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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 9 女悪魔と怪物の宴

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Grande tigre in arrivo. 巨大な虎が来る

 ここ数日通ってくれているモナ・アンジェリカが、朝食として置いて行ったサンドイッチ。マルガリータはゆっくりと食べ終えた。

 ポットから冷たい紅茶を注ぎ、コクコクと飲む。

 カップをコトンと石の床に置いたとき、幼い子供の声が廊下に響いた。

 たぶんレオナルドだ。

 先日来たときと同じようにウソ泣きでわんわんと(わめ)き、見張りの修道士たちを困惑させている。

「お姉ちゃんに会わせてよう!」

 また同じ手口なのねとマルガリータは呆れた。

「レオナルド」

 立ち上がり、扉についた格子の窓から廊下を覗く。

 廊下を凄まじい速さで飛ぶ(はやぶさ)が目に入った。

「あっ、お姉ちゃぁぁぁん」

 レオナルドが、見た目だけは非常に可愛らしく泣きじゃくって駆けよる。

「カルロも会いに来たよ。お姉ちゃんが水責めにされる最期のお別れにってぇぇぇ!」

 うわああああんとレオナルドが泣きマネをする。

 マルガリータはついつい冷めた目で見てしまったが、修道士たちはあわてていた。

「さささ最期なんて」

「この前も言ったでしょ。裁判で神に誓いを立てれば釈放されます!」

「その裁判っていつやるの! 全然やらないじゃないかあああ!」

 またもやレオナルドが大声で泣く。

 修道士たちが当惑して口を歪めた。

「まあ……言われてみれば、裁判の日程の知らせもまだないですが……」

「そういや遅いですね」

 顔を見合わせる。

「ほらみなよ。お姉ちゃんは、仕込み針で刺されてコウモリ型の(あざ)をでっち上げられて、全財産とられて火炙(ひあぶ)りにされるんだあああ!」

 仕込み針ってなに。コウモリ型の(あざ)って。

 全財産って。修道女は財産は共有なので個人的な財産とかないんですけど。

 もう意味が分からない。

 マルガリータは眉をよせた。

 天井から急降下した隼が、一人の修道士の腰のあたりを狙う。

「うわっ!」

 修道士が後退った。

 鍵をまとめたキーリングをくちばしで咥えて舞い上がる。頭を軽く振って、数十本のうちから一本の鍵を選び出した。

「カルロ」

 レオナルドが天井に向けて手を伸ばした。

 カルロが選んだ鍵を受けとると、マルガリータの牢の鍵穴に差しこんだ。

 カチッと音がして、牢が開く。

「何でその鍵だって分かったんですか……」

「偶然でしょう。鳥などに分かるわけが」

 修道士たちが口々に呟く。

 常識から大きく外れて賢い動物は、ともすれば不気味な存在だ。修道士たちは隼と金髪の少年を遠巻きにして固まった。

 隼が大きな翼を広げてレオナルドの腕に留まる。

 二人で堂々と牢内に入った。

「ここ、閉めていい?」

 レオナルドが修道士たちに尋ねる。

「は、はい」

 修道士たちがさらに後退った。

「チャオ」

 レオナルドが修道士たちに手を振り、扉を閉める。

 重い扉が、ガコンと音を立てた。

 先日と同じように、カルロが人間の姿に変化(へんげ)し扉の横に立つ。

 修道士たちが牢の前から離れたのを確認して切り出した。

「ガリーが伝えて来たとおり、マリア・ロレイナの救出はまだだけど」

「ファウストは?」

「あとで来るって」

 カルロは答えた。

「救出は簡単にできるのに」

「こっそり救出されるなんて駄目よ。(やま)しいことがあるんだって判断されて、修道院長は立場を追われるわ」

「だからといって」

 カルロは溜め息をついた。

「ガリーが伝えてきた方法じゃ、ガリーひとりで背負うことになるよ? もうたぶん修道院には戻れない」

「わたしが修道女になる決意をしたのは、人のために働きたかったからだもの。修道院長おひとり救えないでどうするの」

 マルガリータは胸元のロザリオを握りしめた。

 正直、不安だ。

 失敗しても成功しても、自分には居場所はなくなるだろう。

 カルロたち怪物(モストロ)の屋敷に乗りこんだときは、まだ女子修道院という帰る場所があった。

 だがもう、兄たちにも会えないかもしれない。

「マリア・ロレイナも反対してた。ガリーがそこまでやる必要はないって」

「お優しい方だもの、そう言うわ。でももう決めたし。カルロは修道院長の安全を考えて差し上げて」

 マルガリータはそう告げた。

「兄さんたちも、これなら今まで通り商売を続けられるんじゃないかと思う」

 カルロが目を眇めて腕を組む。いまだどう止めようかという表情に見える。

「あのね。わたしだって格好つかないでしょ? 神の手足になって人々のために働きたいなんて言っておきながら、尊敬する修道院長に助けられて怪物に助けられて」

 マルガリータは声を上げた。

「我が身を犠牲にしてみんなを救いましたって、修道女として格好つけてみたいの!」

 ベッドに座り脚をブラブラとさせていたレオナルドが、不意に壁の一角を見てニッと笑う。


「ファウスト、来たみたいだね」





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