていたので」
二人の修道女は素直に感動したようだった。「まあ……」と声を漏らし、目を輝かせる。
「あのときは確かソレッラ・マルガリータが」
「そうでした。信仰の道について弟君に」
二人は、ほぅっと溜め息をついた。
「今ごろどうなさっているのか……」
「怪物を従えた女悪魔と闘って食われてしまったと噂をお聞きしましたが……わたくしたち、どこかで元気でいらっしゃると信じてますの」
片方の修道女が言う。
「だって同じように怪物に拐われた修道院長は、その後ご無事で戻っていらしたでしょう?」
少しさみしい気分でカルロは曖昧にうなずいた。
実家の兄たちを守るために、女悪魔に食われて死んだことにしなければならないマルガリータのこれから先を思うと、本人は見た目よりもずっと孤独感があるのだろうかと想像してしまう。
だからこそ、一生寄り添ってあげたいとも思うのだが。
「お話は変わりますが。チェルトーザ子爵」
片方の修道女が呼びかける。
「ここのところたびたび修道院長を訪ねていらっしゃる武人のような逞しいお方は、お身内の方でして?」
武人のような……。
カルロは修道院長室の方向を見た。
兄のファウストにほぼ間違いないと思うが、修道女たちにしっかり姿を見られているのか。
男性は御法度の場所だから気をつけてと昔から言い聞かせているのになと思う。
まあ、人のことは言えないが。
「チェルトーザ子爵と同じように毎回ケーキを差し入れしてくださるので、わたくしたち、もしやと話しておりましたの」
修道女たちがなにか期待に満ちたような目で見上げる。
「ああ……ええ。親戚というか」
カルロは答えた。
兄と答えようかと思ったが、それでは当主の跡継ぎしか名乗れないはずの「チェルトーザ子爵」という名に矛盾が出てしまう。
改めてマリア・ロレイナに相談して設定を作るか。
それ以前に、男性禁止の女子修道院にそうたびたび来るなと言われそうだが。
「ご親戚の方ですの……」
修道女が、ほぅっと息を吐いた。
「ケーキのお礼を伝えてくださいます? あちらのお方は、麗しいですけど……近寄りがたくて」
「ええ。伝えておきます」
カルロは答えた。
愛想よくするということをあの人は知らないからなと思った。
以前、レオナルドが持ってくる甘ったるいケーキに困ったさいには女子修道院にとそれとなくファウストと話したことがある。
同じ手に出たなと思った。
もっとも、ファウストの場合はマリア・ロレイナに会いに来る口実でもあるのだろうが。
「では」
カルロは修道女たちに会釈をした。
「無断で奥まで入ったことを修道院長に詫びて帰りますので」
修道女たちに愛想よく笑いかけて立ち去る。
「お気をつけて」
修道女二人が、そう返してくれた。




