Congiura della Cappella. 礼拝堂の陰謀 ii
マルガリータは拘束されて修道長とともに教会の外に連れ出された。
屋根の上に隼が一羽留まっている。
カルロだわとマルガリータは思った。
呼びかけようとしたが、修道院長がやんわりと止める。
「いざとなれば、“チェルトーザ子爵” に出張ってもらうつもりだったけど」
こっそりと修道院長が囁く。
「この方たち、伯爵家の名を出しても拘束を強行したのよ。それなりの後ろ楯がいるか、多少の貴族家が口を出してくるのは折り込み済みだったのか」
「たしかパオロ司祭のお父上が貴族出身だとお聞きしたことが」
声をひそめマルガリータは言った。
「まあ教育にお金のかかる司祭だの医師だのとなったら、だいたい貴族か富豪の家系よね」
修道院長が呟く。
「何を喋っている!」
役人の一人が怒鳴る。
屋根の上から見下ろしていた隼が大きくはばたいた。
急降下してこちらに迫ると、役人たちとマルガリータの間に割って入るようにして滑空する。
「うわっ!」
「鷹か?!」
役人たちが後退った。
隼が目の前を飛ぶ瞬間、修道院長がわずかに口を動かす。カルロになにかを伝えたのだろうかとマルガリータは思った。
隼が遠くへ飛び去る。
役人たちは息を吐いた。
「獣が」
修道院長を拘束した縄をグッと引く。
「痛いわね。年寄りになにするの」
修道院長が眉をよせる。
「ちょっ……無礼ではないですか!」
マルガリータは声を上げた。
「このお方はモ……!」
「よろしいわ、ソレッラ・マルガリータ」
修道院長が言う。
「よろしくないです! 無礼すぎます!」
「女子修道院の者なら、修道院長に服従するのが決まりよ。よろしいわね、ソレッラ・マルガリータ」
凛とした声で修道院長が告げる。
マルガリータは言葉に詰まった。
「……分かりました。修道院長」
マルガリータは、口をつぐみ役人たちを睨みつけた。
連行されたのは、川沿いに建つ修道院の一角だった。
ここに異端審問所が主に使う牢がある。
マルガリータは修道院長と引き離され、牢に入れられた。
上部にある小さな明かりとりの窓からいくらか陽光が射しているが、牢の中はひんやりとして薄暗い。
ベッドはあるが、薄い毛布が一枚きり。簡素な木の板にかろうじて頭を乗せる台がある粗末なものだ。
何日ここで過ごすことになるのか分からないが、修道院長も同じような所にいるのだとしたら失礼すぎるとマルガリータは腹が立った。
コツコツ、と何かをつつく音がする。
マルガリータは周囲を見回した。
コツコツ、コツコツと音が続く。
上部の明かりとりの窓だと気づいて見上げる。
ダークブラウンの大きな鳥のようだ。明かりとりの窓から翼の一部が覗き見える。
「カルロ?」
「ガリー」
返事をしてカルロは人の姿になった。明かりとりの窓から、片目のあたりだけを覗かせる。
「すぐにでも助け出してあげたいけど、マリア・ロレイナにもう一つ調べてくれと言われちゃって」
「修道院長は?! ご無事なの?!」
マルガリータは声を上げた。
「しっ」とカルロが口元に指を立てる。
廊下を見張っている修道士が「何だ」と呟く。
マルガリータは片手で口をふさいだ。
「僕もここで話してると、そのうち見つかって騒ぎになっちゃうと思うから」
カルロは下を見下ろしたようだった。
外壁がどんな様子なのか分からないが、ここに連れられて来るときに階段をずいぶん昇らされた。
高い塔のような位置なのかと思う。そんな高さのところに人がいたら、たしかに大騒ぎになりそう。
「マリア・ロレイナは無事だよ。牢に入るのは二度目だから慣れてるってさ」
「二度目?」
マルガリータは声をひそめつつも語気を強めた。
「どういうこと?」
「五十年前、政略結婚を嫌がって逃げ出したあと、お父上に捕まって所有する屋敷の牢に閉じこめられた」
マルガリータは目を丸くして明かりとりの窓を見上げた。
「僕と兄さんが助け出したんで、令嬢が拐われて食われたって話になったのはそこからだと思うけどね」
カルロがクスクスと笑った。
「ともかくここで長話はまずいから、レオナルドを呼んだ」
「……え」
マルガリータは口元を引きつらせた。意味が分からない。
カルロを押し退けるようにして小さな手が覗く。
「ペタ胸さぁん」
レオナルドの声だ。
「な……なにをする気」
「ゆっくりお話するだけだよ。とりあえずは」




