I dolci sono peccato 甘いものは罪悪 i
遠くから教会の鐘の音が聞こえる。
街の中心地とは森で隔てられた城なので、教会がどこなのか窓からは分からない。
窓から見える景色は、よく手入れされた庭、その先にある大きな門、そしてその向こうにある森。
森の向こうに、来たときに見た細長い塔の林立する街が見える。
森から流れてくる風が、すっきりと爽やかで気持ちがいいとマルガリータは思った。
石造りの壁や床に保温性がなくて、あまり快適な生活には向いていない建物だとカルロは言っていたが、城中に風が通っていく感じがこれはこれで快適だ。
修道院の牢で怪物さわぎを起こしたあとから、修道服はもちろん、ヴェールは着けていなかった。
髪に風が通るのが気持ちいい。
以前は栗色の髪を顎のあたりで切りそろえていたが、今は少し伸びた。
「もうすぐ正午か」
いつの間にか背後にいたカルロが、窓枠に手をかけて外を見る。
背後から少し高めの体温を感じて、マルガリータはどぎまぎした。
怪物も体温あるんだと今さらながら思う。
「お茶の用意しないとね」
カルロは呟いた。
「ガリー、お菓子は何がいい?」
少し身をかがめて、顔を覗きこんでくる。
「わたしは……あの、いえ」
マルガリータは目を泳がせた。
この城の居心地は悪くないのだが、彼らと過ごすのは最近は前にも増して居心地が悪い。
どうにも目線が気になって落ち着かないのだ。
「きょ、教会にお祈りに行くから」
言ってから、そうか教会でできる限り長めの時間を過ごしたらいいのねと思った。
「教会」
カルロが鐘の音のした方角を見る。
「相変わらずだなあ。そんなに教会好き?」
「好きとかそういう問題じゃなくて」
マルガリータは目を合わせずに言った。
「ここの教区教会はどこ?」
「知らないよ」
カルロが答える。
「僕らが知る訳ないだろ?」
そうと続けて肩をすくめる。
それもそうよねとマルガリータは思った。
「教区教会でなくてもいいわ。地元から遠く離れた土地にいる場合は、最寄りの教会へ行くべきってのを教会は推奨してるから」
「神さまって、どこにいてもお祈りしてる姿は見えてるもんじゃないの?」
カルロが微笑する。
「そうだけど、神の家に行くことに意義があるの」
マルガリータは語気を強めた。
この怪物たちといつまで一緒に暮らすことになるか分からないけど、こんな人たちに囲まれて信仰を貫くのは大変だわと思う。
神に仕える意思を強く持ち続けなければ。
「ここからだと、森を出てすぐの教会が一番近いかな。歩きでも森は抜けられると思うけど、馬車に乗って行っていいよ」
カルロが説明する。
「じゃ、教会に行く準備するから、わたし」
マルガリータはその場を離れた。
カルロとは一切目を合わせずに、自室へと向かう。
「御者に頼んでおくよ」
「いらない。歩いて行くわ」
マルガリータはそう答えた。
御者といっても、死人なのだろう。
ここに来るときに乗った馬車のあの御者かしらとマルガリータは思った。
森の中に開けた道を歩いて行く。
越して来るさいに馬車で通った道なので、道幅は広い。
女の子一人で森の中を歩くのは危ないとカルロが何度も馬車を勧めたが、そう鬱蒼としている訳ではない明るい感じの森なので、大丈夫よねとマルガリータは思った。
木の上の晴れた空を見上げる。
少し歩くと、教会の建物が見えてきた。
古くて小さな教会だが、煉瓦の壁が素朴で温かみのある感じだ。
今後しばらくはここに通うことになるかしらと思う。
「えと……」
あたりを見回し、礼拝堂の入口をさがす。
大きな茶色のドアが目に入った。
あそこかなと思い、門から続く短い通路を歩く。
自身の生まれた土地であれば礼拝堂の入口のドアなど普通に親に教わることなのに。土地から離れるとこんなところも手間取るのねと思う。
教会の裏手の方に歩いていく人物が横目に見えた。
ここの教職の方かしら。そう思いそちらを見やる。
司祭服のようなものを着ている。
ここの司祭か助祭か副助祭……それとも読師。遠目では衣装の違いがよく分からないわと思う。
しばらくその人物を見つめる。マルガリータは眉をよせた。
司祭服の人物が、こちらに横顔を向ける。
「え……」
裁判を前にしているはずのパオロ司祭にそっくりな気がした。




