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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 8 礼拝堂の陰謀

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Falco pellegrino e pecorella in cattività. 隼と囚われの子羊 ii

 古い石の壁によりかかり、カルロは腕を組んだ。

 かたわらの格子のついた窓をチラチラと監視し、人が来ないかどうかを伺う。

「ガリーの兄上たちは大丈夫だよ。今のところ身の危険のあるような目には会ってない」

 カルロがおもむろに切り出す。

「……ガリーの身柄については伝わってたらしいけどね」

 そうと続け、表情を曇らせた。

「どこまで?」

「協力を辞めれば、妹御が密室でどんな扱いを受けるか分からないって。ガリーが無実の罪だということも兄上たちは察してるみたいだ」

 カルロが告げる。

 マルガリータは唇を噛んだ。

「卑怯だわ。神に仕える方々がそろいもそろって。きっと神罰が下るわ」

「それが今すぐならいいんだけどね……」

 明かりとりの窓を見上げ、カルロは肩をすくめた。

 小さな窓から見える空は、晴れていて真っ青だ。白い鳥が高い位置を横切って行く。 

 なぜあれが御使いであってくれないのかと思う。

「結局、わたしの兄さんたちは、今後もずっと不正の手伝いをさせられることになるの?」

「それしかないだろうね。ガリーが(とら)われてる限り」

 カルロが言う。

「おそらくだけど。このさき不正が発覚した場合は、パオロ司祭はガリーの実家に罪を着せるってところまで考えてるんじゃないかと僕は思う」

 マルガリータは青ざめた。

「なにそれ」

 自身の心臓のあたりをぎゅっとつかむ。

「おそらくだけどね。遅くともそうなる前には助けるよ」

 カルロが壁から背を離す。

「それだけ。あとは僕らが動くから心配しないで、ここで彼らに逆らわないで待ってて」

 カルロがレオナルドに目配せする。

「帰るよ、レオナルド」

 レオナルドはベッドに座った格好で脚をブラブラとさせた。

「ねえここ、お茶は出ないの? ケーキは?」

 無邪気にそう問う。

「……そんなの出ないわ」

 マルガリータは顔をしかめた。

「えーっ、酷いところだね。ボク届けてあげようか」

 マルガリータは引いた。

 ここがどこなのか理解できないのだろうか。たしかカルロやファウストよりも歳上と言っていたと思ったけど。

「監禁された人に、レオナルドが何回かやった悪戯(いたずら)だよ。密室なのに金品や食料がいつの間にか増えるんで、みんなびっくりする」

 カルロがそう説明した。

 マルガリータは眉をよせる。

「大騒ぎになると牡山羊(おすやぎ)の姿にわざと変わってみせるんで、みんなさらに怯える」

「イタズラじゃないよ。ボクは監禁されてかわいそうだから親切でやったんだもんね」

 レオナルドが唇を尖らせる。

「ペタ胸さんも大っきなカスタードクリームのケーキ届けてあげるね」

 何の悪気もなさそうな笑みをこちらに向ける。

「ごめんなさい……いいわ」

 マルガリータは顔を歪めた。

 久しぶりに口の中をカスタードクリームと蜂蜜でいっぱいにされた気分になる。

 旧約聖書の時代から悪魔のしわざと伝わっている話って、もしかしてレオナルド。

「大丈夫だよ。牡山羊(おすやぎ)に変われば、みんな逃げるから」 

 レオナルドがあどけない笑顔でこちらを見上げる。

 「怪物(モストロ)と契約した悪魔の修道女」って無実の罪が、下手したら本当になりそう。マルガリータは嫌な汗をかいた。

「アンジェリカに頼んで差し入れを持って来させるからいいよ、レオナルド」

 カルロがレオナルドに近づく。少し屈んで、レオナルドの腰を持ち抱き上げた。

「ガリーの兄上たちも、逃れる方法を考えておくから」

「逃れるって?」

 マルガリータは問うた。

「ガリーがここを逃げたあとは、司祭に買収された異端審問官たちは、やはり背信の修道女だったと公表すると思う。兄上たちもいったんは、この地方の異端審問官の力の及ばない所に逃げた方が」

「ちょっと待って。それじゃ実家の商売は?!」

「しばらくはできないと思うけど、彼らの罪をすべて明るみにして裁きにかけるまでの辛抱だよ」

 カルロがレオナルドの手を引く。

「辛抱って……。カルロは商売を分かってないわ。そんなに簡単に再開なんてできないものなのよ。なにより一度信用を失ったら」

「確かに僕は商売はさっぱり分からないけど。兄妹そろって危険な目に会うよりましじゃないのかい?」

 カルロと目が合う。目線がいつもよりきついとマルガリータは感じた。

 それともこれが猛禽類である彼の本性に近いのだろうか。

「アンジェリカに差し入れを運ばせるよ。伝言があったら彼女に託して」

 レオナルドが床に降り、右腕を差し出す。カルロは(はやぶさ)の姿に変化してレオナルドの腕に停まった。

 レオナルドが扉のそばに歩みよる。

「うわああああん! お姉ちゃん、あとで親友のアンジェリカも来るよ。元気だしてぇぇ!」

 レオナルドがまたウソ泣きを始めた。





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