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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 11 甘いものは罪悪

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42/54

Uccello affascinante illuminato da candele. 蝋燭に照らされた魅惑的な鳥

 死人であるモナ・アンジェリカは食事もせず睡眠も取らないとのことだったが、厨房の横にふだん待機している小部屋を持っていた。

「これから、ここでお食事をとらせていただいていいですか?」

 夜の厨房。

 マルガリータはトレーの上に自身の分の夕食を乗せてモナ・アンジェリカに尋ねた。

 以前の屋敷もこの城も、厨房は彼女が手元を見るのに不自由でさえなければよい場所なので、けっこう暗い。

 灯された蝋燭(ろうそく)は、入口のものと調理作業台に一本ずつ。

 (なべ)をかける炉辺の火と、絶やさずにおく種火があるので足元が怖くなるレベルではかろうじてなかったが。

「モナ・アンジェリカにご迷惑はおかけしません。待機所の椅子か調理作業台の(すみ)でなるべくさっさと食べますから」

 モナ・アンジェリカが戸惑ったように首をかたむける。

 「ファウストかカルロのどちらかに聞かなければ」と言いたげな仕草に見えた。

「わ、わたしがどこでお食事をとろうと、わたしの勝手です」

「何してんの」

 厨房の出入口から、甘いテノールの声がする。

 カルロが入口の縦枠に手をかけ立っていた。

 かなり暗い廊下だったはずなのに、手燭(てしょく)もなく来るのはさすがだわとマルガリータは今さらながら感心してしまった。

 怪物(モストロ)って夜目が利くのねとどうでもいいことを考える。

「夕食どきなのに、いないと思ったら」

「こ、これからはここで食事をとるから、そちらはそちらで食べてもらって結構よ。おかまいなく」

 マルガリータは、トレーを調理作業台の上に置いた。

「食事全部?」

 カルロが問う。

「そうよ」

「お茶の時間は?」

「いらないわ。以前のようにファウストとお二人でどうぞ」

 椅子をさがす。少し離れたところに見つけ、マルガリータは運んで座った。

「あのお茶の時間は、女の子がいる方がスタンダードなんだよねえ」

 カルロが言う。

 なにシレッと言ってるのかしらとマルガリータは思った。

 どれだけしょっちゅう女の子連れこんでるのと思う

「僕ら、ガリーに何かした?」

 入口そばの壁で腕を組み、カルロがそう尋ねる。

「な、なにかって。以前からずいぶん失礼なこととか、修道女相手にあるまじきいかがわしいこととか言ってたじゃない」

「それでもすんなり僕らに付いてここに来たから、しばらくは一緒に暮らしてくれるつもりなんだと思ってたんだけど」

 マルガリータは言葉に詰まった。

 確かに修道女として生きるつもりなら、男性たちと同居をすると分かっているここに付いてくるべきではなかったはず。

「当面、身をよせるところがなかったからよ。なるべく早くチビタベッキアの遠縁のところにでも行くわ」

 とっさに出た言葉だが、そうするべきだったと思った。

「チビタベッキアって、ここから何日かかるの。馬車代は?」

 マルガリータは、ますます言葉に詰まった。

「あ……歩いて行くわ!」

「女の子が一人で? 途中で野盗につかまって、あんなことやこんなことされるのがオチだよ」

 あ……あんなことやこんなこと。

 マルガリータは目を泳がせた。

 な、なにをされるのかしら。切り刻まれるとかかしら。それとも焼いて食われるとかかしら。

「あ、んじゃ」

 カルロが調理作業台に手をつく。屈んでマルガリータの顔を覗きこんだ。


「あんなことやこんなこと、僕がしてあげようか」


 マルガリータは椅子ごと後退った。いつの間に近づいていたのか。

 間近に迫ったカルロの微笑した顔が、蝋燭(ろうそく)に照らされて逆らいがたいほど妖しく見えた。

「してあげるってなに。わたしを切り刻むの?! 焼いて食べるの?! やはりあなたたちは残虐な存在だったのね!」

 マルガリータは、首に下げたロザリオをカルロに向けて掲げた。

「父と子と精霊の御名において……!」

「やっぱり面白いなあ。ガリーを選んで正解だった」

 カルロが声を上げて笑う。

「つまり、僕と夫婦とか教会で言われたから怒ってるんでしょ? 言ったろ。便宜上そうした方が説明が面倒くさくなくていいよって」

 分かってて揶揄(からか)ってたのねとマルガリータは顔を熱くした。

「兄さんと夫婦って方がいいなら、教会での言い訳を考えてあげるけど?」

「ど、どっちもだめ! わたしは修道女なの!」

「じゃあ、僕でいいね」

 カルロがそう返す。

 話が通じてない。

 彼らに連れこまれた歴代の女の子たちは、こうして有耶無耶のうちに彼らに取りこまれて行ったのかしらと困惑する。

「早くそのトレー持って、リビングにおいで」

 カルロがそう言った。





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