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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 9 女悪魔と怪物の宴

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Banchetto della donna demone e del mostro 女悪魔と怪物の宴 ii

 修道服がはためく。

 かたわらで、カルロがククッと笑った。

「なっ……なに?!」

「いや、いいから続けて。ちゃんとガリーに協力するから」

 少し恥ずかしくなったが、マルガリータは眼下の修道士たちに向き直った。

「お前たち、修道女マルガリータに成りすました女悪魔のわたしに、よう騙されてくれたのう!」

 下まで聞こえてるかしらと心配になる。

 マルガリータは修道士たちの反応を伺った。

「……女悪魔」

「女悪魔だと?!」

 修道士たちが怯える。聞こえてるわねとホッとした。

「修道女マルガリータは、わたしにロザリオで戦いを挑んだので八つ裂きにして食ってやった!」

 マルガリータは声を上げた。

「サ……サタンの部下か!」

「そうか、だからサタンまで現れて!」

 修道士たちが、巨大な虎と追いかけっこしてはしゃぐ牡山羊(おすやぎ)に注目した。

 二匹の怪物は、修道院の屋根から屋根へと跳び移り、すでに建物のかなりの部分を壊している。

「ええ……ええっと」

 マルガリータは二匹の様子に困惑した。

 明らかに本気で遊んでいる。

「そ、そうよ! 女悪魔ガリーはサタンの一の部下! 修道女マルガリータを食って成りすまして……」

「旧約聖書にあるサタンの妻! さては真の名はリリス!」

「サタンの妻リリスだと?! 神よ!」

「……ええと」

 次々と設定をつけ加えられて、マルガリータは戸惑った。

 ともかく乗ってしまえと腰に両手を当てる。

「いかにも。わたしは強大な力を持つサタンの……!」 

「修道士さんたちも、相当混乱してるんだろうなあ」

 一人冷静にカルロが呟いた。

「ともかくわたしと修道女マルガリータは別なの! 女悪魔ガリーがマルガリータを殺して成りすましてたの!」

 即興の芝居など経験はない。

 すぐにセリフのネタが切れて、マルガリータはそう叫んだ。

 虎と牡山羊が修道院の屋根を踏みつけて走り回る。また建物の一角ががらがらと壊れた。

 崩れた壁の石を、虎が前肢で転がしながら追いかける。それを牡山羊が四つ足で追った。

「ひっ」

「神よ!」

 二匹の怪物に周囲を走り回られ、修道士たちは銘々の場で座りこみロザリオを握りしめた。

 グダグダになって、言いたいことがすっかりぐちゃぐちゃだ。マルガリータは頭の中を整理した。

 改めて仁王立ちになり、ふんぞり返る姿勢になる。

「い……異端審問院にも伝えよ! 修道女マルガリータを捕まえてもムダだと! マルガリータの身内は悪魔などと関係はないと言い張るだけであろうの!」

 仕上げにアハハハハと大声で笑ってみせる。

 二匹の怪物が、また塔の一つを壊す。ガラガラと大きな音がした。


「おやめなさい!」


 落ち着いた女性の声が響く。

 崩れた塔の一角に、修道服の女性が立っていた。


 修道院長。


 お元気そうだ。良かったとマルガリータは思った。

 修道院長がこちらを見る。本当は止めたかったというような切ない表情に見えた。

 そんな表情をされたら、バレてしまうではありませんか。マルガリータは心の中でそう返した。

「これは聖カテリーナ女子修道院の院長どの。せっかくお前が疑われるよう事を運んだのに、無事とは憎らしいのう!」 

 マルガリータは声を張った。

「修道女マルガリータを食って成りすましたわたしを見破りおって! 神の力で戦いを挑んでくるとは、こざかしい!」

 修道士たちが一斉に修道院長のいる塔を見上げる。

 成功したかしらとマルガリータは思った。

「兄さん!」

 カルロが声を上げた。

「マリア・ロレイナを頼む。レオナルドはガリーを!」

 巨大な虎が、凄まじい音量の雄叫びを上げる。

 マルガリータは耳をふさいだ。

 虎は、修道院長のいる塔を前肢で叩き壊すと、彼女の服をくわえて摘まみ上げた。

 修道士たちが絶叫する。

「しゅ……修道女を!」

「悪魔に挑んだ尊い修道女を……!」

 マルガリータは、もう一度大きく笑い声を上げてみせた。

「こんな憎たらしい修道女は、地獄に連れ去って食ってやるわ!」

「ガリー」

 カルロが崩れた壁から身を乗り出す。

「もういいだろう、帰ろう。ガリーはレオナルドと一緒に。屋敷の近くの糸杉の林で落ち合うよ」

 そう言うとカルロは(はやぶさ)の姿に変化(へんげ)し飛び立った。

 巨大な虎の方へとまっすぐに飛ぶと、虎の頭部のあたりをめがけて突進する。

「今度は(たか)が!」

「鷹の悪魔か!」

 修道士たちが地べたを腰でこすり後退る。

 隼は、虎の(ひたい)にぐにゃりと溶け一体化した。

 虎の額に、第三の眼のように紅い宝石が浮かび上がる。

 巨大な虎は途端に理性的な表情になると、修道院長をくわえたまま方向転換し、糸杉の林がある方角へと大きくジャンプした。

「ペタ胸さん」

 牡山羊の姿のレオナルドが屈んでマルガリータのいる塔を覗きこむ。

 マルガリータを摘まむと、これまた大きくジャンプして虎の行った先を追った。

 凄まじい風を受け、マルガリータは必死で牡山羊の手にしがみついた。

 眼下にオレンジ色の屋根の連なる街並みが見える。

 建物の大部分を壊された修道院が遠ざかった。





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