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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 9 女悪魔と怪物の宴

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32/54

Banchetto della donna demone e del mostro 女悪魔と怪物の宴 i

 牢の外から、何人かの悲鳴が聞こえた。

 ファウストが大きな虎の姿でこちらに近づいているのだと、それだけで予想がつく。

「……兄さんが来たら、もう止まらないよ」

 カルロが腕を組んでファウストが近づいていると思われる方角を見た。

「いいんだね?」

 そう確認する。

「しつこいわね、いいの」

 マルガリータはロザリオを握りしめた。

 牢の外壁に、巨大な何かが激突した音がする。

 大きな地震だろうかと思うほどに建物が揺れ、牢の壁はガラガラと崩れ落ちた。

 牢の壁面と天井に、青い空が開ける。

 修道院の渡り廊下の屋根に前脚をかけて踏ん張り、おどろくほど巨大な虎が雄叫びを上げた。

 鋭いサーベルのような牙は回廊の柱と同じくらいに太く、なにも知らずに見たら確かに震え上がるだろう。

「ま……前に見たときと大きさが全然違うけど」

 マルガリータは思いがけず困惑した。

「あのときは室内だったからね。兄さんもいちおうその辺は考えたんだよ」

 カルロが答える。

「あれの三倍くらいになった姿が本性だよね」

 レオナルドが面白そうにはしゃぐ。

 それってすごい大きさじゃ……。マルガリータはつい上空を見上げた。

 崩れた壁に手をかけ、修道院の庭を見下ろす。

 予想はしていたが、自身の閉じ込められていた場所が塔のようなところだったと初めて分かった。

 下から吹き上げる風が冷たい。

 庭に何人もの修道士が集まっていた。ファウストの様子を伺おうとしたようだったが、雄叫びの凄まじさに耳を抑えて縮こまっている。

「兄さん!」

 マルガリータの横からカルロが呼びかける。

「ガリーからの伝言は聞いたよね? とりあえず好きなようにやって」

 ファウストが、「ぐる?」と首をかしげる。

「え……分かってるのよね?」

 マルガリータは眉をよせた。

 カルロが「ううん……」と顔をしかめる。

「兄さん、変化(へんげ)してるときは中身ほとんど子猫だから」

「どっ、どういう……」

 マルガリータは戸惑った。

「さ……最低限、人は殺さないでほしいんだけど」

「こういうときは僕がコントロールするのが役目だから、安心して」

 カルロが微笑んだ。

 ガシャーンと大きな音がする。

 巨大な虎の姿のファウストが、別の塔を前肢で積み木のように壊した。

 崩れ落ちた大きな石を前肢で転がして遊んでいる。ゴロゴロと転がった石を追って、庭を駆け始めた。

「怪物!」

「あ、悪魔!」

「悪魔め!」

 気を取り直したのか、修道士たちが声を上げる。一斉にロザリオを掲げると、祈りの文言を詠唱し始めた。

「父と子と精霊の御名において、怪物よ──!」

 ふたたび「ぐる?」と首をかしげたファウストが、今度は前肢で修道士たちをちょいちょいと叩き始めた。

「うわああああ!」

「ひぃ!」

 虎の方は遊んでいるつもりらしいが、姿が巨大なので前肢で軽く叩くだけでも威力はすごい。

 叩かれた修道士は地面に倒れ、残りの修道士たちは散り散りに逃げ出した。

「神よ!」

 何人かの修道士がそう叫ぶ。

「面白そうー」

 レオナルドがはしゃいで身を乗り出す。ぐんっと身体を前のめりにしたかと思うと、黒い牡山羊(おすやぎ)に変化し、修道院の庭に躍り出た。

 みるみるうちに巨大化し、虎の姿のファウストが立ち上がったくらいの大きさになる。

「悪魔!」

「サタンが!」

 修道士たちが腰が抜けたように座り込んだ。

「レオナルド、僕がコントロールするのは兄さんだけだからね! 君は自分で判断してね!」

 カルロが口の横に手を当て、声を上げる。

 レオナルドがこちらに向け手を振った。

 ファウストが「ぐる?」と声を発し、レオナルドの方を見る。

 かがんで修道士たちを見たレオナルドの顔を前肢で殴った。

「なっ……なに?」

「オモチャを取られると思ったんじゃないかな……」

 カルロが苦笑した。

 街の方に目をやると、人々が修道院の周辺に集まりこちらに注目している。

「ガリー、そろそろいいんじゃない? あんまり人が集まっても」

「そうね。あなたたちを(さら)すのが目的じゃないわ」

 マルガリータは答えた。

「僕たちはほとぼりが冷めるまで百年でも二百年でもここを離れていればいいだけだけど、ガリーが心配だよ」

 マルガリータは、崩れた壁に足をかけてその上に仁王立ちになった。

 すぅっと息を吸いこむ。

 

「恐れおののけ修道士ども! 我が名は怪物使いの女悪魔ガリー! 修道女マルガリータは、ここに来る前にわたしが食ってやったのよ!」





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