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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 12 陰謀の残り香

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Bocca della Verità. 真実を語る口 ii

 後ろ手に縛られたまま、マルガリータは放置されていた古い椅子に座らせられた。

 ガランとした石と煉瓦(レンガ)造りの部屋。

 逃げられないようにか、窓には先ほど元役人の男が釘が打っていた。

 明かりとりの窓から陽光が射し込むが、周囲が鬱蒼(うっそう)とした森なのもあり薄暗い。

 先ほどから(すき)をみては手首を縛った縄が外せないかと腕をねじったりしているが、なかなか外れることはなく縄で肌がこすれて痛みが増す。

 やはりカルロに一緒に来てもらえば良かったのかしらとマルガリータは思った。

 彼らがもしここに駆けつけてくれたら「だから言ったでしょ」と(なじ)られそうだが、それ以前にここを見つけてくれるだろうか。

 教会裁判所の追っ手は。

 放たれていないわけはないと思うが、まだここを突き止めないのか。

 やはり、わたしがなんとかするしか。

 マルガリータはそうと考えた。

 ここに逃亡した罪人がいると、誰かに。できれば教会裁判所の追っ手に知らせられないだろうか。

 先ほど考えたように、いちばん有効なのは狼煙(のろし)だろうか。

 火打ち石さえあれば、あとはたぶん煽って煙が上へ上へと行くように。やったことはないけど、このシミュレーションでいいのかしらと考える。

 元役人の男は、部屋の片隅の床に座り居眠りをしている。

 火打ち石を持っているとしたらこの男の方かしらとマルガリータは思った。

 パオロ司祭は、窓際に座りなにか書面を書いていた。

 なにを書いているのかと思ったが、こんな場合に思いつくのは他国の有力者か懇意にしている貴族に保護を求める書面かしらと思う。


 だとしたら、トスカーナから逃げられてはまずいのかもしれない。


 マルガリータは唇を噛んだ。

「さて、と」

 書き終えたのか、パオロ司祭が書面をていねいに折り封筒に入れる。

 蜜蝋(みつろう)で封をすると、椅子から立った。

「保護を求めるにしても、手土産(てみやげ)くらいなくてはね」

 言いながらマルガリータに近づく。

 屈んでマルガリータの顔を覗きこんだ。

「先ほども少しお話ししましたが、幻覚剤はどこです?」

 マルガリータは、司祭を睨んだ。

「ソレッラ・マルガリータ、幻覚剤はどこです?」

 司祭がもういちど聞く。

 元役人の男が目を覚ました。

 「んん?」と呟いてこちらを眺めると、床から立つ。

「どうしました、司祭さま。娘が逃げようとでもしたんですかい?」

 男がマルガリータの方へと近づいた。

「まあ、逃げようとはずっとしてたようですが」

 パオロ司祭が口の端を上げ笑う。

 バレてた。

 マルガリータはイヤな汗が流れた気がした。

「幻覚剤のありかを聞き出そうとしていたんですが、なかなか。まあ、この方が強情なのは知っていますが」

 パオロ司祭がマルガリータと目を合わせる。

「そんなの、拷問しちまえば早いのに」

 元役人の男が引き笑いをする。

 そんなことさせるものですか。

 マルガリータは必死で男二人を睨みつけて威嚇(いかく)した。

「そう怖い顔をしなくても、ソレッラ・マルガリータ。あなたの信頼する教会裁判所でもひそかに拷問は行われていますよ」

「まあ、一部だけどね」

 男がゲラゲラと笑う。

「う……ウソよ!」

 マルガリータは叫んだ。 

「もしそうだっていうなら、それもあなたたちの息のかかった……」

 グッとパオロ司祭がマルガリータの髪をつかむ。

「きゃっ!」

 マルガリータは司祭の手を振り払おうと首を振った。しかしさらにグッと引っ張られる。

「いたっ! 痛い!」

 首ごと引っ張られて、身体が前のめりになる。

「正義感の強い人間は使いやすくていいのですが、行きすぎると厄介なんですよね。こうしてがむしゃらに歯向かってくる」

「ちゃっちゃと拷問しちゃった方が早いんじゃねえですかい? こんな小娘、拷問までいかなくても服脱がせて辱しめてビンタでもしてやりゃ、すぐ泣きわめいて吐きますよ」

 パオロ司祭の背後で、元役人の男がそう言う。

「な……なにを言っているの?! 非常識だわ!」

 マルガリータは叫んだ。

「どうしましょうかねえ……。平手打ちに関しては、先ほどお前に食らわせられても気丈に睨んでいたではないですか」

 パオロ司祭が答える。

 マルガリータは、二人を睨み付けながらもわずかに後退った。





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