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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 12 陰謀の残り香

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Resti di intrigo. 陰謀の残り香 ii

「なにをするんです! いたっ!」

 異端審問所の役人にうしろ手に縛られ、マルガリータは非難の声を上げた。

 役人といっても「元」なんだろうけどとこの場ではどうでもいいことを考える。

 たしかパオロ司祭の不正に加担してたとして一緒に拘束された人だったのでは。

 彼も裁判を待つ身のはずだ。

 同じように逃げてきたということだろうか。

「うちの信者の方にやめてください!」

 マリオ司祭が止めに入る。

 マルガリータの手首の縄に手をかけ解こうとしてくれたらしかったが、元役人の男に強く振り払われ、地面に肩を打ちつけた。

「マリオ司祭!」

 マルガリータは叫んだ。つい駆けよろうとして前かがみになる。

 手首をきつく縛った縄がギチッと食いこんで、痛い。

 パオロ司祭が、マルガリータの髪をつかんで顔を上向かせる。

「きゃっ!」

 マルガリータはつい悲鳴を上げた。 

「れ……礼儀がなってないのではないですか! パオロ司祭!」

「女悪魔に礼儀も何もあるかね。何ならこのまま元の街に戻って修道院の者たちに面通しして、正真正銘の悪魔として火炙(ひあぶ)りに持ちこんでやってもいいんですよ」

 マルガリータはパオロ司祭を睨んだ。

「わたしの不正も、この女悪魔の魔力で無理やりやらされていたのだと、罪をかぶってもらいましょうか、ソレッラ・マルガリータ」

 マルガリータは唇を噛みしめた。

 そんなことになったら、さすがに兄たちもつらい境遇になるだろう。

 魔女や悪魔の身内と指摘されたところで、ジェルマニアやフランチェなどの北の国ほどの命の危険はないものの、商売は(たた)まざるを得なくなるはず。

「ひ……卑怯だわ!」

「幻覚剤など使って怪物(モストロ)の幻影を見せ逃げおおせるなど、人のことを言えない悪魔じみた所業では?」

 パオロ司祭がそう応じる。

 マルガリータの胸元をつかむと、ドロドロとした怒りを抑えたような顔をグッと近づけた。

「しかしおもしろい幻覚剤だ。医学の心得はあるが、そこまで確実なものは聞いたことがない」

 パオロ司祭が言う。

「修道院の者も野次馬で集まった街の者たちも、みなそろって同じ証言をしているんですよ。サーベルのような牙のある巨大な虎、サバトの牡山羊(おすやぎ)、大きな(わし)(はやぶさ)のような鳥」

 パオロ司祭は眉間にきつく皺をよせた。

「異端審問所が調べたそうです。みなまったく同じものを見たと証言しているそうですよ。ふつうは幻覚剤などその者によって作用は違うものなのに」

 カルロに付いて来てもらえばよかった。

 身勝手だけどそう思ってしまう。今からでも現れて。マルガリータはついそう念じてしまった。

「幻覚剤については、いろいろと使えそうな薬だ。まだ残っているなら、どこに隠しているか吐いてくれませんか、ソレッラ・マルガリータ」

 パオロ司祭が言う。

「そんなものありません! あってもあなたみたいな方に渡すものですか!」

 マルガリータは、パオロ司祭をまっすぐに見て言い切った。

 バンッ、とマルガリータの頬に強い力がかかり、マルガリータの顔は横に大きく揺らいだ。

 異端審問所の男に頬をぶたれたのだと気づく。

「乱暴はしないでくれませんか。密輸を続けるための人質としても、おもしろい薬を手に入れるにしても、使える娘なのですから」

「すいません」

 パオロ司祭に(とが)められ、異端審問所の元役人はニヤニヤと笑いながら謝罪した。

「ゆっくり吐かせましょうか。今のところ追っ手もこの街に来たことまでは気づいていないみたいですし。時間はたっぷりある」

 パオロ司祭が、マルガリータの顔を覗きこむ。

 唇が切れて血がにじんでいたことにマルガリータは気づいた。口の中で鉄の(さび)のような味がする。

「連れてきてください」

 パオロ司祭が道の前方に向けて(あご)をしゃくった。





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